第229話「その男、危険につき」


『敵対勢力と認定。これより排除に移る!!』


 全ての映像が途切れた後。

 丁度駆け付けて着たらしい21機編成、3小隊。

 恐らく中隊規模のNVの群れが空間内部へと突入してきた。

 咄嗟の連携はまったく芸術的。


 AI込みの時間差波状攻撃+面制圧と弾幕と十字砲火がまるで生き物のように有機的にも思える動きでこちらの身体を捉えるべく。


 一点集中。


 相手は防御型のNVを文字通り盾にして背後からの射撃と突撃を敢行しつつ、小型のマイクロミサイルを上空から降り注がせる。


 凡そ、何の建造物も無い場所では弾丸一発当たったとて、死に掛けるはずだが……生憎と此処には神剣が存在する。


 肉体チートと超高精度の従来の予測能力は戻っていない。

 高速で動けたりもしない。


 しかし、神剣の能力と未だ通信ルートを残してある“天海の階箸”とのリンクは健在であり、ヒルコが全力でバックアップしてくれている。


 並みの超人くらには戦える。


 100mを4秒弱で駆け抜けながら突進してくるとは思いもしなかったらしい。


『馬鹿な?!!』


 相手は驚きながらも正確にこちらを追うべく。


 銃口を護衛機の背後から隙間を這わせるように移動させて照準を合わせる。


 銃撃は火薬式とレールガン式の二種類。


 盾の後ろからという事で可動域は限定的だが、それをカバーする為の弧を描く包囲突撃だ。


 こちらの左右にそろそろ他の小隊が展開し切るという時点でどんな回避も不可能となるだろう。


 ヒルコ曰く。

 AIの補正は恐ろしく正確。


 熟練の相手の動きをサポートさせていれば、殆どどんな攻撃も命中させられるはず、との事。


 それは正しい。


 階箸から返って来る6秒前の情報から導き出された回避パターンは数秒で破綻するだろう。


 乱数回避とて相手側からの被弾率が上がれば使用は不可能になっていく。


 正に戦闘は時間制限リミット付きであった。


 3秒後には現行の予測からの銃弾回避は不可能になる。

 だが、互いの距離は50mを切っていた。


 防御用の護衛機は盾を最大展開しながら一定距離を保持しているが、その後ろから銃撃を見舞う有人機は微か食い気味に可動範囲を確保する為、腕が前に出た。


 その刹那、銃火の火元が起爆する。


『何だ?! 爆発した?!!』


 左右の敵NVはこちらの射程内。

 銃撃の網が解けた間隙を縫いながら真正面へ更に加速。


 音速を遥かに超える銃火とて、弾道予測が完璧ならば、威力など露程の価値も無い。


 連携が崩れた一瞬を見逃さず、相手の15m先まで詰めた途端。


 今まで防御に徹してた護衛機がその両肩のシールドを打ち合わせるようにして並べ、更にジェルを展開して壁と為した。


 背後からの銃撃は再開されている。

 こちらを捉えるまで残り2秒。


 AIの補正がこちらの小ささから照準に手間取っていたボーナスタイムもそろそろ終わる。


 標準的な敵NVへの射撃並みに精度を上げて来る前に神剣を勢いの儘に城壁の如き盾へ突き込んだ。


 途端、真正面に存在する接触した護衛機が融解する。


『何だと?!!』


 その最中を抉り抜くようにして躰を回転させながら後方の有人機の真正面に付けた時点で距離4m……しかし、目と鼻の先に―――胸部横に設置された銃口からの弾が撃ち出され。


