紅蓮

紅蓮 (1)

 食べたのか食べていないのか定かではない夕食もそのままに、刺突剣さえ持たずに飛び出してきたが、行くあてはなかった。

 服の隠しに突っ込んである小銭では、最低の宿にさえ泊まれない。かといって戻ってゼロと顔を突き合わせるのも気まずく、シャイネは工房街へ向かった。

 泊めてもらうとすれば半精霊たちの工房しかない。もう遅い時間だから店は閉めているだろう、と足早に向かうと、中から灯りが漏れていたのでほっとした。


「まあ、シャイネ! どうしたのこんな時間に? ご飯は済んだ? 入って入って」


 応対に出てきたミルは今日も身振りが大仰で、早口でよく喋る。いつもと変わらぬ様子にほっとした。

 疲れた様子のいしの兄弟がおや、と声をあげ、イーラがそそくさと隣に座る。


「どうしたの、シャイネ。何かあったの?」

「うん、まあ、色々」


 言葉を濁すが、追求はなかった。手ぶら、丸腰であることから察してくれたらしい。そういうこともあるよな、とダグラスがしたり顔で頷いている。

 ミルが注いでくれた茶は萌える若葉の色、わずかな渋みがあるが、香りも味も爽やかで、なるほど疲れたときに良さそうだった。砂糖をまぶした焼き菓子も勧められるままにつまんで、腰を下ろした少女を見遣った。


「急で悪いんだけど、今夜一晩泊めてくれない?」


 ゼロと喧嘩したから、と続けて、これは喧嘩なのかなと疑問に思った。では何なのかはわからないけれども、もつれ絡まった毛糸玉に手を出しあぐね、頭を抱えている状態に近い。鳥の糞がこびりついた小屋を掃除しなければならないとか、とんでもない寝癖を綺麗に整えなければならないとか。問題はその先にあるのに、困難を解きほぐしてからでないと前に進めない。


「いいけど……なんだろ、シャイネとゼロって喧嘩なんてしないように見えた」

「初めてだよ。だって、喧嘩するほどお互いのことを知らないし、仲も良くないし。ここまでの道中で邪魔にならなければよかったんだもの」


 ダグラスが卓に突っ伏した。肩が震えているのを見るに、笑っているらしい。何かおかしなことを言っただろうか。イーラまでが腹を抱えて笑っている。


「ぶん殴ってきたとか?」


 興味津々といった様子のマックスの眼がきらきら輝いていて、ディーを持っていないことを残念に思った。


「殴ってはないです。あ、でも食べてる途中で出てきたから、支払いは押しつけちゃったかも……」

「お腹減ってない? あたしたちこれからご飯なんだけど、一緒にどう?」

「じゃあ、少しだけ」


 工房と店舗の戸締まりをして一行が向かったのは、工房街にほど近い住宅地にあるミルの自宅だった。彼女はここから工房に通い、兄弟は工房街の寮に住んでいるのだと道々説明があった。店を閉めて、皆で食事をするのはずっと続けている習慣だという。

 シャイネが恋敵ではないとわかったからか、ダグラスは気安い。


「ウチは母が鉱の王でさ。父が生きてた頃は通いで家事を手伝ってくれる人を雇ってたんだけど、今は外で食べるかミルのとこで食べるかだよ」

「母さんも、大勢で食べる方が楽しいって言ってるしね」


 半精霊は人間の親に似る。ということはミルの母も相当な美人であるはずで、イーラにこっそり尋ねると、重々しい頷きが返ってきた。炎の王が一撃でやられたくらい、と。


「……ん、あれ、マックスとダグのお家が鍛冶屋さんだったってこと? ミルは元々マジェスタットに住んでたの? ひとつの街に半精霊がこんなに集まるなんて、珍しくない?」


 リンドにも自分とリアラが同時に存在していたわけだが、それまでシャイネは他の半精霊に出会ったことがなかった。


「いや……どこから話していいもんかな、うちは代々鍛冶をしてて、親父がここの工房の職人でさ。あっちでも精霊封じのわざのことが知られるようになって、母がじゃあどんなもんだろうって、興味本位で見に来たんだ。で、父と出会って、こう、電撃的に」

