家出少女と変人さん
@cco12039
第1話 変人さんとの出会い
家出をしたのは衝動的だった。母と口論になっていつまでも続く文句に今まで溜まっていたストレスが大爆発をおこして着の身着のまま家を飛び出してしまった。頼る場所などないのに。
今私の手元にあるものといえば少しのお金が入った財布と学校指定の鞄とその中に入っている教科書くらい、これではとても生きていけそうにない。外は雨が降っているというのに傘すらも持っていない、濡れた制服が肌に張り付いて気持ちが悪い。
このままだと風邪を引いてしまいそうだとまるで他人事のようにぼんやりと考えていた。
今は雨の降る中、誰もいない公園のベンチで一人座っている。
「これから、どうしよう……」
不安に駆られてつい弱音が口に出てしまう。
自分が何をしたいのかいまいち自分でもよく分からない、でも家には帰りたくないのは確かだった。
何だかぼんやりする、雨で冷えた体は震えている、体調が悪くなってきているのが分かった。
幸い私の座っているベンチは屋根の下にある、雨は凌げそうだ、しばらくはここにいることに決めた。寒いが仕方がない、ずぶ濡れのままでは建物の中には入れない。
座っているのも怠くなり私は冷たいベンチに横になった。横たわっているとこのまま私は死んでしまのではないかと思えてくる、何だかそれでもいい気がしてきた。私が死んだってきっと誰も悲しまない。
そう考えるとこのまま安らかに死にたいと思えてきた。そっと目を閉じる。
「もう、どうなってもいいや……」
投げやりに私はそう呟いた。その言葉は思いの外公園内に響いた気がした、熱のせいだろうか。
遠くの方から雨音に紛れて微かに足音が聞こえてきた、その足音はだんだん私の方に近づいている。
誰なんだろう、お巡りさんかな、それとも通りすがりの人が私を笑いに来たのかな。
足音の主が止まったようだ。私は薄目を開けてその人を見てみようとしたが足元しか見えなかった。雨に濡れてジーンズに黒い染みができている。
「こんなところで何をやっているんだい?」
頭上から声が聞こえてきた、男の人の声だった。
私は鉛のように重たい体を起こした。すると、若い男の人が私を見下ろしていることがわかった。
何だかこの人凄く眠たそうだなというのが私の第一印象だった。結構整った顔立ちなのにぼんやりとしているせいで頼りなさそうな印象を与えている。
何をやっているかという問いに答えられずに俯いていると目の前の男の人がしゃがみこんで私の目線に合わせてきた、驚きで心臓が跳び跳ねた。
無遠慮に私の顔を眺めてくるのでだんだん恥ずかしくなってきて熱のせいでただでさえ熱かった頬がさらに熱くなってくる。
「っ……近いです!」
「あ、ごめん」
意外と素直に離れてくれた。
「で、何をしているわけ?」
しかし、質問からは逃がしてくれないらしい。
「何だか君はとても死にたがっているように見える」
「え……」
そんな顔、しているのだろうか。確かにさっき死んでしまってもいいかなって思ってたけどたぶんそれは本心で言っているわけではないと思う。
「図星?」
興味津々といった表情で彼は言った。
私の中の認識がこの人は少し変な人だという風に変わった。
「ねえ、君は今死にたいの?」
それを聞いてどうするのだろうか、いやこの人はただ気になったことをそのまま私に聞いているような気がする。悪気は無さそうだけど初対面の相手に死にたいのかなんて聞くのは少々失礼なのではないだろうか。
「あの」
「ん?」
相手は年上だがそんなのは関係ない、私は勇気を振り絞って言った。
「初対面の人にそんなこと言うのは良くないと思いますよ……」
言ってしまった、男性は少し驚いたような表情で私を見ている。その驚きが怒りに変わる瞬間を想像してぞっとした。
そして、嫌な記憶も同時に思い出しそうになって必死にそれを圧し殺した。
「ご、ごめんなさい……」
「年下に怒られるのは初めてだ」
「へっ?」
「意外と悪くないな」
何を言っているのだろうか、この人は。
そんな私を余所に男性は何事か考えている様子だ。
「さっきはごめん、ちょっといろいろと思うことがあって」
「あ、いいんです別に気にしないでください」
「で、話は変わるんだけど」
「はい」
「どうして君はそんなに濡れてるの?傘は?今日はずっと朝から雨だったはずだけど」
「えっと……」
言いよどんでいると男性はまた質問を重ねてきた。
「それは言えないこと?」
「……」
言えないことではない。けど見ず知らずの人に言ってもいいことだろうかと迷う。
「家を飛び出してしまって……その、がむしゃらに走ってました」
答えてしまったのは誰かに聞いてほしかったんだろうなと冷静に分析できた。
「つまり、家出ってこと?」
「そうですね」
「ふむ……どうして家出したの?」
「それは……ちょっと親とケンカしてしまいまして」
答えると男性は顎に手を当ててなにかを考えているようだった。私の脳裏にもしかしたら警察に届けられるかもといった不安が過った、それは嫌だ、家には帰りたくない、一刻も早くここから立ち去らなければ。
「もういいですか?私そろそろ行かなきゃ……」
行く場所なんてどこにもないと冷静な自分が言っていた。それでも私はどこかに行かなければならない。
私は勢いよく立ち上がる、早くこの場から立ち去りたいという一心だった。しかし、足元が覚束ない、私の足は思うように動かずに足がもつれてその場に倒れこんでしまった。そういえば体調が悪かったんだった。
「っ!」
口のなかに泥水が入ってきた、苦味が口のなか一杯に広がってきた。何だか悔しくて涙が流れてきた、雨が私の涙を隠してくれている。
先程の男性がこちらに歩み寄ってくるのが分かる。意識がなくなる前に見えたのは男性の手だった。
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