第220話「この並みのエロゲよりシリアスな未来に」
―――――――――?
この体になってからも随分と気を失う事はあったが、此処まで意識が朦朧としている事もあまり無かった。
躰は微かに動くが、そもそも自分がどうなっているのか。
直前の行動が思い出せない。
ぶっちゃけ……二日酔いとかに近いとも思えるような頭痛で思考が纏まらない。
瞼を開けるのも億劫だが、耳は聞こえている様子で慌てた声と僅かに騒がしい声が意識に明確になりながら浸透してくる。
ガダンッと扉が蝶番の外れそうなくらい急激に開かれた音。
それでようやく体が反射的に動いた。
目が開けば、肉体の大半が動かない事に気付く。
いや、そうではない―――。
「セニカ!!?」
すっ飛んできたらしい秘書の顔が白い天井の最中で顔を歪ませていた。
医療用の心電図モニターだの、バイタルを見る機械が周囲には複数配置され、点滴用のパックが10個程天井からぶら下げられ、針がザクザク首元に刺さっている。
「よう……まだ生きてるか? 全員」
「―――馬鹿!! 馬鹿!!! 馬鹿ッ!!!!」
その声に何故か泣かれてしまう。
八の字眉毛は逆になり、今にも胸でも叩かれそうだ。
瞳から零れる滴が胸に染みた。
「今、目覚めたと聞いたがッ!!」
続いて、首を動かして横を向けば、入って来たのはサカマツを筆頭とした面々。
こちらを見て、何故か物凄く顔を歪めた後、女子供は思わず顔を背けていた。
例外はケーマルくらいだろうか。
ヤクシャとシィラが何やらこちらの上にシーツくらいの大きさの布を掛けた。
「……そんなに酷いか?」
「意識は、しっかりしているようだ。だが、大丈夫なのか我々では判断が付かないな。治療は君の協力者。ヒルコと名乗った彼女が派遣した使い魔がやってくれたが……今のところ絶対安静にしていて欲しいというのがこちらの本音だ」
「鏡が有れば、体が見られる位置に持ってきてくれると助かるんだが……もし女子供に刺激が強いって言うなら、他は遠慮してくれてもいいぞ?」
それにケーマルが近衛三人娘を筆頭にエコーズの面々やお付きの二人を外に出るようソッと促した。
残ったのはエオナだけで、少女達が出されている間に横へやってくる。
「……すみませんでした。皇女殿下をみすみす逃してしまい。
その顔は暗い。
だが、苦笑する以外ないだろう。
敵は財団のヤバい方面の相手。
それも恐らくはそいつらが持っていた遺産にも精通している。
時間を超えて銃撃されたりして、即死されるよりはよっぽどマシな状況だろう。
「そんな顔してる暇があったら、次の作戦に備えておけ。情報収集と情報の把握、自分の立ち位置が分かってるなら、出来る事は分かるよな?」
「―――そんな躰になってまでッ!!? 動くつもりですかッッ!!!」
「どうやら随分酷いらしい」
「酷いで済みませんよ……済むはずがない。普通なら死んでいる……いえ、死すらも恐れて近寄らないかもしれない。最初、アンデッドかと見紛いました」
何とか軽口を叩こうと、笑い掛けようとした少女の顔はしかし年相応で感情を抑えられなかった様子で唇を引き結ぶ。
「では、気をしっかりと持って下さい」
ケーマルがサカマツが後ろに下がって、こちらの遣り取りを見ている中、そっと手鏡をこちらの上に持ってくる。
そして、ザッと白布が剥がれた。
「……何だ。もう首と脊髄くらいしか残ってないかと思ったが、上半身と心臓まで残ってるのか。はは……逆に作り物めいて実感が無さ過ぎだ。無感動極まり過ぎる」
こちらの力無い苦笑にサカマツが瞳を閉じて、両手を後ろに組んだ。
「いや、お前らこういう化け物は見た事無いのか? それの首から上がオレになったって考えりゃいいんだよ。そんな顔するな。まぁ、確かに酷い有様だが……オレにとっては最悪から14番目の状態だ」
