笑わない天使

@sugasan

第1話 最後の涙

今から10年前の話。


目の前には死体の山と建物の残骸。

パニックを起こしそうな脳を落ち着けるために息を吸うと、鉄と火薬の混ざった匂いが鼻をつきむせ返る。

大好きなたった1人の家族である妹が、2人で幸せに暮らしていた家が、今日一瞬にしてただの瓦礫と化した。

地獄のようなこの事実を僕は受け入れることができなかった。

むせ返りながら、泣きながら、僕は天を仰いだ。

「何も見たくない…誰か嘘だと言ってくれよ…」

すると、僕の両目に何か温かいものが触れた。すぐにそれは誰かの手だとわかった。

「もう、何も見なくてもいい。聞かなくてもいい。苦しまなくてもいい。涙を流さなくてもいい」

その声は男のようであり女のようでもある不思議な声だった。

「泣くことも苦しむこともこれで最後だ」

少しだけちくりと痛んだ。

痛みの後、手が僕の目から離れるとぼんやりと白い羽の生えた人間を見た。


それが僕の人間としての最後の記憶だった。

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