第十一話 救出編⑪

 女子生徒が救出したいと思う子。その母親が書いたとされるブログを読んで、私は様々なことを考えた。

(これだけ、女子生徒の思いに首を突っ込んでいいんだろうか。私の前任者の美少女はどこか他人事ひとごとのような雰囲気で私と電話をしたりした。その対応を私は時折、『冷たい』とも感じた)

 私はブログの文章を読み返している女子生徒の横顔をちらりと見た。

(もしかしたら、私の行動は間違っているのかもしれない。あまりにも、女子生徒と接触し過ぎているのかもしれない。もしも、私のせいで、助けられる命が助けられなかったらどうする? そんな事態は私が嫌だ。これから、私はどうすればいいんだ?)

 私は自問する。

(前任者の美少女が助けたのは、美少女が好きだった男子だ。そして、私が助けたのは父だ。どちらも身近な存在だ。けれども、今、女子生徒が救おうとしている命はネットの向こうにいる存在だ。住所どころか本名さえわからない。しかも、女子生徒とモミカさんが知り合ったのは、約六ヶ月前だと言う。六ヶ月前にネット上で知り合った人間を心の底から助けたいと思うだろうか)

 私は自身に言い聞かせるように心の中でひとごとを続けた。

(あり得る。たった六ヶ月でも意気投合し、助けたいという気持ちになることはあるだろう。時間は関係ない。要は、女子生徒がモミカさんをどう思っているか、だ)

 私は女子生徒に質問をした。

「あなたは心の底からモミカさんを救いたいと思う?」

 女子生徒はディスプレイから目を離すと、真っ直ぐに私を見つめた。

「はい。助けたいです。最初は、あなたの悪戯いたずらかと思いました。あたしの近しい人に死が迫る。そんなことを急に言われても、全く現実味がありませんでした。でも、あのはっきりとした夢を見て、モミカさんのお母さんが書いたブログを読んで、今は確信しています。あたしがモミカさんを助けるんだ、と」

 私はつらい現実を告げることにした。

「モミカさんを助けるために、あなたが不幸になっても?」

「不幸?」

「そう、あなたを襲ういじ――」

 私は「いじめ」という言葉を言いかけて、口を閉ざした。

(もしかしたら、いじめが起こることをここで言ってはならないのかもしれない。私の時も、電話で前任者からいじめが起きるだろうことが告げられた。今、言っても良いものなのか?)

 女子生徒がキョトンとした顔で私を見ている。

 私は覚悟を決めた。言う。

「あなたにいじめのような悪質な悪戯などが待っていても、モミカさんを助けたいと思う?」

 女子生徒が首をかしげた。

「モミカさんを助けるのと、あたしがいじめを受けるのとどう関係があるんですか?」

 当然の質問である。いきなり、「いじめが発生する」と言われても何が何なのかわからないだろう。

 私は決めてしまった以上、全て吐露することにした。

「あなたはモミカさんを救える。その代わり、あなたはいじめにうの」

「何故、いじめなんですか?」

「正直、それは私もよくわからない。ただ、確かなことはモミカさんを助けたくば、いじめに耐え、普段通り学校へ行かなくてはならないの。これはある種の順番なの」

「順番?」

「そう。全ては順番。その順番をこなして、初めて助けたい人――あなたにとってはモミカさんを助けることができるようになるの。私はその順番を手助けする人間なの」

 女子生徒の顔がやや不審気味になったが、

「モミカさんを助けることができるなら、あたし、何でもやります」

 と宣言した。

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