第85話・元凶を捜して
このラグナ大陸へと渡ってからかなりの日々を過ごしたが、俺達はいよいよこの世界を席巻していると世間で言われている魔王ラッセルが居るロマリア城へと向かう事になった。
まあ、その目的が魔王ラッセルを倒す為ではなく、救い出す為というのがおかしな話だが、魔王ラッセルの騒動の元凶が本人ではなく、ロマリア王――もしくはそれとは違った何かかもしれないとなれば、ラッセルには何の罪も無い。であれば、そんな彼を救い出す事がこの魔王ラッセルの騒動を収めるには必要な事なんだろうと思える。
と言うわけで俺達は昨日の内にお互いが別行動をしていた時の情報を報告し合い、翌日の朝を迎えてからロマリア城方面へと向けて出発をした。
しかし、ラッセルを救い出すのが第一の目的とは言え、いきなりロマリア王が居る城へと乗り込むなんて無謀な事はしない。なにせ俺達には、まだ解消しておかなければいけない謎がいくつか残っているのだから。
俺達がロマリア城へと辿り着くまでに解消しておかなければいけない謎。それは俺達が見た悪魔のものと思われるミイラの事と、ロマリア王との関連性だ。
今のところあのミイラの正体については不明な点の方が多いし、ロマリア王があの場所へ行った事があるのかも不明だ。故にあのミイラとロマリア王が豹変した事を結び付ける根拠は何も無い。しかし、根拠が無いにしても何かしらの繋がりがあるという疑いは持っている。
だからまずは、あのミイラについて色々と調べてみないといけない。そこで俺達は古い文献が沢山ある図書館がロマリア領内の街にあるとミアさんから聞き、まずはそこへ行ってから調べものをしようとしていた。
「それでミアさん。その本が沢山置いてある街って、ここからどれくらいかかるんでしょうか?」
「アルフェンフォートの街はこの辺りからなら、順調に行けば二時間とかからないと思いますよ」
「思ってたより近いですね」
「ええ。アルフェンフォートには多数の文献や書物がありますから、きっと何かしらの情報が得られると思います」
「そうですね。でも、ロマリア領内の街ですから、ミアさんの素性がばれない様に気を付けて下さいね?」
「はい」
俺の言葉に対して素直に頷くミアさん。
そんなミアさんを見ていれば、正体がばれる様なヘマをしないとは思える。だが、それはミアさんを助けた俺や唯、ラビエールさんも同じだから、俺達三人も十分に気を付けておかないといけない。
こうして俺達は途中でモンスターに遭遇しながらも、ミアさんが言っていた様に約二時間ほどでアルフェンフォートの街へと辿り着いた。
「とりあえず無事に街には入れましたね。それでミアさん、目的の図書館はどの辺りにあるんですか?」
「私もこの街に来るのは初めてで知らないんですが、噂ではその場所が図書館だとすぐに分かる様な目印があると聞いています」
「目印ですか……」
そう言われた俺は、その場から街の中をぐるりと見回して見た。
しかし、街には二階建てレンガ造りの建造物が多く、ミアさんが言う様な目印をその場から探すのは無理だった。
それなら街の人に場所を尋ねればいいんだろうけど、もしも下手な言動や行動をとれば、即座に怪しまれてロマリアの兵士に報告されるかもしれない。それだけは何としても避けなければいけないから、なんとか旅の途中でたまたま立ち寄った感じで自然に図書館を探し出したいのだ。
と言うわけで俺達はロマリア領内にあるアルフェンフォートの街へと入り、さっそく観光でもしている様な感じで図書館を探し始めた。
初めて訪れる街で人に尋ねる事もせずに探し物を見つけるのは難しい。しかもこの人数で動くのはそれだけで目立つから、俺はなんとか早めに図書館を見つけ出したいと思っていた。
「あっ、リョータ。あれが探してる図書館じゃないの?」
「えっ? どれだ?」
「あそこよ。建物の天辺に本が乗ってるでしょ?」
ラビィが指さす街の中心部を見ると、そこには大きな宮殿の様な造りをした建物があり、丸みを帯びたその建物の上には開かれた本を模したオブジェの様な物があった。
「ああー、確かにそれっぽいな。でかしたラビィ! さっそく行ってみようぜ!」
「ふふん。お礼ならパチパチ一杯奢りでいいわよ」
「へいへい」
俺達はさっそくその場所へと移動し、その宮殿の様な建物へと向かった。
そして目指していた建物の前へと着いた俺達はさっそく中へ入ろうとしたんだけど、さすがに馬車を置いて全員で中へ入るわけにもいかないので、誰に留守番をしてもらうのかを決めなければいけなかった。だがそれは、リュシカがその役目を自ら買って出てくれた事ですぐに解決をした。
「へえー。ずいぶんと広い図書館だな」
「そうだね。日本にもこんなに広い図書館はそう無いんじゃないかな?」
「だな」
高い天井に広い建物内。内部は三階に分かれていて、そんな中には数多くの本棚が立ち並んでいる。そしてその本棚の中には、数々の知識や物語が詰め込まれているのだろう。
それにしても、図書館探しにはそれなりに時間を使うと思っていたけど、ラビィがいち早くここを見つけてくれたのは本当に助かった。これで調べものに多くの時間を費やせる。
