上杉忠臣蔵
若狭屋 真夏(九代目)
江戸城松の廊下
浅野内匠頭長矩は勅使供応役を申し渡されていた。天皇の使者を勅使という。
今回の勅使は将軍綱吉の母桂昌院に従一位の即位を与えるものである。
内匠頭は以前も勅使供応役を仰せつかったことがあるため以前の資料が多く残っていた。それゆえ作法などのおおよその事はわかっていた。
「しかし将軍家御生母様とはいえ女人の身で従一位とは」
「しっ誰かに聞かれたらお咎めをうけますぞ」
ここは老中つまり大臣たちの控えの間である。
桂昌院は八百屋の娘で昔の名は「おたま」これが家光の御手が付き綱吉を産んだ。
ただでさえ綱吉の治世に反感を買っているのに今回の勅使の接待には莫大な金が必要であった。
「それにしても柳沢殿の権力はますます強くなりますな」
「しかたあるまい。上様の弟弟子ですからな。」
「それと吉良もじゃ。あの柳沢の腰ぎんちゃくめ」
「上杉が後ろにおりますからな。謙信公の御威光はまだまだありますからな」
「ではこのような策はいかがであろうか?」と一人の老中が小声で話し始めた。
後日内々に内匠頭が老中たちに呼ばれた。
そこで内々の話が語られたことは誰も知らない。
江戸城松の廊下は時代劇では松が大きく書かれているが実際はそれほど松が描かれなかったらしい。
吉良上野介はその松の廊下を進んでいく。すると「上野介このたびの遺恨わすれたか」と内匠頭は短刀で切りかかった。
刀は眉間に一筋、背中に一筋、切りかかった。梶川というその場にいた幕臣が内匠頭の体をつかんだ。
「内匠頭殿殿中でございますぞ」梶川は叫んだが内匠頭は「おはなしくだされ」と繰り返すばかりであった。
やがて人が集まってきて内匠頭は江戸城内の部屋に監禁された。
上野介は周囲の人々に支えられ立ち上がった。
この光景を苦々しくおもっていた人物がいる。
脇坂淡路守である。彼は浅野家の隣の藩主である。
息もだえだえの上野介の前にすれ違うと淡路守の大紋の直垂に上野介の血がついた。
「おのれ、当家の家紋を不浄の血で汚すとは何事ぞ」と叫び上野介を扇子で叩いた。
「お許しくだされ。おゆるしくだされ」と上野介は平謝りしてその場を去った。
「内匠頭殿、わしにはこれしかできぬ。ゆるされよ」淡路守は心の中で叫んだ。
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