第2話 デート
「ヒトミちゃん、おはよ!」
「おはようございます、佐藤先輩。コーヒー飲まれますか?」
「あ、お願い。さすが気が利く女ヒトミちゃん!...っとそうだ。今週の日曜空いてるかな?
一緒に見たい映画があるんだけど。」
「映画、ですか?...どんな?」
「アクションものだよ。俺の好きなシリーズの続編でさ、めっちゃおもしろいんだよ。どう?」
「う~ん....あんまり映画とかは好きじゃなくて。遠慮しま」
「絶対におもしろいって!見て損はしないよ!ね?行こ!」
「....そんなに言うんだったら...行きます」
日曜の10時、
「いやぁ、晴れてよかったね。早速行こうか。」
「そういえば、先輩。例の映画って今日が公開日なんですよね?オンラインチケット取ってありますか?じゃないとかなり並ばないと...てか、見れるかどうかも分かりませんよ」
「えっまじ!?そうなの?やば、取ってない....」
「だと思いましたよ、まったく...」
「ごめん...」
「ほら、見てください」
俺の前に携帯を差し出す
「な、なんでチケット取ってんの?!聞いてな」
「先輩がそう言うの、予想の範囲内です。さ、行きましょ」
俺の頼りなさが露わになる。しょっぱなからひどすぎだろ、俺。
でも、ヒトミのこういうところが最高に好きだ。
絶対に手に入れたい、そう思った。
最近人気の俳優が悪役を投げ飛ばす。あぁ、しびれる。俺はこのシリーズの状況逆転の仕方が最高に好みだ。いつも裏を突かれる。そして、主人公とヒロインの絡み。純白の愛って感じが涙を誘う。
『無事で良かった....』
くる、キスシーンだ。なんだかデートで見るそういうシーンって、妙に緊張する...
「...ひゅ....ひゅー...」
ん、主人公の息遣いか?でもなんかさっきからずっと聞こえて..、
「おぇぇ...」
俺は気付いた。その過呼吸の音はヒトミのものだったこと、そしてヒトミが今この瞬間に吐いたことを。
「ちょ、え?!ど、どうしたの?!」
「すみませ...おえっ..はぁ、一旦、外に...」
ヒトミは映画館の外に飛び出した。
追いついたとき、目に入ったのは泣きながら吐くヒトミの姿だった。
夕焼けの光が、彼女の顔に影を作る。
「本当に、今日は迷惑かけてごめんなさい。」
「俺のことは気にしないで。それより身体、大丈夫?今タクシー呼んだから、そこのベンチに座って待ってようか。」
暗い沈黙が、二人を包み込む。
「あの、全部私が悪いんです。私があの映画について、よく知らなかったから...」
「事前に知っておくべきことなんてあった?....そういえばヒトミちゃん、キスシーンの瞬間に、戻しちゃったよね。何か問題でもある...の?」
沈黙が走る。
ヒトミは振り絞ったようなか細い声で、こう言った。
「なにも言わないでください。」
涙かヒトミの顎の先で止まった。
それ以来俺たちは、必要最低限の会話しかしなくなった。
いや、それが精一杯だった。
ヒトミ 椎堂みやび @shido-miyabi
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