「強がりにしか思えないとも見えるし、逆にさすが魔王という呆れもある。ですが、女子供に見せていい姿では無い……」
ケーマルが渋く、苦く、安堵の溜息のような、何処かこちらの言動に諦観を含んだような顔をしていた。
「今更だろう。オレの本当の姿なんて見えない方が精神衛生上絶対いいぞ。触手塗れだしな。あ、そういや、オレの腕輪と庇った連中は?」
それにはサカマツが近付いて来て答える。
「彼女は貴様を領域の端まで彼女の部隊と共に運んで力尽きた。今は魔術で治癒させているが、数か月絶対安静との話だ。あの領域に体力と精神力を吸い尽されたような有様で貴様を囲んで持って来た部隊も殆どが昏睡している。幸いに死人は出ていないが、意識が戻るのは当分先だろう。精神的なものが大きいとの話だ。ちなみに腕輪は発見出来なかった」
「……そうか。感謝しないとな」
「簡単に言う。皇女殿下を襲った首謀者だぞ? ヒルコ……彼女の情報と嘆願が無ければ、今頃拷問に掛けているところだ」
「全部、乗っ取ってた奴が悪い。それで納得しろ。それで納得出来ない程、アンタは月兎の公人じゃないだろ?」
「チッ……病人がほざくな」
サカマツが性質の悪い男だと言いたげにこちらを睨む。
だが、その瞳には何処か心配性な光が宿っていて、逆に近親感が湧いてしまい。
思わず本当にクツクツと笑みが零れる。
「その口ぶりからして、どうやら本当に大丈夫なようで……ですが、自分の状態を言葉にして聞いた方がいい。彼女からの診断書を読み上げます。起きたら絶対に伝えるようにと言われているので。分からない単語も多いですが、傾聴寝返れば、閣下」
ケーマルがその豊満な胸元から一枚の診断書らしい折り畳んだ用紙を出して、目を走らせ唇を開く。
「まず、最初に“れんとげん”の520倍程の放射線を浴びたようですが、それは問題ないそうです。主な傷は肉体の自切による体重減少後、変異による防御形態を限界まで維持した事による細胞の器質的劣化に伴う自己崩壊。これに際して胃から下の半身は完全に消滅。全身の生命維持に必要な部位を減らす事で心臓と脳、脳幹、脊髄、それから背骨の一部を保存したのだろうと。上半身が皮と骨に近いところまで絞られたせいで細胞分裂で再生するまでに10日程度必要との事です。栄養剤とエオナ嬢の協力で元には戻るそうですが、脊髄の一部に付けていた“こねくたー”というのが崩壊した時の衝撃で一部の脳が麻痺状態だったせいで完全再生まで能力に制限が掛かるという話です」
鏡の中の自分は確かにそんなのになっていた。
限界まで血肉を削った骨と皮ばかりの死に掛け。
辛うじて上半身は焦げなかったが、それでもゾンビどころかミイラみたいな有様。
下半身は綺麗さっぱり無いし、触手もしばらくはお預けらしい。
あの腕輪も無くしてしまった以上、これからはSF一本で肉体を使う事になるだろう。
「思ったよりも深刻じゃなくて安心した」
「これを深刻ではないと捉える貴方の精神力には脱帽を通り越して恐怖しか覚えませんよ。閣下」
ケーマルが困った奴だと言わんばかりにこちらを見る。
「10日で動けるようになるんだろ? なら、3日もすれば、戦場に立っても問題ないな」
「問題しかありません!? 何考えてるんですか!!?」
エオナが思わずといった様子で叫んだ。
「でも、お前らだって困るだろ? これから、見知らぬ神より強いかもしれない連中が虐殺しに来るって時にオレがいなくちゃ」
「ッ―――」
少女は分かり易いくらいに動揺して瞳を揺らがせる。
「状況をご存じで?」
ケーマルに頷く。
「オレの救出から何日経った?」