「へええ! それ、すごいね」


 ダグラスの右腕にじゃれついているミルがにこにこ笑っている。マックスはいつも通り言葉少なだが、疎んじられているわけではないと肌でわかった。


「じゃあ、精霊封じの技法って、別に鉱のひとが始めたわけじゃないんだね。半精霊が関わってるのに代々伝わってるってすごいことだよね。伝統? って言うの? 信頼とか信用とかもあるものねえ」

「代々ってほどでもない。俺たちで三代めだ。光の半精霊のダヴィドって人が、武器に精霊を宿らせることはできないかって相談に来たのが大元らしい。マジェスタットの鍛冶屋と協力して技術を確立したのが始まりなんだそうだ」


 意外に歴史が浅くて驚くが、考えてみればそうそう都合よく、鍛冶に協力的な半精霊が確保できるはずもなかった。


「俺らの後継者問題もあるんだ。せっかくの技術を途絶えさせたくはないけど、こればっかりは俺たちにはどうしようもないからな」


 マックスの言葉は重い。シャイネは心の中で指を折る。自分、リアラ、マックスとダグラス、ミル。ク・メルドルで失われた水の姉妹。ヴァルツには子がないし、誰か半精霊が兄弟の技術を受け継がないと精霊封じの技術は彼らの代で失われてしまうのだ。


「鍛冶の組合に入ってるから、鍛冶職人を融通してもらうことはできるんだけど、精霊をぶことだけはさ、やるって半精霊を探さないと」


 とりとめなく話しているうちに到着したらしい。ミルが足を止めた。扉を開け放って、おかーさーん、と大声で呼ばわりながらシャイネを紹介してくれた。

 ミルの母は名をリトリといい、ミルをそっくりそのまま大人にしたような美女だった。目元や口元の柔らかさから年齢は感じるのに、いくつくらいなのか皆目見当がつかない。

 突然押しかけたにも関わらず、嫌な顔ひとつせずによく笑い、よく食べよく飲む鷹揚なリトリのことをいっぺんで好きになったし、彼女もまた頬ずりせんばかりの勢いでシャイネをかき抱き、何日でも泊まっていっていい、遠慮するな、半精霊はみんなわたしの子だからと胸を叩いた。


「頼もしい人だなあ。お母さんだしお姉さんだし、安心できる」


 思わず漏らすと、ダグラスとミルは嬉しそうににやにや笑い、マックスは無言で大きく頷いた。普段と変わらず落ち着いた彼の視線が、時折リトリの背を追っていることに気づいて、おやと思う。


「マックスとは幼なじみでさ、近所に住んでたからいつも遊んでもらってたの。ダグも生まれた時から知ってるし。半精霊ってすごいなあ、いいなあってずっと思ってたんだけど、まさか自分が半精霊を産むとは思わないじゃない。半精霊のこと何も知らなかったら、求婚すら受け入れられなかっただろうし。ミルもさ、いいお兄ちゃんに恵まれて良かったよね」

「あ、うちの父さんもダグのとこと同じで、ちょっと冷やかしてやろうって工房に遊びに来たわけよ。だいぶ強引だし我が儘だし、迷惑だったんじゃないかなあ」

「何の連絡もなしにバーンって扉開けて入ってきて、誰かと思ったら炎の王だろ。てっきり怒られるもんだと思って、俺もマックスもびびって動けないし、オルジェウさん先代だけが平然として、扉が壊れるから静かに開けろって言うんだよ、炎の王にだぞ」