 だが、構わずにそのアルミ製のレールガン式な散弾を神剣による加速ですり抜けるよう前進し回避した。


 剣そのものを弾丸に見立て、柄部分に仕込んでいたラムジェット推進機関の点火が齎す猛烈な加速は通常人体ならば血の染みになる程だろう。


 その速さはレールガンと比べても遅いが、回避行動へ使うならば十分だ。


 神剣の切っ先に仕込んでいる仕掛け。


 頂点から傘状の空間に対して発生する分子運動制御による個体の瞬間的な昇華が軽いアルミを瞬時に蒸発させていく。


『―――?!!』


 距離0。


 装甲表面を抉りながら頭部を貫きつつ、部隊の壁を突破し、その背後へと抜ける。


 驚愕、呆然。


 だが、AIによる補正有りの射撃すら、味方の誤射をロックする関係上、不可能。


『中尉!!? クッ!!? 軍曹そちらに抜けたぞ!!?』


 重金属を含む有害な煙の爆風に後押しされながら、通路の奥へと続くドローンの1機目を通り抜け様に沈黙させ、そのまま部隊が来た道を突き進む。


 ラムジェットレベルの推進機関の速度は極めてGがキツイ。


 奥歯を噛みしめつつ、自分の物理強度の限界を超えない範囲での加速を維持し、通信を確保するドローンのみを先程と同じように貫きながら飛ぶ。


 すぐに区画の壁の曲がり角などが見えて来るが、構わずに突入。


 進路上にある壁を蒸発、周囲を融解させながら最短距離で見えて来る敵後方7km地点の退路確保用戦力だろう有人機を視界に捉える。


 驚きはしても正確な射撃。


 ソレに対して最小限の機動で回避と見えざる傘の防御を使い分けつつ、減速無しで敵の左肩から脇腹に掛けてを破壊し、通り抜ける。


『ガァッッ?!? こいつ壁をッッ?!!?』


 相手の照準速度と射撃精度は極めて高い。


 だが、AIの補正込みの人間による有機的な射撃陣形とて、対応には限界がある。


 もっと簡単に神剣のチート機能を全開にして戦うという事も出来たが、過信は禁物。


 相手が常識的に絶対物理的に開発不能にも思える武装なんて出して来た以上、それが艦砲ではなく小型機に積まれていたって、おかしくはないのだ。


 自分の手札を晒さず。


 限定的な運用で相手を出し抜くのもこれからの連戦に備えての事。


 相手がオブジェクトに言及した事も通信の傍受から筒抜けである以上、相手もソレに類する何らかの対抗措置を持っている可能性が高い。


 出来る事ならば、最後まで手札を温存出来ればと思わずにはいられないが、それも先行偵察部隊を抜いた後は然して期待出来ないだろう。


 今回の一件はまず最初から月の破壊が目標とされた。

 それが直接的な理由か。

 副次的な理由か。

 それは問題ではない。

 問題なのはソレを行う意思決定が為されたという事実だ。

 相手は核も容赦なく使ってくる相手。


 となれば、相手が保有するオブジェクトすら、存在していたならば出て来ると考えていい。


 だからこそ、今回速攻は無し。

 泥沼の消耗戦を演じなければならない。

 一進一退。

 月は最終兵器でも核でも破壊出来ず。

 更にBC兵器ですらも絶対ではなく。


 侵攻するには膨大な損耗と奥の手を惜しみなく使わなければならない、と判断させてこそ、こちらの勝利と言える。


 魔王が永遠に月を守るなんてのは絵空事。

 先を考えるならば、月の統一。


 もしくは月そのものにUSAを名乗る連中と対等以上の力を与えなければならない。


 あの唯一神の動き次第ではまた卓袱台返しの可能性もあるし、存在を乗っ取る芋虫が竜の国に巣食っている現状、相手の殲滅というのは現実的ではなく。


 侵攻の遅滞と勢力間の均衡を保たせる事を主眼にするのがこちらの計画的には精一杯だろう。


 とにかく時間を作る為の工作を成功させ、人だけでも国家的に協調させる為にはこの時点でUSAからの艦隊攻撃は阻止せねばならない。


 となれば、目指すべきは事態が膠着するまで相手に戦略物資の消耗を誘い、兵站を常に圧迫しての競り合い。


 そこに持っていくまでが勝負だ。


 月面地下国家の再編と戦力の構築は時間稼ぎ無しには不可能。


 相手の諸撃を受ける矢面には自分が立つしかないだろう。


 出せるだけ戦力を出させて真向から拮抗するまで戦い続けられなければ、未来は無い。


 現在、急ピッチで月兎、月亀、月猫の三カ国と周辺国にマンパワーを動員して部隊を作らせているが、戦力としては急造の張りボテ。


 正式な部隊を発足させるまでには今までのノウハウと国家総動員的な力技を使っても数か月掛かるだろう。


 であるからして、損耗させる為にはこの敵の攻撃直後という隙を逃してはならないのだ。


 温存を許さず。

 全てを吐き出させる。

 その為の突撃だった。


(降下した敵輸送船まで直線距離で12km……斜め上に貫通させるか)