「……1日半。そして……後1日半で彼女の言っていた灰の月からの艦隊は到着するそうです。正確には残り36時間前後だと」
仕方ないと彼、いや彼女が唇を開く。
「何とか一日で動けるようにしとかないと間に合わないな」
「馬鹿ですかッ!?」
エオナが思わず怒鳴った。
その顔には怒りよりも等分以上に涙が混じっている。
「絶対安静で10日後ですよ!? 死にたいんですか!?」
「そうしないと、オレより早くお前らが死ぬ。精神論や信頼でどうこうなる相手じゃないんだ。ぶっちゃけて言うが、万全のオレでもどうなるか怪しい。相手は人間だ。化け物でも無ければ、世界を引っ繰り返す不合理な能力も持ってやしない。だが、な」
ケーマル達を見つめれば、ゴクリと唾を呑み込むのが分かった。
どうやら、あまり褒められた顔はしていないらしい。
「あいつらは世界を滅ぼせる。あいつらはそれを証明もした。そして、神格連中の親玉……唯一神すら手を焼く以上の戦闘状況に入る可能性が極めて高い。お前らの魔術が届かない範囲から相手は攻撃してくるぞ? お前らに見えないBC兵器を使われたら、一溜りも無いな。小型大型の戦術核で正面から面制圧なんぞされたら、この世界は死の灰に覆われて、正しくお前らが灰の月と呼ぶ世界と同じになる」
「そんなッ、それがどれだけ凄い力なのか私には分かりませんがッ、あなたが今出て行けば、死ぬのは分かりますッ!!」
「死なないさ」
「どうしてッ、そう言えるんですか!!?」
エオナの瞳は真剣だ。
だから、笑ってこう言うしかなかった。
「オレが、目的を果たしてないからだ」
「目的……それって……」
僅かに口籠る相手の横からサカマツがこちらに真っ直ぐな瞳を向けて来る。
「お前の嫁を奪い返す、だったか?」
「そうだ。言ってない奴もいるが、オレはその為に此処へ来た」
「だから、命を掛けると?」
「命はいつも掛けてるつもりだ。オレが人殺ししたり、人の上に立ったり、人に死んで来いと命令するんだ。オレも同じ立場に立ってなきゃフェアじゃないだろ?」
「「「………」」」
三人が黙り込む。
「まぁ、落ち着け。任せておけ。責任だけは取ってやる。お前らがオレに払った代価分ぐらいはな。オレは出来ないと思った事は死んでも出来ないと言うし、死んだら出来ると思った事も死んだら出来ると正直に話す。だから、オレは死なずにお前らの置かれてる状況をどうにかしてやると断言しよう。そうするだけの準備だけはしてきたんだ」
自信満々に言い切って悪いが、現在脳裏で予測能力は起動されていない。
他の人間らしからぬ能力の大半も消えている。
だが、準備はしてきた。
いつ取り上げられるかも分からないチートに頼って、何もして来なかったわけではない。
自分なりに色々と積み上げてはきた。
此処から先はソレを切り札に何処までやれるかという大一番。
嫁をこの場所から祖国へ帰して、適当に幸せなシワくちゃ婆にしてやるまで、死ねない身な以上、此処で諦めてはいられない。
通用するかしないかなんてのはこの段になっては関係が無い。
やるかやらないか。
やるかやられるか。
それだけだろう。
「狂人め……世界を誑かす大狂人め……オレは貴様に頼った時にもうこうなる運命だったのかもしれないな……」
サカマツがおもむろに尖らせた利き手を逆の肩に付けた。
それは一度だけ見た。
月亀の敬礼だったろうか。
「いいだろう。貴様は貴様の道を征け。オレはオレの勝手で貴様へ追従しよう。我らが魔王……我が主となるべき者よ……命令しろッ!! 今からお前が欲すべきところを為す為にこの身を使えッ!!! イシエ・ジー・セニカッッ!!!」
呆気に取られていたケーマルとエオナだったが、すぐにこちらを見る。
「―――じゃあ、適当にメシでも持ってきてくれ。出来るだけ美味いやつ……」