「正直、死ぬかと思った」

「今まで生きてきた中でいちばん怖かったよな」


 兄弟は顔を見合わせてうんうんと頷いている。それはさぞかし怖かろう。シャイネだって、ヴァルツが宿の前で腕を組んで待ち構えていた時には息が止まるかと思ったものだ。


「で、ついでに人間の街を見て回るかーってところにいたのがあたしなのね。食堂の外で飲み物を売ってたんだけど、まっすぐこっちに来てめちゃくちゃ睨まれてさ。顔は綺麗なのにすごく怖かったもん。眼が光ってるから、最初は半精霊だと思ってたのよ。横からイーラが教えてくれなきゃ、たぶんずっと半精霊だと思ってたかも」


 炎の王は売り子のリトリに一目惚れし、積極的に、かつ真摯に愛を訴え続けた。逃げ腰だった彼女も遂には王を受け入れ、そしてミルが生まれた。


「マックスはさ、見ての通り無愛想だし、気の利いたことはちっとも言えないんだけど、ずーっとあたしを助けてくれてたのよ。うちは母がずっと病気がちで、父が愛想尽かして逃げちゃってさ、ろくすっぽ字も書けないような子どものあたしに稼ぐあてなんか見つからなくて、もうだめだって泣いてたところへ、どんな伝手があったのか知らないけど、皿洗いの仕事を見つけてくれて」

「どうして今そんな話をするんだよ」


 マックスの声は気恥ずかしげに震えている。なるほど、と頷きながら、人間関係が繋がりつつあるのを感じていた。風に当たる、と奥へ行ってしまった大柄な背を追いかける。

 隣に座ったシャイネに嫌な顔をするでもなく、マックスは裏の炊事場に続く窓を開けて外を眺めた。


「ね、マックス。ディーを召んでくれてありがとう。すごくいい子で、何度も何度も助けてもらったんだ」

「それは、スイレンとあんたがそういうふうにしたからだ。わかってるだろ。召んだときには精霊はまっさらだ。力の強弱はあるにせよ、どんな性格に育つかは持ち主次第だ」

「ゼロの剣にいた風も、寡黙だったけどご主人思いのいい子だったよ。真面目で、気が利いて。……それとね」


 ここだけの話だよ、とシャイネは居間ではしゃぐ面々を覗き見て、声を落とした。


「ミルとダグがうまくくっつくといいね」

「くっつけてみせるさ。母と炎の王がぎゃんぎゃん言い合ってるけど、どっちも半精霊に甘いことには変わりないから、まあ問題ないだろう」


 淡々と話す声は低く落ち着いて、寄せて返す波の音や、木の葉のざわめきに似ていた。大柄で引き締まった体躯といい、彫刻のように整った顔だちといい、街の女たちが放っておかないだろう。


「炎の王とやりあえばよかったのに」


 マックスは風が起こるほどの速度でこちらを向き、紫の眼をぎらぎらと輝かせた。


「……なんで」

「何となく。リトリにとってもすごくすごく大事な人なんだろうなあって、話聞いてて感じたよ」

「そんな大したもんじゃないよ。リトリがもう無理だ、食えないから花売女になって、支度金でお母さんを施療院に入れるって泣いてたことがあって……。俺だってその頃は子どもだから、リトリを食べさせることなんてできない。あの通りきれいな顔をしてるし、花売女になればきっと大勢客がついて売れっ子になっただろう。でも」


 うん。頷いて彼にならい、外を眺めた。夜も更け、あちこちから団欒の気配が感じられるが、井戸端に人気はない。


「マックスってもてると思う」

「もてなくはない」


 そりゃあねえ、とそこいらのおばさんじみた相槌がこぼれた。


「でも忙しいし、世間知らずだし、独り身が気楽だよ。そういうあんたはどうなんだ、シャイネ」

「どうって?」

「女でも男でも、どちらに見えても人目を引く。美人だと思う」


 びじん? 間抜けな声をあげてしまい、何だ何だとミルがやってきた。目が半分閉じている。


「そうだよぅシャイネは美人だよーかっこいいし可愛いし。ほら、初めて工房に来たとき、ダグが睨んでたじゃない。あれさあ、あたしが惚れちゃうかもしれないって思

ったからなんだよ。節穴だよねえ!」

「はいはい、今日はここまで! 続きは明日! お子さまはねんね!」


 リトリが割って入り、兄弟を追い払う。じゃあまた、と朗らかに手を振るリトリにも、食事の礼を述べるマックスにも、互いを思いやる温かさが感じられた。この均衡も幸せのひとつのかたちなのかもしれないとシャイネは思う。

