Interlude ~池崎馨の夢 Ⅵ~



 僕は一体どうしたのだろう。





 あのときのもふもふは、僕の無実を証明するために奔走してくれたココへのお礼のつもりだった。


 変に期待をさせてしまってはいけない。


 だから、一度だけ。


 そのつもりだったのに──。





 僕は一体どうしたのだろう。





 ココが僕の胸に飛び込んできた、あの時の温かさが忘れられない。


 存分にもふもふして顔を上げたときの、ココのキラキラした笑顔が忘れられない。


 僕がもふもふさせたいのはアイナ姫だけたったはずなのに、もう一度くらいはココにもふもふさせてもいいだなんて思うとは……。




 僕は一体どうしたのだろう。




 編み物が進まず、頬杖をついて窓の外を眺めていると、コンコンと自室の扉をノックする音が聞こえた。


 きっといつものようにココがアフタヌーンティーを運んできたに違いない。

 慌てて平静を装い、僕は編み針を手にとる。


「失礼します」


 ワゴンを運んできたのは、バーニーズマウンテンの大柄な給仕長だった。


「あれ? 今日ココは休みなのかい?」


 少しだけがっかりしたような気分を隠して給仕長に確認すると、大きな手で器用に紅茶をカップに注ぐ給仕長が静かに答えた。


「はい。なんでも、近衛兵のセージにお礼をしなくてはならないとかで、二人で休みを取って出かけているようですよ」


「セージと……?」


 そういえば、ココに恋するセージは彼女のために僕の無実を証明する手助けをしたんだったな。

 僕からの褒美は丁重に断っていた彼だが、ココからのお礼は喜んで受け取るというところだろうか。


 僕の友人でもあるセージは本当にいい奴だ。

 彼ならばきっとココを幸せにできるだろう。


 僕は安堵して編み物へ意識を戻す。


 けれども何故だ?


 編み目を数え間違えたり、模様編みを飛ばしてしまったり、いつものようには捗らない。




 僕は一体どうしたのだろう──?



 ────


 ──…


 ……






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