 次々に過ぎ去っていく内壁は蜂型のドローンの残骸ばかりが目立った。


 丸いUSA側のはどうやら、後方に置き去りにした先行偵察部隊からの指揮で下がったようだが、こちら側のドローンがいる密集区域に近い為、身動きが取れていない。


 後方からは偵察部隊の半数以上が追撃を掛けて来ていたが、この狭い迷路状の内壁を一直線に駆け抜けているこちらへ追い縋るには速度が足りない。


 彼方側にしてみれば、何かしらの設置型な罠を警戒しない理由も無く。


 無暗に加速出来ない。


(派手に立ち回らないとな)


 鈍色の幾何学模様の奔るSFな壁を神剣で蒸発させながら上層へと進路を向ける。


 相手側もこちらの位置を輸送船側に送っているだろうが、地面の何処から出て来るか、なんて正確に分かろうはずもない。


「まずはこいつの試し切りでもしてみようか」


 背中側に入れていた長物を後ろ手に腰から引き抜く。

 それは長刀だ。

 鞘からして朱塗りならぬ蒼塗りの日本刀。


 いや、そうであったならば、良かったのだろうが……実際の中身はまったく別物。


 1m80cmの刃渡りと8cmの幅を持つブレードを軽く振って鞘を割り取り出す。


(あの半貌ケロイド男……分かってるんだか、そうじゃないんだか……無駄に凝ったもの造ってくれて助かるやら呆れるやら……)


 ブレードはパッと見で日本刀にしか思えないが、よくよく見てみれば、刃紋が無く……それどころか刃が数十層重ねられたような直線的な縦線が一体化した地金には見て取れる。


 前に使ったカッターブレードは使った分だけ下から出して上を叩き折り使う方式だったわけだが、今回のはソレが縦長になったバージョンと考えればいいだろう。


 刃は分厚さと重さはかなりのものだ。


 しかし、それでも精々が50kgに満たない。


 神剣で加速する躰と共に流される刃は風を斬るかのように空気抵抗を感じさせなかった。


 刃毀れや鈍らになったら刃を何かに挟んで横に寝かせるようにして弾き折る事で切れ味を復活させるソレを握り占める。


 地面から上に突き抜ける直前、外套の背部から何処かの戦隊張りのメットが降りてきて、そのまま首筋まで圧着。


 着ていたスーツも全て真空中に対応する為、合間の空気を抜いてピッタリと密着するように吸い付いた。


 地面から神剣が突き抜けた瞬間、数隻着陸していた輸送船の一つの外層スレスレを上空に向けて跳び上がる。


 ほぼ同時に閃いたもう片方の刃が何の抵抗も無く合金製だろう相手の装甲を引き裂いて……何処か重要なケーブルを斬ったらしく。


 輸送船の内部が僅かに小爆発と共に煙を噴き上げた。

 だが、敵も中々にしてちゃんと戦争をしている。


 跳び上がってすぐ目に入ったのは周囲に散布されていたドローンのようにも見える白く丸い何か。


 コレが機雷だと理解したのも束の間。

 爆発が周囲で連鎖した。

 ほぼ輸送艦の全周で破壊が巻き起こる。

 自分達の乗って来た船を使い捨てての一撃。


 神剣の傘では防ぎ切れない部分は外套に仕込んだ魔術によって耐え切る。


 外側への爆発……リアクティブ・アーマーよろしく内部から外部へと外套そのものが起爆して敵側の実体弾を面積の広い布地で弾き返すのだ。


 破れはしない。


 CNTの構築時、ナノレベルで強度を引き上げ、それを更にこちらの肉体を司る細胞を寄り合わせた有機糸と合金の糸で編み込んで、ついでに珪素と重金属のコーティング剤を塗布した特製の代物だ。


