老いてもなお

うちの塾には60歳を超えた講師がいる。

彼の授業は面白いと好評なのだが

夕方の授業で、たまにうたた寝をしてしまうことがあるらしい。


彼自身も年を取ってきたことに対する自覚が芽生えているようで、

この間は、生徒がする質問を聞き取れなかったと

耳の遠さを嘆いていた。


能力があっても体がついていかないのは

全力疾走をすると必ず転んでしまう中年男性と同じく

見ていてもどかしさを感じる。


どうしてそんな状態になってまで、

彼は塾を続けるのだろうか。


お金のためか、それとも何か別の理由があるのだろうか。



先日、その講師と食事をする機会があり

思い切ってそれについて聞いてみた。


すると彼は一言

「子供たちといると元気になれるから」と答えた。


確かに。

老人ホームや病院に長い間滞在していると

なんだか生気を抜かれてしまったような気分になることがあるが、

そのような施設に幼稚園が何かのイベントで訪問すると

入居者たちが途端に元気になったりする。


あれはきっと、園児たちのエネルギーを

入居者たちが吸い取っているからに違いない。


うちの塾の60を超えても現役にこだわる彼は

その「老人ホームの幼稚園児効果」を得るために

塾を利用していたのだ。


稼ぎながら元気になれる。

これは願ったり叶ったりだ。


彼は腕のいい講師だから

もちろんこのまま塾を続けて元気を吸い取ってもらっても良いのだが、

ちょっと待てよ。

もしかすると。。。

彼はこっそりと

私の生気までもをシュルシュルと吸い取っているかもしれない。


私は毎日遅くまで起きていることと夜食の食べ過ぎ、

さらには運動不足が原因で、敵から必殺技を受けたら

一撃で死んでしまうほどに弱っている。(敵が誰かは不明だが)


これ以上弱ってしまうと

体力を回復するために、さらなる夜食を食べて

激太りしてしまう!


べた〜っと開脚をするための今までの努力が

全て水の泡となってしまう!


私は、少しでも私の元気を吸い取られないようにするために

彼の近くでは日陰で育つカイワレ大根のように

弱々しくしておこうと決めた。


と、向かいの席で話していた彼を見ると

目を閉じて動かなくなっていた。


いつどこでもうたた寝ができる彼の体質を

羨ましく思った。

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