 愛だ恋だと声高に歌い上げることも、ひっそりと添い遂げることも、すぐ傍にいていつでも助けの手を伸ばせる距離を保つことも。

 リトリと汚れた食器を片づけている間に、ミルが居間に寝床を整えてくれた。枕が二つあることからして、どうやら彼女もここで眠るつもりのようだ。先ほどまで眠そうにしていたのに、ぱっちり開いた紅い眼を炯々と輝かせてシャイネの寝支度を眺めている。見られることに抵抗はないが、こそばゆい。

 胸を押さえた晒し布を解くと、ミルが前合わせの寝巻きを着せかけてくれた。


「うわー、筋肉すごい、お腹締まってる、かっこいい。触っていい?」


 華奢な手が二の腕やらへその周りをぺたぺたと検分するのは、同性だから云々ではなく気恥ずかしかった。くすぐったくて身を捩る。


「何で恥ずかしがるの。わー、何これ、かったい、でも柔らかいんだ、ダグとは違うなあ。おんなのこだ」

「そりゃあまあ。……ダグのお腹、触るの?」

「え? うん。腕もムキムキだよ」


 えぐいなあ、と嘆息する。生殺しじゃないか。

 ミルが身動きするたび、頭の上の高い位置でひとまとめにした赤毛がふわふわと素肌を撫でてゆく。


「いっぱい怪我の痕がある」

「そりゃあね」


 さっきから同じことしか言っていない気がするが、他に答えようがなかった。誇るべきか、恥じるべきか、この傷はねと武勇伝を語るべきか。


「この、肩のとこの傷とか……自分で手当てできないでしょ、そういうときってゼロにやってもらうの?」


 まあね。またもや変わり映えしない答えだったが、ミルの眼に星が浮かんだ。


「えっえっ、つまりそれって、裸?」

「いやまあ……うん、そうかな。そこの傷はカヴェで組んで、最初に受けためちゃくちゃな依頼で」


 ぴゃああ、と彼女は甲高い悲鳴をあげた。歓声かもしれない。頬を両手で包み込んで、眼を潤ませている。何を想像しているのだか知らないが、きっと思っているのとはだいぶ違う、そう言うべきか言わざるべきか。


「どこまでしたの?」

「どこまでって、縫ってはないよ、ゼロがうまく治」


 そうじゃなくて。遮ったミルの表情は真剣そのものだ。


「ギュー? チュー? それ以上?」

「えっ、そういう話? どれもしてない。さっき言ったけど、僕らは別に恋人じゃないし、友だちでもないし」

「対等に喧嘩したなら友だちじゃない?」


 あれは対等な喧嘩、意見の対立などではない。ただ、手痛い指摘にかっとなって、腹立ち紛れに感情をぶつけただけだ。子どもの癇癪と同じだ。


「ひどいことを言ったんだよ、僕。誰にだって口出しされたくない繊細な問題ってあるだろ。それをわざと殴ったんだ。怒られて当然だ。謝らなきゃならないんだけど……」

「仲直りしたいと思ってるんでしょう。だから剣も持たずに飛び出して、あたしのとこに来たんだわ」


 断言されるとそのように思えるから不思議だった。帯を緩く巻いてもらって、手を引かれるままに即席の寝床に滑り込む。板間には厚手の敷布が広げられていて、寝転がっても快適だった。

 枕は二つあるのに、どうしてか同じ枕に乗り込んできたミルの顔が近い。きめ細やかな肌、長いまつげ、暗い部屋であかあかと燃える眼は灯火のよう。細い手がそっと頬に触れた。温かい。