 これの内部に無数の薄い合板の層を形成。


 魔術具製造のノウハウで適当に今まで仕入れて来た呪文を仕込んで出来上がり。


 脳裏からの魔術の起動要請もしくは神剣の自動防御用のプログラムに従って、外套は即座にこちらが反応出来ないレベルの攻撃に対して防御用の魔術を選択発動。


 レーザーならば、周囲にガスを発生させて、回折現象を利用して光波を屈折。


 重粒子線や核融合に類するものなら、磁力で曲げ。


 物理攻撃に対しては破れない合金製の布を爆発的な衝撃で外に押し出して衝撃を相殺させる。


 重火器大好きUSAの軍に対しては大抵攻撃を無力化出来るだろう。


 銃の信奉者とは彼らの事なのだから。


 それがレーザー銃だろうが、レールガンだろうが、パルスガンだろうが、ビーム兵器だろうが、歩兵に持たされる火器の火力で打ち倒される事は無い。


 戦車の撃破に使われるような原理的に金属の弾性限界を用いるメタルジェットの本流や艦砲の類は防御が間に合わなければ、防ぎ切れないだろうが、そんな弾を受けてやれる程に遅くないし、神剣の防御層自体はソレをも防ぎ切る。


 こちらの防御特性を相手が割り出して解析するより先に致命的な状況に陥る事は確定的な為、今は然程気にする必要も無いはずだ。


(上空から散弾の雨霰……オレもようやく舞台上か)


 弾ける機雷の最中への火力投射。


 小型ミサイルから散弾から爆雷まで注ぎ込まれる芸術的な威力の集中。


 だが、それもまた上からだ。


 機雷の攻撃は全方位からのものであったので喰らったが、一面からの攻撃で届きはしない。


 相手がこちらを観測出来ない数秒の間はこちらにとってみれば、好都合の準備時間に他ならず。


「さて、解析が終わるより先にコレで何処まで行けるかやってみようか……」


 上空1km地点に数十体の機影を確認したNV達。


 その一斉掃射を見えざる神剣の傘で遮りながら、先程の先行していた部隊の銃撃を破壊して阻止した魔術具を懐に意識する。


 周囲に吹き荒れる物質の蒸発とガスの本流と昇華現象による爆風と原始的な熱量の本流に僅か炙られながら、ソレを脳裏からの要請で起動。


 銀製の指輪が通された麻紐のネックレス。

 込められた魔術の名を呟こうとして―――。


「ッ」


 咄嗟、左側へと半身で避した。

 何かがほぼ真下から打ち上げられた。


 光り輝く光条に目を見張る。


(ビーム? 塵が巻き上がってるとはいえ、何だこの熱量?!! 艦砲並みの!!)


 乱数回避ついでに周囲へ磁力を解き放つ。


 それとほぼ同時に真下から超高速で昇って来た影が軌道を変えられた様子で真空の海へと突き抜ける。


 しかし、同時に不可思議とも思える統制で今まで攻撃し続けていたNV達がソレに対して道を開けた。


(光量子通信は使われてない……既存の電波も……いや、使わなくなったのか!? 何処からだ!!?)


 ザッと視界内で相手が唯一現在のこちらに悟られず使えるだろう通信手段を探す。


 それは爆光の壁の先で行われていた。


(レ―ザー通信!? オレの通って来た穴じゃない。他の場所を経由した形跡?! 掘削型とレーザー通信経由用のドローンの合わせ技か!?)


