第二十七話 救出編㉗

 私はスマートフォンを左手から落としそうになった。

「何これ?」

 そんな言葉しか出ない。

 スマートフォンから女子生徒の沈んだ声が聞こえる。

「私にもわかりません。今日、家に帰って、お風呂に入ったり、夕飯をったりした後、いつも通りここのサイトでチャットをしようとして、ログインしたら、こうなってたんです」

「気味が悪いわね」

「はい。悪質です。ちょっと、そこの〈コメント〉の欄に何でも良いんで、文字を入れてもらえますか?」

「何でもいいの?」

「はい。適当に文字を入れてください」

 私はマウスから右手を話すと、片手で「tesuto」と入力した。

 コメント欄に私が打ち込んだ文字がすぐに反映された。

 「死ね」「死ね」「死ね」と連続して表記された一番下に「テスト」と私が書いた文字が映る。

 「テスト」と書かれた文字の上には、「スズカ」と私のハンドルネームが表記されていた。

 スマートフォンから女子生徒の吐息が聞こえる。

「試したような真似をして、すみません。でも、これで意味がわかったでしょうか?」

「わかったわ」

 私が入力した文字の上には「スズカ」と、ハンドルネームが表示されている。

 一方、「死ね」と書かれた文字の上は「NONAME」となっている。つまりは、名無しだ。

「これ、名無しさんが書いたの?」

「そういうことになりますね。ちょっと、そのノーネームさんの名前欄の所をクリックしてもらえます?」

「わかった」

 私はキーボードに置かれた右手をマウスに移した。カーソルを「NONAME」に合わせる。「NONAME」の色が白抜きの文字から黄色に変わる。

 私はマウスをクリックした。

 すると、私のアバターがアヤメの部屋から別の部屋に飛んだ。その部屋は私の部屋と酷似していた。つまりは、何も装飾していないのだ。

「何か私の部屋と似てる部屋に入ったわね」

「たぶん、私を攻撃するためだけにアカウントを作ったんだと思います。だから、部屋の飾りとかどうでもいいんだと思います。ちなみみに、その部屋から住人の自己紹介とか趣味とか読めるんですけど、そこも空欄です」

 私は少しを置いた。頭の中で状況を整理する。

(女子生徒は学校でいじめにった。さらには、モミカさんと出会ったサイトでもいじめのような現象が起きている。女子生徒は学校へ行かなくてはならない。どんなにつらいいじめがあろうとも、だ。しかし、サイトの方はどうなんだ? これも毎日、行かなくてはならないのだろうか? それとも、ネットの方は無視してもいいのか?)

 私は女子生徒に詳細を聞くことにした。

「ここのサイトで他に何かいじめっぽいことはあったの?」

 女子生徒の声がさらに落ち込む。

「はい。ありました。〈コメント〉よりも厄介です。それで、こんな時間に電話したんです」

 私は、

(まさか)

 と、思った。

「〈ワイワイ広場〉の〈カフェ10代〉で、私への言葉の攻撃がありました。もう、うんざりです」

 私は予感が的中してしまい、

「はぁ~」

 と、溜息をついてしまった。

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