「分かった。引き受けよう」
サカマツはすぐに部屋を出て、其処で再び敬礼してから廊下に消えていった。
「……これが将器というやつならば、我々もうそうするべきでしょうか?」
軍人らしい男の行動に苦笑よりは何処か納得した様子の笑みでこちらにケーマルが訊ねる。
「生憎と秘書は間に合ってる。廊下で聞き耳立ててるやつで十分だ」
『ッ!?』
「左様で。ならば、金融に詳しい金貸しは要りませんか? 閣下」
ウィンク一つ。
ケーマルが訊ねて来る。
「じゃあ、頼りにさせてもらおうか。とりあえず、月兎大使館の庭を少し掘り返して、物資をこの施設の前に積んでおいてくれるか? 量はそう大した事無い。精々4万人分だ。今からオレが月兎、月亀の各地のキャンプで鍛えさせてた連中を招集する。それから、エオナ……」
「な、何ですか!!」
いきなり話を振られて慌てる少女に思わず唇の端が歪んだ。
「今から、魔王の名でギルドに仕事を依頼して来て欲しい」
「ギルドに?」
「ああ、ガルンと一緒にな」
こちらの言葉にバタバタッと数秒もせず目を真っ赤にした秘書がやってくる。
泣きウサギと言った風情であるが、その顔は怒っていつつも、涙目で、何よりも何だってやってやるという気迫に満ちていた。
「何ッ!! 言って!! 絶対、完遂してみせるから!!」
「じゃあ、今から麒麟国も含めてこの世界の全ての国家のギルドに行って来てくれ」
「わ、分かった!! 仕事の依頼? なら、何て言えばいい!!?」
前のめりなウサ耳がこちらの唇の近くに寄る。
「命令は一つ。傭兵の募集だ。参加資格は恒久界が滅んで欲しくないと思う者に限る。代償として失うかもしれないのは命。報酬はこの世界に生きる死なせたくない連中の人生。それとこれから1000年間、魔王の名の下に生涯年金を暮らしに困らない分だけ、参加者の血が途切れぬ限り子々孫々まで支給し、現物でも供給して良い暮らしをさせてやるってな具合で広めてくれ。募集人員の移動はヒルコにやらせろ。集合地点は月猫、月兎、月亀、麒麟国の首都を指定する。後の細かい事はオレが準備させてた緊急時の書類をヒルコに【SIMPLE FIELD PLAN】で検索、開示して貰え」
「しんぷる・ふぃーるど・ぷらん?」
「恐らく使わないだろうと思ってた計画の一つだ。ぶっちゃけ、最後まで使いたくなかったが、しょうがない。時間が許す限り、兵を集めろ。集め切れなかった兵に対しても所定の方法で二次集合地点を設定してある―――戦争だ」
「ッ、了解!!」
バタバタとガルンが駆け出して行った。
エオナもこちらに頭を下げるとすぐにガルンを追い掛けていく。
ケーマルもすぐにこちらへ頭を下げてから、外に出て行った。
すると、オズオズといった様子で近衛三人娘とエコーズの面々、それからお付き二人がやって来る。
一番前に立ってやってくるのは竜の如き鱗持つ少女アステだ。
「……魔王、閣下……その……」
「閣下は要らない。セニカでいい。で? 礼なら不要だ。お前の姉には借りを返してもらったしな。親族としての気持ちだけ受け取っておく」
「ぁ……はぃ。ありがとう―――ござい、ます。姉を、助けて……くれて……っ、っ……っ……」
「よ、よーしよーしニャ!!」
「だ、大丈夫か!? ちょっと、あっちで落ち着いてこよう?」
猫耳クルネがフローネルと共にヨシヨシと両手で顔を覆ったいつも前衛で凛々しい仲間を連れて部屋の外へと出て行く。
残ったオーレとリヤがこちらに複雑装な表情を向けた。
「……アステの姉さんの事、感謝してやるよ……魔王」
「リヤ!?」
嗜めようとするオーレにウィンク一つで制止しておく。
「お前にしては進歩した話し方だな。リヤ」