 遠方の月面地表に向けて放たれたレーザーの光がハッキリと見えた。

 それが途絶えると同時に爆光が治まっていく。


(一杯食わされたな。さっきのはレーザー通信を悟られない為の飽和射撃だったわけだ……この状況で的確な指示を下せる指揮官? 先行偵察の連中……じゃ、なさそうだな)


 NV達がその背部ユニットから炎を噴き出し、ホバーする“人影”に付き従うよう、こちらを囲う陣形を築いていく。


「人型兵器の次は人型サイズの戦闘用アンドロイド? ありきたり過―――」


 思わず皮肉が出掛けたのも束の間。

 さすがに固まった。

 白い霧のような煙幕が周囲に立ち込め始める。


 瞳には一瞬の通過で大量のガンマ線が照射され、全てガスと磁場による誘導で影響を除去した旨のアナウンスが流れている。


『婿殿。今、背後から戦艦並みの大反応が一瞬交差したように見えたんじゃが……』


「オイオイ。USA名乗ってるからってソレはアリなのか。お前ら……」


 思わず愚痴というより呆れた声が出た。


『?』


 今現在、殆どの情報を必要なものに絞って処理しているヒルコに向けて、その映像を送る。


『何じゃ……彼方側のAI積んだ人型インターフェースかや? というか、旧世界者プリカッサーの類だとしても、この反応は……』


 こちらの歴史を知らないヒルコにしてみれば、その反応は最もだろう。


 だが、しかし、こちらは少なくとも世界史94点だ。


「オレが知る限り、USAのお偉いさんでこいつ程に有名なのもいない……」


『何、有名人なのか?』


「ああ、地名になる程にな……国家共同体が人間の脳をチップにして投入してたのはまだ分かるが……恐らくこいつは……“そういうの”じゃない……歴史的、民族的、国家的、アメリカそのものを体現する為に……」


 こちらの前で攻撃を止めた部隊が銃口を向けながらも、その真下からやってきた人影に、付き従っている。


 腕からは巨大なエネルギー放出用の砲口。


 背中からはバックパックような炎を噴き上げるノズルとパイプを剥き出しにして。


 ソレは眼下のこちらを……歴史の教科書に出て来るような表情で、その頬より横の側面に排気口が突き出た姿で……見下ろしていた。


『やぁ、私が誰か。君は知っているようだ』


 通常電波で広範囲に発信される声は相手が口を開いている事も相まって、すぐ傍で本当に話しているようにも聞こえた。


「……アンタでテストの点を稼いだからな。忘れないよ……こんにちわ。


『ああ、御機嫌よう。コレは私を見てきた全ての過去の者達に言っているのだが、私こそが本物だ。そして、私こそがソレそのものだ。後世に作られた偽物でもなければ、この時代に残る技術で再現されたわけでもない。私は独立を勝ち取った“張本人”なのだ。信じられないかもしれないが、ね』


 その流暢な英語と余裕な様子に内心渋くなる。


「わざわざ測量しに来るなんて、いつから月はアメリカの土地になったんだ?」


『……残念ながら、ステイツは月を放棄する事とした。昔は私も農園を経営していたから、惜しく思う。しかし、此処にいる全ての邪悪を、民主主義の敵を討ち滅ぼさなければ……やがて、日の沈まぬ帝国は凋落に喘ぐ事となるだろう。主は言われている……子羊達を導けと……私は私の使命に従って、我が祖国に献身するだろう』


「……此処には此処の礼儀と作法とお前らみたいなのとは無縁の連中が沢山いるんだ。お前らがやってたように現地民インディアンをまた追い落すか?」


『戦争だ。それは理由にはならないが、理屈にはなるだろう』


「いいだろう。なら、やってみるがいいさ。今度は撤退出来なくても文句言うなよ?」


『遠征には慣れている。辺境で戦う事も……我が息子達、怯むな。敵もまた人間……そう、戦えば血を流す人間だ……告げる……宙間騎兵師団の総員を持って、月面地下施設を制圧せよ。我が名、ジョージの名において!! アメリカよ!! 勝利せよ!!!」


 平文での暗号化すらされていない通信が無数に飛び交う。


 USA・USA・USA―――。


 怒涛のように情報の濁流が世界を覆い尽していく。

 ヤンキーの魂に火が灯ったか。

 世界にはこう叫びが木霊した。


―――【我らがワシントンに勝利を!!! ステイツは滅びず!!!】


 敵は確かにアメリカだった。

 それは正しく悪夢だった。


 陸軍大元帥General of the Armies of the United States


 建国者。


 あるいはアメリカを独立させた男。


 ジョージ・ワシントン。


 それが恐らく敵の名に違いなかった。

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