異世界なんてありません!
多口綾汰
第1話
異世界に憧れたことはないだろうか。
――異世界に勇者として召喚されて、特別な力でお姫様を魔王から守りたい。
――異世界でのんびり気ままなスローライフを過ごしたい。
――異世界に転生して、新しい人生を歩みたい。
異世界に想いを馳せ、希望を抱き、いつの日か己が異世界へ誘われることを請う。
しかしながら、現実は非常である。
なぜならば、異世界は空想の産物だからである。
異世界に召喚されて死ぬ度に過去に戻されたり、異世界に召喚されてありふれた職業に適性を持ちながら世界最強になったり、異世界に転生してハーレムを築き上げたり、異世界に転生してスライムを倒しながらスローライフを過ごしていたらレベルが100になっていたり――。
すべては空想の産物であり、ある種の妄想の類である。
――ある人は、誰かに妄想した世界を共感してもらいたいがために、文字に起こし、小説として妄想を供給する。
――ある人は、誰かに妄想した世界を楽しんでもらいたいがために、コンピュータ上でプログラムを組み上げ、ゲームとして妄想を供給する。
――ある人は、誰かに妄想した世界を視覚してもらいたいがために、絵を描き、漫画やアニメとして妄想を供給する。
創り出された空想の産物は、いくつかの媒体となって、人々に供給され、消費されていく。
人は辛い現実から目を逸らし、空想に浸り、妄想を膨らませたいからだ。
さよなら、現実。ようこそ、空想の世界。
日々の生活における様々なトラブルや失敗、迫りくる納期との戦いなどを忘れて、色鮮やかな妄想の世界へ羽ばたいたっていいじゃないか。
物語の数だけ、妄想の世界という名の異世界があり、異世界の数だけ、心が弾むようなドラマがそこにある。
数多のドラマに思考を泳がせ、異世界に恋い焦がれる。
しかしながら、現実は非常である。
なぜならば、異世界なんてものは存在しないからである。
現実で魔法が使えて、朝の眠気を吹き飛ばしたり、朝の通勤・通学を瞬時に済ませたりできたら、どれだけ嬉しいことか。
魔法ですら、異世界の理、または副産物であるわけだから、現実になんて存在しない。
中二病という時期がある中学生を卒業し、高校生になった僕は現実を直視し、真実にたどり着いた。
現実とは、空想の世界へ没入するための時間と空間を提供するもの、と。
だから、僕はいくつもの小説やアニメを鑑賞し、英気を養うことを真剣に取り組んでいる。
それは、現実を理解しているからである。
三度説こう。異世界に憧れており、現実から逃避しようとしている者たちへ。
異世界なんてありません!と。
異世界なんてありません! 多口綾汰 @ayata_taguchi
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