新感覚ネットカフェの誕生の瞬間

ちびまるフォイ

全米が驚愕したネットカフェ

――この物語は全く新しいネットカフェの誕生譚である



「はあ……バイトかぁ……」


少年はバイトの募集チラシを見てはその内容にうんざりしていた。

どこも初心者歓迎とうたいながらも、その内容は過酷で複雑。


「立っているだけとか、座ってるだけとか楽な仕事ないかなぁ」


と、ネットで調べることにしたのでふらりとネットカフェに立ち寄る。

適当にポチポチと探していると、ネットカフェの壁に貼り紙があった。


『アルバイト募集中!』


「ネットカフェでアルバイトかぁ、いいかも!」


マンガも好きだしパソコンのスキルもそこそこある。できるかもしれない。

さっそく応募すると、店長はガハハと笑って採用した。


「君、足の速さは?」


「100m12秒です」

「合格!!」


「えええ!?」


「足の速いやつに悪い人はいない! ガハハハハ!!」


こんな調子で採用された。店長は雑すぎた。



アルバイト勤務の初日。

店にやってくるとパソコンと店長が待っていた。


「よく来たね。では、店員として一番大事なことを教えよう」


「ああ、接客ですか? それとも支払い? 大丈夫ですよ。

 俺、これでも前のバイトでレジ打ちとかもしてたんで……」


「いや操縦だ」


「は!?」


「ネットカフェの操縦」


「はい!?」


店長はカウンター下の端末のキーボードを操作すると、

ネットカフェがゆっくりと動き始めた。窓の風景が移動している。


「店長!? いったい何を!?」


「君、最近のネットカフェはどこも移動式だよ。常識じゃないか。

 これでバス感覚でネットカフェの客を拾っていくんだよ」


ネットカフェは移動しながら客を乗せていく。

これまでは同じ風景でどこか閉鎖的だったネットカフェの環境も

この移動式を組み込むことでさながら旅行気分も味わえるとかなんとか。


「まあぶっちゃけ、操縦って男のロマンだからね! ガハハハハ!」


ということで、俺はネットカフェの操縦を担当した。



初日は失敗ばかりでネットカフェを壁にこすったり、

客を降ろすときに失敗したり、Wifiをぶった切ったりとやらかしたが

今となってはそれも可愛い思い出として笑えるまでに上達した。


「いやぁ! 君はすごい! 足が速いだけはある! 私の目に狂いはなかった!」


「店長もありがとうございます。この仕事も慣れると楽でいいですね」


「いやいや、それ以上に君のネットカフェ運転テクニックはすごいよ。

 ところで、ネトリンピックは知ってるかね?」


「なんですかそのネバネバしてそうな大会」


「ネットカフェの速さを競う大会だよ。ぼくは速さに目がなくてね。

 君の操縦テクニックならきっと優勝できると思うんだよ」


「俺が? 本当ですか?」


「だって足が速いじゃないか」


「競うのはネットカフェの運転でしょ!!」


それでも店長が連日連夜欠かさずに頼んでくるので引き受けることにした。

ネトリンピックの参加までに、ほかの選手も探してきてくれるとのこと。


「なにせ大会では客を載せないからね。店の中にいるのは全員選手だ。

 店のパソコンをフル動員して、一番先にゴールした人が優勝だよ」


「店長、人選はお任せします」


「ガハハハハ! ぼくの人脈にたよりたまえ!」


と、これが今となっては敗因だと思う。


ネトリンピックの当日、俺たちのネットカフェには店長が呼び寄せた選手がスタンバイ。

みな誰もが引き締まった肉体で、どちらかと言えば体育会系だ。


「……店長、この人たちは?」


「ぼくが選んだ逸材だよ! 誰もかれも速いのは記録でお墨付きさ!