「元気出して、シャイネ。ゼロと仲直りしなきゃ。あたしが口出しすることでもないんだろうけど、ふたりはすごくいい組み合わせだと思ったの。チューするしないとか、好いた惚れたとか、それとは違った位置でお互いを助け合ってるって、素敵なことじゃない?」

「……うん、そうかもね」


 これまで、ゼロはシャイネに何も求めなかった。傷の手当て、毒抜き、精霊を召ぶまでの盾。こう動いてくれれば、と口にせずとも彼は思い描いた通りに行動し、時には期待以上のことをしてくれた。何の見返りもなく。

 シャイネは女性で年少、ゼロは男性で年長で、精霊を召べるという有利を無視できるほど彼は膂力があり、召喚の手段である声を封じることができる。薬を使う手もある。

 つまり、彼はシャイネを意のままに服従させることが可能だった。便利に使い、手っ取り早く搾取することができた。そうせずに並んで立ってくれた事実がすべてではないのか。シャイネが精霊の眼で彼を縛ることを厭ったのと同じで。


「自分が、どうやってもひっくり返せないほど有利な状況にあるんじゃない限り、人付き合いって面倒くさいよね」

「どういうこと?」


 首を傾げるミルに、いま考えたことをつらつらと語る。赤毛の少女は朗らかに笑った。


「そんなの当たり前だよ、対等に付き合おうとするのが普通じゃない? あたしたち、やろうと思えば何だってできるけど、これから仲良くしようって相手を圧倒して優位に立とうなんて思わないでしょ。それとおんなじ。そりゃあさ、あたしたちは色んな目で見られてて、中にはまっとうじゃない……っていうか、良くないふうに思われてるかもしれないけど」

「見たいようにしか見ないからね。決めつけてかかられると、どれだけ言葉を尽くしたって難しい」

「でもゼロは違うでしょ」


 そうだね。シャイネは顎を引く。


「じゃあ仲直りしなきゃ」

「そうだねえ」


 ミルの手はぽかぽかと温かく、眠いのかとも思ったがそうではないらしい。こんがらがっていたものがほぐれて心が軽く感じるのが不思議だった。


「ミル、これって」

「あたしのとっておき。きっと元気になるよ。フカツ? っていうんだって」


 精霊の力か。そういえば、お互いにどんなことができるのか、親譲りの力がどういったものなのか、工房を訪ねたときもそんな話はこれまでしなかった。どんな能力を持っていても半精霊という数少ない同胞であり、そうでなくとも友人であることに変わりはなかったからだ。

 ゼロもきっと、同じように思ってくれるはず。いや、精霊に異常な執着を見せる彼のこと、諸手を挙げて歓迎してくれるはずだ。友として慕い信頼することと、魅了の眼で支配することの間には大きな隔たりがある。

 恐れすぎることはない。恐れるべきはむきだしの精霊の力であってゼロではないのだ。手綱をかけて律するべきは、シャイネのうちにある。


「ね、副神殿長のハリスって知ってる?」


 ほえ、と声を上げたミルの眼が丸くなった。話の飛躍に驚いたのだろう。


「顔は知らないけど……名前は確かそんなのだったかな。何でまた青服に興味があるの?」

「その人かどうかはわからないけど、ハリスって人を探してるんだ」

「ふーん……それで、『背骨』を越えてここまで? ゼロもわけありさんだったけど、シャイネもけっこうなわけありさんなんだ」


 ゼロほどではない、と言い訳しかけ、まあどっちもどっちだな、と思い直した。


「行政区の方に神殿があるけど、行ってみる? あたしはお店があるけど、イーラを案内につけようか」

「ううん、大丈夫。行って、顔見て帰ってくるだけだし」


 ディーを持っていなくて良かったかもしれない。かれがハリスを判別して、万一にでも「あいつだ」なんて言われたら、また思い悩んで足が止まってしまうだろうから。


「ミルはすごいね、みんなを元気にする」


 大人びた笑顔で、少女は応えた。


「元気になったら、シャイネも誰かを励ましてあげたらいいんだよ」

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