「―――ッ………そうかもな……オレには頭を下げて、感謝する事しか出来ない。実際、凄ぇよ。魔王……アンタがいなきゃ、オレ達は今頃死んでるって話……外の光景を見たら、分かる……」
「そうか。それで?」
「エオナはお前に出会ってから変わった。他の連中だって、大なり小なり変わってる。でも、悪い方向じゃないのは分かる……ただ、自分のしなきゃならない事が見つかった。そんな感じなのかもな」
「お前は?」
「知るか……オレはただの
思わず吹き出しそうになった。
「いや、そんな未来は来ないから安心しろ」
「……戦ってやるよ」
「オレの為に?」
「んなわけない。オレとオレの仲間達の未来の為にだ!!」
「なら、お前はこんな場所にいないでエオナ達の下にさっさと行け。お前が失いたくないと願うなら、その為の力はもう用意してある」
「……ぁあ、言われなくても、そうする!! オーレ!! 行くぞ」
「え、え!? あ、此処の警備……ぅ」
視線で一緒に言ってやれと笑みを浮かべれば、ぺこりとサブリーダーらしい謝罪一つ。
二人が歩き去っていく。
「ホンマ、ようやるわ。サカマツのオッサンも怒ってやるつもりだってな話をさっきしてたはずなんやがなぁ」
ルアルが肩を竦めた。
「それ、言っちゃうの!?」
ソミュアがツッコミ。
「みんな、その方向だったのに何故か仕事をやる気にさせられてる。魔王はやっぱり、口先だけは恐ろしく上手い……気を付けて、二人とも」
リリエがこちらを微妙にジト目で見る。
「お前らはどうする? 皇女殿下奪還どころの話じゃなくなってるが……」
「二つの事は同時に出来んやろ。アンタがウチらを焚き付けなきゃならん程に追い詰められとるのは分かっとる。そもそも皇女殿下救おうってな話だって、この世界が滅んでないのが前提やし」
「分かってるじゃないか。じゃあ、お前らには引き続き魔王応援隊の警護をしてもらおうか。あいつらにはこれからまた指示を出してやってもらわなきゃならない事がある。悪いが、この事態が治まるか。目途が付くまでは一旦フラウ奪還は凍結だ。ちゃんと考えてあるから、心配するな。その間に死んでない事を祈る以外は自分の仕事をしてくれてると助かる」
「……一つ、いいですか?」
ソミュアがジッとこちらを見つめて来る。
「何だ?」
「セニカさんにとって、そのお嫁さん達は……灰の月から来るくらいに大事だったんですか?」
「その話……何だか何処かの誰かさんから詳しく漏れてるような気がするんだが……何を何処まで知ってる?」
「……あのエオナさんを助けた方。ヒルコさんが運び込まれてから、関係者を集めてお話してくれました。婿殿は自分の好いた女子を助けに来た何処にでもいる馬鹿な男だって……」
「あのお喋り黒幕属性……後で一億くらいやろう……そうしよう」
思わず溜息が零れた。
「一応、言っておくが、オレにとってあいつらは全部だ」
「全部?」
「ああ、オレが手に入れられなかったはずのもの。そして、オレがこの世界で生きていく理由。誰にでもあるような、そういう類の話だろ?」
「それを追って、別の世界へ来るくらいに?」
「ああ、その為の手段があったからな」
「……矛盾、してますよね? さっきの話だって、なら尚更に危険に向かっていく選択肢なんて普通は……」
「だな。でも、それで何が変わるわけでもない。オレはそういうのだったってだけだ。開き直りと言ってくれてもいい。でも、途中で投げ出したりはしないから安心しろ」
こちらをジッと見詰めたまま。
ソミュアが大きく溜息を吐いた。
「セニカさん。セニカさんを好いている人はその人達だけじゃない。それを忘れないで下さい。それが私が貴方に言える最初で最後の忠告です」
「ソミュア?」
