さやか

@lead1224

さやか

―さやか

わたしの妹、になる予定だった

18針の傷を左腕に抱えた、

140センチの、小さい女の子のおはなし。


―世界で一番ママがすき。

さやかは、小学校を卒業したころママから捨てられました。

ママは、さやかを置いて出ていきました。

パパは、優しい人。いつもにこにこ。

「パパはね、すごいんだよ。3人の娘を男で一つで大きくしたの」

でも、

「家賃とか、健康保険とかわたしの分払ってもらえなかったから。高校のときから自分で払ってたし」

さやかは、切れ長の目で、整った顔を崩さないまま

感情のない標準語を使って、いつも言葉をならべてた。


ママが帰ってきたのは高校を卒業してから

「ママが一番わたしのことわかってくれてるから」

「お前が出て行ったからいけないんだろ!」

「ママ、ママ。さやかのこと抱きしめて」

「あのひとなんか、母親じゃないから」

「世界で一番ママがすき」


さやかの世界はいつも

怒りと、やさしさでぐちゃぐちゃだった。

それは、心を誰にも許せなくて、信じれなくて

でも「こんなはずじゃない」って

誰かに手を伸ばしたくて戦っていたこと、わたしは

今になってやっと気づいたの。


―双子の彼氏

さやかはわたしの彼の双子の弟だった彼の彼女。

しょうちゃん、しょうちゃん。

さやかは、しょうちゃんが本当に大好き

・・・だったのかな。


けんかの度に、「お前なんか出ていけよ」とか。

「しらない、あいつもういらない」

立場が変われば

「しょうちゃんがいないと死んじゃう」

「別れたくない。別れるならもう死ぬ。」


「愛してる」「大好き」

簡単にそんな言葉吐くくせに

手にしたら本当に大事になんて、しないくせに。

さやかがこれを繰り返したのは

腕の、足の傷の数。


―だれか、助けて

眠剤いっぱい飲んじゃったの、今すぐ来て

あたし、死んじゃうかも。血がね、いっぱでるの


今日、仕事中さやかちゃんから電話あって

錯乱して泣きながら助けて!って言われて焦ったよ

行ったらさ、日本酒の瓶と薬のゴミがいっぱいあってさ、

血だらけのティッシュが散乱してて

ゆすってもおきないんだよ。

しょうに電話したら、「息してんの?」って。

確認して「してるよ」ってゆったら、

「じゃ大丈夫だろ。お前休みなの?しばらくいてくんない?」

って。

だから、24のDVDずーと観てたよ。

途中、おーいってゆすったんだけど、すやすや寝てっからさぁ~・・・


二人ともね、もう慣れてるんだよね。

日常のように、話すの。


次の日は、しゅんくんがあたしになっただけで

同じ一日。

さやかは次の日の朝になるまで起きませんでした。


―マクドで待ち合わせの、相手は?

さやかが一番荒れてたときは、誰も手に負えなかった。

仕事は行かない、布団から出ない。

笑わないし、暴言は吐くし

だけど、スロットに行くときは無邪気に輝いて、笑うの。


仕事が終わったその日は、電話があって

「いまパチ屋いてさ、メダル譲ってもらったの。おいでよ!」

今日は、あたしがお世話の日。スロットいってんのかい。

「駐車場にいるからさ」

行くと、自転車だけがいて

「ついたよ」

「じゃあさ、横の方の駐車場に白のマーチ停まってんのわかる?」

「メダル譲ってくれた人としゃべってんだよね、おいでよ」


鼻の高い男が後部座席に話かけてくる

きみもスロット好きなんだよね?こんどさぁ3人で行こうよ

さやか達は打子してくれればいいから。勝った分はおこずかいだよ。

うん!行く!いつにする?ねぇ、いつやすみ?

返事は濁して、気安くさやかの名前を呼ぶ

その男の車のナンバーだけ覚えた、寒い秋の始まりの日。

覚えたナンバーは、もう忘れたけど。


一段と寒くなって、でもその日からそう遠くない日。

仕事中に電話 「どうした?」

「あいつバックレやがった」

荒れてる?なんかおかしい

「仕事終わったら、ソッコー行くから」


「あいつ金払わないつもりかよ」

  『今日も、負け。』

「まじありえない。葬儀屋やってんだっけ、会社殴り込んでやろうかな」

  『いくら?』

「番号教えるから連絡してみてよ!!」

  『10万』

「まじでありえないんだけど」

  『大丈夫なの?生活費とか』


「女買っといて金払わないつもりかよ」

  『大丈夫だよー。わたし、高校のときも体売ってたからさぁ。』


翌日、連絡は無事に来てマクドで待ち合わせ。

時間に遅れてきたその男は、なぜか逆切れしはじめて

結局、お金はもらえませんでした。


―さやかの居場所

そのころ、さやかはあたしにも依存した。

いないと死んじゃう。三人で暮らそうよ!

さやかとしょうちゃんと、あたし。

しゅんくんのことはもう忘れなよ、あたしがいるから大丈夫だよ。

ねぇ、キスして。

帰っちゃやだよ。

さやかを救いたかった、ほんとうに。

でも、だんだんおかしくなった。

仕事中に毎日かかってくる電話。呼び出し。

「スロット行こうよ、お金だしてあげるからさ」

あたしは、もう、逃げ出したくなった。

だんだん、おかしくなって

リストカットはさやかだけのものじゃなくなった。

「もう、さやかちゃんと関わるのやめろよ」

その言葉を、まっていたあたしは卑怯者だ。


しょうくんが「さやかの面倒見きれない、もう実家に帰らせよう」

ママが「さやかが帰ってきても、わたしだって鬱でしんどいんよ」

しょうくんのお父さんが「しょうのためにあの子はもう入院させるのが一番だって」

しゅんくんが「しょう、もう実家帰ってこいよ」

パパはいつだって、にこにこしているだけ


みんなが、さやかを傍から消したがった

でも、一番さやかを消したかったのは、さやか自身。


―色のない世界

さやかはモノクロになった。

たくさんの傷、もう痛くないね。

きれいな箱の中に眠る、小さな体は

今まででいちばんしあわせそうな顔をしていました。

しょうくんが、ママが、お父さんが、しゅんくんが泣いてるよ、さやか。

その姿は、なんかちぐはぐで。


さやかの世界は、さやかに何を与えれたんだろう。

ほしいものは、見つかった?そっちにはそれがあったかな。

モノクロの世界が、どうかあなたに色のあふれる優しい世界でありますように


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さやか @lead1224

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