ジョン・シルバーと、不思議なラム酒

@kesorumo_peita

ジョンシルバーと、不思議なラム酒


 海賊ジョン・シルバーと宿屋の息子ジム・ホーキンズはやがて敵と味方に分かれる運命にあった。しかし、ジョンが裏切るまでの間、彼らは苦難の船旅を乗り越えた仲間でもある。そんな二人の間には、本当に何も起こらなかったのか?

 これは、まだ裏切りを知る前、本来立ち寄る筈ではなかった小島で起きた、本来起きない筈のちょっと不思議なお話・・・。


ジョン「亡者の箱まで、はってのぼった15人いっぱい飲もうぞ ヨー、ホー、ホー!あとの奴らは、酒と悪魔にやられたぞいっぱい飲もうぞ ヨー、ホー、ホー!」


ジム「ジョン、ご機嫌だね。」


ジョン「あったり前だろぉが!新しい島ってのは、海ぞ・・じゃなかった、船乗りにとっちゃあ何より何よりの楽しみってもんだ!!」


ジム「それはもう船乗りじゃなくて冒険者じゃないかな・・・。」


ジョン「うるせえ小僧だな。おめえも男ならこの気持ちが少しはわかんだろぅが!」


ジム「ま、まあ、それはそうだけども。あ、あそこに何かあるよ!!」


ジョン「何っ!?」


 ジムが指さした先には、茂みに隠された古い木箱が1つ。ジョンが駆け寄って、手早く、しかし慎重に罠の有無を確認すると、その蓋をこじ開けた。中から出てきたのは


ジョン「・・・なんでぇ。ただのラム酒じゃねえか。」


ジム「他の船乗りの忘れ物かな?それとも難破船の残骸が流れ着いたのかも・・・」


ジョン「ハッ、どうでもいいぜそんなこたぁ。しょうがねえ、飲みながら先に進むか。」


ジム「えっ、飲むのそれ?悪くなってたりしないかなぁ。」


ジョン「おめえ俺様がそんなやわな胃袋してると思ってんのか?つーかそんなもん臭いで分かんだよ臭いで。・・・ゴキュッゴキュッ・・・カーッ!うめえ!こりゃ上物だ・・・な・・・?」


 ジムの不安をよそにラム酒をあおるジョン。しかし、一口飲むとジョンはみるみるその顔色を変えていった。


ジム「え、じょ、ジョン!?ほら言わんこっちゃない!ど、どうしよう?とりあえず吐き出さなきゃ。後水とえっと」


ジョン「うろた・・・えんな・・・ガキが!こんなもん・・・大したこと・・・くっそ、胸がくるし・・・ぐぅっ・・・!」


 ジョンは震えながらそういうと、その場にうずくまってしまった。背中を丸めているからだろうか?いつもよりその姿か小さく見える・・・いや、小さくなっている。なんとジョンの姿が、一回り程小さくなっているのだ。

 暫くしたのち、苦しみのおさまったジョンがゆっくりと立ち上がった。やはり少し背が縮んでいる。それどころか、全体的に細くなったような、丸みを帯びたような・・・。


ジム「ジョン・・・平気かい?」


ジョン「ああ・・・なんかちぢんぢまった気がするが、どうってこたぁねえ。ちょっとまだ胸が苦しいな・・・あっ!?」


 そういいながらシャツを緩めようとした時、バチン!というボタンのはじける音とともに巨大なそれは姿を現した。


ジム「痛っ!なんか飛んできた・・・よ・・・?」


ジョン「な・・・な・・・なんじゃこりゃぁっ!?!?」


 そう、ジョンは、女になってしまったのだった。




ジョン「・・・まあ、原因はどう考えてもあの酒だろうな。しかし見事にでっけえのがついちまったぜ。なあおい?」


 ないはずのものが出来てしまい、あるはずのものが無くなってしまったというのに、ジョンはあっけらかんとした顔で自分の胸にできたものを揉みしだいている。長年波乱万丈な人生を生きている彼にとっては、ありえないような不思議な事が起きてもさして動じないのかもしれない。

 だが、しがない宿屋の息子だった彼はそうはいかない。見事に顔を赤らめて動揺している。


ジム「わ、わかったから、もうしまってよ・・・。」


 それを見たジョンはニヤリ、と笑い、


ジョン「なんだぁ?おめえ女を見るのは初めてなのか?ほれほれ、こいつぁ中々の一級品だぜ。なんなら触ってみるか?お??」


ジム「や、やめてよ、そんなことしてる場合じゃないだろ!」


ジョン「なんだ?興味ないってのか?お前もしかしてソッチだったのか?ソイツぁわりぃことしたなぁ。男の俺はさぞ魅力的だったろうに。」


ジム「そんなわけないだろ!僕は普通に女の人が好きだよ!・・・からかってないで、元に戻る方法を探さないといけないだろ。」


ジョン「・・・」


ジム「な、なんだよ。急に黙ってこっち見て。」


ジョン「・・・やめた!」


ジム「は?」


ジョン「やめたっつってんだよ。このままでいい。」


ジム「なんでだよ?元に戻らないと。」


ジョン「いいんだよ。ほら、船に戻るぞ。」


ジム「あてて!引っ張るなよ!なんなんだよ!ほんとに戻らなくていいのか!?」


ジョン「いいっつってんだろ。なんだお前、女より非力でやんの。」


ジム「お前は男だろ!」


ジョン「今は女だよ。今からは、か。ほれ、お前なんか抱えてあるけらぁ。」


ジム「お、おい!放せよ!下ろせよ!!!」



 ジョンがどうして女になったままでいようと思ったのか、それはまだ、血も涙もない海賊であったはずの自分に目覚めた気持ちに気づいた彼、いや、彼女しか知らない・・・。

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