リリエが横から覗き込むも、そのいつも二人の間でアワアワしている感じの少女は何処か大人びて、こちらを圧倒するような真っ直ぐさで見つめていた。
「忠告。確かに受け取った……オレも此処を安易に滅ぼせなくなったな……まったく、生きてると儘らないもんだ」
「惚れた弱みってよく言いますけど、惚れられた弱みだって本当はあるんですよ。きっと」
その言葉にルアルとリリエはまさかそんな事を言うとは思ってもいなかったのか。
唖然として自分達の中心にいる少女を見ていたが、すぐにいつもの調子でシャキリと仕事人な顔となった。
「じゃ、じゃあ、ウチらは仕事に戻るで。後でまた来るさかい。大人しくしとるんやで」
「魔王を回復させたくなんてないけど、世界の為だから、仕方ないよね……ウン」
「じゃあ、私達はこれで……」
三人娘が通路の先へと消えていく。
そして、最後に残ったお付きの二人は……何も言わず。
しかし、ただ、本当にただ一番困る行為をしてくれた。
直角に曲がった腰。
それだけだ。
「お願い、致します」
「致します。にゃー」
「……必ず会わせてやる」
「はい……」
「はい、にゃー……」
それだけを言って、二人もまた通路の先へと消えた。
ようやく人も掃けたかと思えば、ペタペタやってくる足音。
そして、ひょっこりと尻尾と猫耳が入って来る。
「まお~げんき~?」
「ユニか。此処に来たって事は予知で何か出たんだな? さっそくで悪いが、オレが役立たずな間、お前には手伝って欲しい。この国とオレの事情とお前と遊んでくれる連中の為に……」
ぽやぽやした様子もそのままに幼女が耳をヒコヒコさせる。
「ななわりだよ」
「七割?」
「まけるの」
「そうか。じゃあ、残りの三割に賭けてみようか。助けてくれるか?」
「うん。けーまる、あとでもとにもどしてくれるー?」
「ああ、そっちは出来る限りやろう。オレも偽の記憶で好かれてても困るしな」
「じゃーやるー……やろー……やれー!!」
何処か強さを感じさせる笑みで幼女が奨める。
「言われなくても、そのつもりだ」
「あと……おねがいきーてー」
「お願い? 別に構わないが、オレに実行可能な事に限られるぞ? 何だ?」
「………あかちゃんつくってー……つくろー……つくれー♪」
「ハイ?」
思わず聞き返す。
「あかちゃんつくったらー……そのこがこのつきをおさめるんだって」
「………そういう、未来か……その場合、オレの一身上の都合で赤ちゃんの作り方は普通とは違う事になる可能性が大だとだけ言っておこう。後、気軽に赤ちゃん作ろうとか言うな。オレの人格が疑われまくりな未来しか見えない」
「わかった~♪」
約束を取り付けてご機嫌になった猫耳幼女が(T_T)/~~~と手を振って、楽し気に廊下へと出て行く。
しかし、すぐ通路の先でこんな会話が聞こえた。
『ユニ様。魔王とどのような会話を? いえ、少し気になったものですから』
『情報共有をお願い致したく……ケーマル殿の代わりに会話は聞いておく約束ですので』
『あかちゃんつくろうって(・∀・)p やくそくした-♪』
『は、はぁ、赤ちゃんですか。それはよかったですね。あか、ちy―――Σ(゚Д゚)』
『ははは、赤ちゃんですか。いやぁ、それはまったく、言祝g―――Σ(・ω・ノ)ノ』
『どーしたのー?』
『『ははははは―――(=゚ω゚)ノさて、殺すか(´ω`*)』』
『ダメー……はんぶんころせるから、めーよー?』
物騒な会話は聞かなかった事にして、瞳を閉じる。
世の中は本当に上手くイカナイ。
どうやら、戦って死ぬよりも先に身内に怨恨で刺殺される方が早い可能性もあるらしかった。
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