依頼

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「クライアント――『新世紀を切り開く…』以下略は、この地域一帯を買収して、エネルギープラントを作る予定だったようです」


 会議室の壁に映し出されたプレゼンのページが進む。


「うーん、何度見ても広いなぁ」


 プレゼンに示された地図には、巨大な湾が示されており、赤い斜線で示された買収の範囲は、西側をほぼ占めるほどのものだった。


「ええ、結構なお金が動いていると予想されます」

 有名な土地ですし。と言葉を付け加えてエリスは話を続ける。


「この地域に居着いていた住民と交渉が決裂し、戦闘に発展、私たちへの依頼はその武装民の排除をしてほしい、という内容でした」


「それ、絶対話し合いしてないでしょ」

 エエルが呆れ果てたように机に突っ伏しつつ茶々を入れる。


 企業が勝手に来て立ち退きを求め、住民が抵抗したため排除することになった。

 真実ほんとうの大筋はこんなものだろう。

 法的束縛が企業間の『世界公正取引協定』しかない現代において、企業に庇護されていない住民の価値は無いに等しい。


「見事な企業の利己的ミッションだよなー」

 ま、企業らしいっちゃらしいけど、とジロウはタブレットを手のひらの上でくるくると回す。

 とはいえ、ここまで非人道的な出来事が公になれば、クライアントの公正取引レートを大幅に下げてしまうに違いない。


「それほど、この土地が魅力的ってことだろうね」

「そういうことだ」

 大人勢であるラディスとバックス、そしてカーネはうんうんと頷く。

 滅びたとは言え、一国の防衛の要となった港がある場所だ。そうまでして確保したい理由はいろいろあるだろう。

 エネルギープラントを作るという以外の目的も、おそらく。


「次に、企業側から提出されたデータです」

 パッと次のページが写される。予想される武装民のCAT数、スペック、そしてスラム街のデータだ。


「抜けてるよなぁ。刀使いの情報が」

 体を乗り出してタブレット上に展開された3DモデルとCATを眺めつつ、ジロウが呟く。

 その資料にはどこにも赤い猫のデータは無かった。他のデータは実際のデータを確認してほぼ合致したが、刀使いだけがなかった。


「おそらく、前の傭兵部隊が全滅したんだろう。

 刀使いは完璧なスタンドアローンだったことを鑑みると、グランドスキャナと傭兵達が使っていたCATのUSNから抽出した事前データから再構成した物だな」


 つらつらとバックスが予想を述べていく。


「金銭的逼迫と、事前情報の細かさがこれで説明出来そうだ。

 うちは安くは無く、むしろ高い方だが、小隊規模なら作戦成功率と価格のコスパは高い。

 クライアントは一度目、もしくは数度目の失敗で中隊を頼むほど金銭的余裕は無いが、小隊規模ならぎりぎり払える。

 なら、うちの成功率に賭けよう、と言ったところか」

 まったく、賭けるなら勝手に自滅できる賭場でしてくれ、とバックスは愚痴た。


「最初はすごく調査された内容だなと思いましたが、いろいろ納得です」

「つまり、全滅した理由が不明なまま、こっちに仕事を押し付けたと」

「迷惑な話よね。お陰でこっちが先遣部隊みたいなもんじゃない」

「監査部、ちゃんと依頼内容を調べておけよなー」


 バックスに倣って次々と愚痴る隊員達。


「そこらの文句は上層部に言わなきゃ改善してくれないぞ」

 バックスは年長者らしく、一応釘を刺す。だが、


「じゃー隊長、よろしく」

「年長者、がんばれー」

「隊長、よろしくお願いします。あと今日中に戦況レポートの提出もお願いしますね」

「では僕も。注文していた対CAライフルの輸送を頼んでおいてください」

「複合補修材の追加もお願い。陽炎の変態フレームもね、通らないだろうけど」

[ふぁいとー]

「お前ら……」


 バックスは右の親指と薬指で両こめかみを押さえつつ、盛大にため息をついた。


「で、その刀使いなんだけど、さ」

 カーネが話を刀使いの分析結果へと切り替える。


「タマサのUSNハックデータ、そして戦闘内容からいろいろと分かったんだけど」

「どうせどこからか盗まれたユニークタイプの第三世代でしょ? じゃなきゃあんな挙動出来るわけ無いし」

 刀使いと直接対峙したエエルが断言する。

 しかし、カーネは首を横に振った。


「そこなんだけど、タマサが解析した結果、あの赤い猫……第二世代らしいの」


 カーネとバックス以外の全員が固まった。ジロウはイスごと後ろに倒れた。


「は? あの動きで第二世代?」

 エエルは見開きながら首を横に軽く振り、


「あ、ありえねー」

 ジロウは倒れたままうわごとのように呟き、


「……ちょっとしたファンタジーだ」

 ラディスは目頭を摘まみつつ眉間に皺を寄せ、


「いえ、おそらく隊長なら」

 エリスは期待の目をバックスに向けた。


「……んー、無理だな!」

[さすがに無理]


 はっは、と笑いながらのバックスとユキナの返しに、バックス隊の全員が絶句した。

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