熱血!マホウショウジョ
クオンタム
プロローグ
『唸れ鋼拳、カリバーン』(前)
大地が揺れた。
人々の影が失せたシブヤ駅前交差点で、二つの影が激突した。
ひとりは身の丈2メートルはあろうかという大柄な黒騎士。
両手に持つ剣と盾も、また大きい。それを軽々と振り回しているところに黒騎士の卓越した技量が伺えた。
そしてもう一人は、真紅のドレスのような鎧に身を包み、両腕には巨大な鋼拳(ガントレット)を装着した小柄な魔法少女――――天月アカネである。
「――せい、やあっ!」
「ぬ、ぐ……!」
圧倒的な体格差にも関わらず、戦いは互角だった。
いや、訂正しよう。それはつい先程までの話だ。
もはや互角ではない。
アカネが押している。
黒騎士が押されはじめている。
アカネの鋼拳。その一撃で盾が粉砕された。
繰り出された黒騎士の突きをくるりと躱し、剣を踏み台にして飛び上がると、顔面に強烈なストレートを叩き込む。
たっぷり10メートルは吹き飛び、無様にもビルの壁面に叩きつけられた状態で黒騎士は呻いた。
「ば、か、な……!
こんなことが……こんなことがッ……!」
割れた兜の中から若い男の顔が覗く。
『ゲルディアス七十二将軍』の中でも最大の防御力を誇る、《鉄壁将軍ヴェレト》。その目は驚愕に見開かれていた。
「ありえん! 技量も、経験も、
すべてすべてすべてすべて私が上回っているはずだッ!」
「……そんな事ありません!」
間髪入れず、アカネがムッとした顔で反論した。
「《カリバーン》はマーリン先生が作ってくれた最強の
先生が最強って言ってたんですから、最強なんです!」
「マーーーリン! マーリンだと!?
あんな薄汚い裏切り者にいったい何が出来る!」
「薄汚くなんてありません!
マーリン先生はちっちゃくて、かわいくて、いい匂いがします!」
見当違いな反論だった。
ヴェレトが更に激昂するのも仕方がないと言える。
「そういう意味じゃない! だいたい、なんだ?
カリバーン。カリバーンだと! 帝国をナメくさるのも大概にしろ!」
「ナメてません! 本気です!」
「いいやナメている! いいか? 《カリバーン》というのは、」
「あー! あー! 聞きませんー!
先生をバカにするあなたの言うことなんて信じませんー!」
「小、娘、ェエエ!」
先程までの死闘が嘘のような、子供の口喧嘩であった。
見るに堪えない低レベルな争いはそのまま何時間でも続きそうではあったが、両者の中間地点に現れた人物がそれを強制的に中断させた。
『――そう、ナメてなんぞいない。
100%本気だぞ? 俺達は』
何の前触れもなく、彼は現れた。
白衣に銀髪の少年だった。
よく見ると背景が微妙に透けている。実体ではなく、
それでも、口喧嘩を止めるには十分すぎる効果があったようだった。
『久しいなヴェレト卿。頭の悪さは相変わらずか?』
「――せんせぇ!」
「――マァアアアアアリン!」
ニヤニヤと底意地の悪そうな笑みを浮かべる、白衣に銀髪の少年。
胸元には『特別技術顧問マーリン』の名札。
他でもない。
彼こそが、真っ先に銀河帝国ゲルディアスを裏切った男。
突如侵略してきた帝国の科学力に為す術なく、全てを諦めかけていた地球に数々のオーバーテクノロジーを伝え、戦う力を授けた男。
感情の昂ぶりに応じて無限のパワーを発揮する、地上初にして地上最強の個人兵装――《
《カリバーン》の適合者たる天月アカネを見いだし、戦闘訓練を施した男。
裏切りの魔術師にして科学者、マーリンその人であった。
彼はアカネの歓喜とヴェレトの憤怒、その両方を涼しげに受け止めて笑っていた。
『さあ』
立体映像の中でジュースの空き缶を投げ捨て、いつも通り愛弟子を激励する。
『地球を守るぞ、アカネ』
「――はい、先生っ!」
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