俺はこの図書館の受付に居た女性に声をかけ、中で本を見ていいのかを尋ねた。するとその女性は自分がこの図書館の司書だと言い、この図書館における注意事項を守ってくれたら自由に観覧してもいいと言った。
司書さんの言葉を聞いた俺は、とりあえずこの図書館における禁則事項を尋ねた。
その内容はまあ単純で、火気厳禁、飲み物の持ち込み禁止、落書きの禁止、本の写し禁止、本の持ち出し禁止など、基本的に日本にある図書館のルールとあまり変わらなかった。世界が違っても本の扱いはあまり変わらないんだなと、俺は妙に安心をしてしまった。
こうしてこの図書館におけるルールを聞いた俺達は、さっそく手分けをして調べものをする事にした。
「――にいやんにいやん。これ見てー」
「ん? 何だい?」
調べものを始めてからしばらくした頃、ラッティが嬉々としながら開かれた本を持って来た。そして俺がやって来たラッティからその本を受け取って見ると、そこには可愛らしい白猫の絵が描かれていた。
これが俺達の探しているものと何の関係があるのだろうかと表紙を見ると、そこには『賢い白猫の大冒険』とタイトルが書かれていた。タイトルと開き見た内容から察するに、どうやらこちらの世界の絵本らしい。
「ねっ? 可愛いでしょ? にいやん」
「そうだね。可愛らしい白猫さんだ。ラッティ、この本が気に入ったなら、あっちの椅子に座って見てていいよ」
「いいの?」
「うん。でも、静かに読むんだよ? 他に本を読んでる人の邪魔になるから」
「うん。分かったー」
「いい子だね。それじゃあ、あっちで静かに読んでてな」
「はーい」
そう言って持っていた本をラッティへ返すと、ラッティは笑顔で俺が指さした椅子へと向かって行った。
本当は悪魔に関する書物を探してほしいんだけど、子供は子供らしく楽しそうな物語を読んでいていいと思う。ラッティは俺の中で癒し枠の人物だから、いつでもにこにことしていてほしいのだ。
楽しそうに本のページを捲るラッティを見て少し癒されつつ、俺は目的の書物を探し回った。
しかし、この広い図書館のどこを探し回っても悪魔に関する本は見つからず、それに関わりそうな歴史の古い文献なども見つける事ができなかった。これに関して少しおかしいと思った俺は、司書さんにその事を尋ねてみる事にした。
「あの、すみません。ちょっとお尋ねしたいのですが」
「はい。何でしょうか?」
「悪魔について書かれた本とか、この国の古い歴史についての本はどの辺りにあるんでしょうか?」
「えっ!?」
俺の言葉を聞いた司書さんは酷く驚いた表情を見せると、困惑しながらも俺に手招きをしてもっと近くへ来る様に促してきた。
その様子を見て何だろうとは思ったけど、俺はとりあえず司書さんへと顔を近付けてから小さく声を出した。
「何ですか?」
「この国で悪魔に関する事や古い歴史を調べる事は、王様に禁止されているんです」
「えっ? どうしてですか?」
「理由は私にも分からないんですが、数年ほど前に王様から直々の命令があって、それで悪魔と古い歴史について書かれた書物が禁書扱いになったんです。だから今は、その手の禁書は封印書物として厳重に保管されているんです」
「なるほど。そうでしたか……」
こんなに広いのに目的の書物が一冊も見つからないのはおかしいとは思ったけど、まさかそれがロマリア王の命令だったとは思ってもいなかった。
「……あの、旅人さんはどうして悪魔について調べようと?」
「ああ。ちょっと旅の途中で妙な物を見たので、アレは何だったんだろう? って事で色々と調べてみようと思ったんですよ」
「……その妙な物って、もしかして北の方にある洞窟で見たんですか?」
「えっ!? どうしてそれを?」
「やっぱりそうなんですねっ! そうじゃないかと思いましたよ。あの、ものは相談ですが、夜にもう少し詳しくお話を聞かせてもらえませんか? 私、これでも司書ですから、この図書館にある本は色々と読破してましたし、もしかしたらお役に立てるかもしれませんよ?」
「でも、この国では悪魔の事を調べたりするのは禁止なのでは?」
「確かにそうですけど、駄目って言われると知りたくなるのが人間じゃないですか?」
そう言ってにこっと微笑む司書さん。その微笑には特に悪意を感じない。きっと単純な好奇心でそう言っているんだろう。
「……分かりました。では、今夜どこに行けばいいですか?」
「この図書館から少し西へ進んだ場所に商店通りがあるんですが、そこを抜けて住宅通りに出て、木製の本形プレートがドアに掛かっている家を訪ねて来て下さい」
「分かりました。木製の本形プレートがドアに掛かった家ですね?」
「はい。あっ、でも、訪ねて来る時はあなたを含めて四人くらいでお願いしますね? あまり大きな家ではないので」
「分かりました。それと、僕の名前は近藤涼太と言います。よろしくお願いします」
「コンドウ、リョウタさん、ですか? 変わった名前ですね。私はジェシカ・マドレーヌと申します。ジェシカとお呼び下さい」
「分かりました。それではジェシカさん、また後で」
「はい。お待ちしていますね」
こうして俺達は図書館の司書であるジェシカさんの家を訪ねる事になり、そこで悪魔に関する話などを聞く事になった。
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