 これでうちのネットカフェが優勝するのも間違いないね!」


「これどう見てもパソコンのスキルで選んでないでしょ!?」


「もちろん足の速い順に選んだよ! ガハハハハ!」


他のチームは、店内にいくつもの優秀な人材を入れている。

こっちはなぜか陸上部ユニフォームの男ばかり。


こうなったら優勝は俺のスキルにのみかかっている。


「位置について……よーーい……」



バァン!!



号令とともに、ネットカフェが一気に移動し始める。


これまでやったことのない速度でキーボードを入力しては、

うちのネットカフェをコースに合わせて繊細な位置取りをしていく。


「いいぞいいぞバイト君! うちは2位だ! ガハハ!」


けれど、レース中盤にさしかかっても1位との距離は変わらない。

むしろこっちの入力量はスタートよりも増えているのに。

スピードは確かに速くなっているのに。


「くそ! なんで追いつけないんだ!!」


「知りたいかい?」


なんとこっちの店の端末にボイスメッセージを送って来た。

相手は1位を独走しているライバル。


「君たちのネットカフェは所詮ただのネットカフェ。

 ママチャリが競輪自転車に勝てないように、

 この大会のためにカスタマイズされたネットカフェに勝てるわけがない」


「なっ……!」


1位のネットカフェにはパソコンしかなかった。

マンガもなければ、ジュースサーバーもない。

まるでオフィスのようなつくりになっている。


「ムダなものをしょい込んで2位になるくらいなら、

 客に合わせた店づくりを捨ててでも1位になるほうがメリットあるのさ」


「こんなの……ネットカフェと言えるのか……!?」


「いまどき、本を置くなんてナンセンス。前時代的さ。

 ジュースなんてパソコンが汚れるだけ。

 最新のネットカフェとは最新のPC環境を提供する場なんだよ」


「ちがう! ネットカフェとは、癒しであり憩いであり独りの空間!

 漫画もジュースもパソコンも必要なんだ!」


「そのセリフ、ぼくに負けたやつらが何度も同じことを言っていたよ。

 だから君にも同じことを言ってあげよう」


ライバルは俺の端末にテレビ電話をつなげて告げた。



「勝ってから言え、ばーーーーーーーか」



1位をひたはしるネットカフェはぐんとスピードをあげてみるみるゴールへと近づく。


「くそ! もうだめだ! これ以上スピードをあげると

 店のサーバーがダウンしてしまう! 追いつけない!!」


積んでるスペックが違いすぎた。

あっちは最新鋭で最高の回線を使い軽量化も図った高速仕様。

こっちはごく普通のネットカフェなんだから。


運転手の腕前でどうこうできるものでは……。


「あきらめるな!! 若人よ!!」


店内に店長の声が響いた。


「君を採用したぼくの目に狂いはない! まだ作戦はある!

 君を採用した理由を思い出すんだ!!」


「俺を採用した……そうか!!」


俺は禁断のコードを入力してネットカフェを新形態へと変形させた。

うちの店舗はさらにスピードを上げて、1位をぐんぐん追い詰める。


「な、なんだ!? 貴様! いったい何をした!?」


「機械に頼るお前にはできないことさ」


ライバルはこっちの店舗の思い切った作戦に目を疑った。


「貴様!? まさか床と椅子を捨てたのか!?」


「マンガもパソコンもジュースも憩いの場であるネットカフェには必須!

 そのうえで、最も軽量化できる方法がこれだ!!

 これが、人の力だ!!」


うちの店舗のネットカフェ選手たちは抜けた床から足を出して必死に走る。

その速度はライバル店舗をついに抜き去ってゴールテープを切った。



『優勝は床を抜いた新感覚ネットカフェだ―――!!』



こうしてネトリンピックは幕を閉じた。



あれから数日後、店の噂はまたたく間に広がり忙しくなっていた。


「いらっしゃいませ、お好きな席で楽しんでください」



2017年に立ち式ネットカフェが誕生し新しいブームになった。







全米「クレイジージャパニーズ……」

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