シンデレラの相手は王子?
琴春
シンデレラの相手は王子?
シンデレラは走っていた。
魔法使いとの約束の時間、12時を過ぎてしまったからだ。
急いで家に帰らなければ。
魔法はすべて解けてしまった。
ああ、どこかで靴を落としてしまっ
た。
足が痛くて、もう走れない。
シンデレラは側にあった木にもたれ掛かるように座った。
これからどうしよう。
裸足で走ったせいで、怪我をしてしまった。
走れない。
でも早く帰らないと、何を言われるか。
シンデレラは泣きそうになっていた。
その時、
「どうした、そんなところで」
男性の声がした。
暗くて顔がよく見えない。
「怪我をしているのか?」
「あ、あの、大丈夫ですので…」
「いいから来い、俺の家すぐそこだから」
そう言って彼はシンデレラを抱き上げた。
「きゃ!お、おろしてください…」
「おとなしくしてろ。落とすぞ」
シンデレラはしぶしぶ彼の肩に掴まった。
彼の家は本当に近くにあった。
この人は木こりか狩人かしら…?
シンデレラはそう感じた。
家の中に入り、灯りをつけると、暗くてみえなかった彼の容姿が目に入った。
黒髪。
美しい漆黒。
瞳は、碧。
シンデレラは彼のもつ色に見入った。
「…お前、名は?」
「シンデレラよ。あなたは?」
「…タツキ。お前はこんなに暗い森のなかで何をしていたんだ?靴も履かずに」
「…早く家に帰らなければいけないの。この森を抜けたところに私の家があるのよ。近道にと思って入ったの。靴は走っている途中で脱げちゃった。」
「そうか。だが、こんな夜に森を抜けるのは危険だ。俺は明日、この森から去る。ついでにお前を近くまで送ってやる。今日はここに泊まれ。」
「…いいの?」
「嫌ならこんなこと言い出さない。」
「…ありがとう」
彼は手当てのための薬草を持ってきた。
「先に足の手当てするぞ。少し滲みるが我慢しろ」
「うん、っ、いたい…っ」
「知ってる。とげとかは刺さってないから、これで大丈夫だ」
「ありがとう」
「もう夜も遅い。寝るぞ。明日は早くに出発する」
「うん。私はどこで寝たらいいかしら?」
「そこのソファーで寝ろ。俺はベッドで寝るから。これかけてろ」
そう言って彼は毛布を手渡した。
「ありがとう。これで寒くないわ。おやすみなさい」
「ああ」
シンデレラが寝静まった頃、
「やはり少し寒いな。」
タツキは起きて、暖炉に火を焚いていた。
「こんなに傷を作って。可哀想に」
シンデレラの頬を撫でる。
「お前のことは俺が守るよ、シンデレラ」
そう呟いていたことをシンデレラは知らない。
「おい、起きろ」
シンデレラは男の声で目が覚めた。
「…ん、タツキ…?…もう時間?」
「出るぞ」
「ま、待って」
「早くしろ」
シンデレラは急いで支度をした。
外に出ると、空はまだ白かった。
「寒いからこれ着てろ」
彼は自分の外套をシンデレラの肩にかけた。
「私は大丈夫よ。あなたこそ寒いでしょう」
「いいから着てろ」
「…ありがとう」
二人は歩き出した。
「ねえ。あなたは木こり?狩人?」
「別に。ただ森で生活してるだけ」
「そうなの。これからどこへ?」
「この国を出て隣国へ行く」
「…じゃあ、もう会えないのね」
「……」
沈黙が続いた。
「俺が送れるのはここまでだ」
「…そうね。これ以上行くと見られてしまうものね。あなたの髪」
この国では、信じられてきた伝承がある。
『黒髪は不幸を呼ぶ』
この国の人々は、この言い伝えを信じ、黒髪を疎んじてきた。
シンデレラの髪は黒に近い茶色。
彼女が家で冷遇されている要因の一つだ。
「私、あなたのこと好きになってしまったわ。だって、あんなに優しくてしてもらったの、生まれてはじめて。あなただけだったの」
『この疫病神!』
ごめんなさい。
『お前がいると不幸になるんだよ』
ごめんなさい。
『あいつ、早く消えてくれないかねえ。どこぞでのたれ死んでくれればいいのに』
…ごめんなさい。
「…シンデレラ」
ふいに名を呼ばれる。
「必ずまた会える。少し時間がかかるかも知れないが、待っていてくれないか」
「…本当?」
「ああ、本当だ」
「…うん、待ってる、待ってるから」
だから、
「俺もお前が好きだ」
パン!
「今までどこに行っていたんだい!?言いつけていた仕事がなにも終わっていないじゃないか!」
「お前みたいな疫病神を家に置いてやってるのよ!少しでも恩を返そうという気持ちはないのかしら」
「図々しい娘ね!」
「…申し訳ございません、お義母さま、お義姉さま。今すぐ取りかかります。」
殴られた頬が痛い。
心が痛い。
でも、タツキが来てくれる。
そう思えるから、頑張れる。
数日後、私たちは突然、玄関ホールに集められた。
「あなただ!私の運命の人よ!」
王子が、私の落とした靴を持って現れたからだ。
「どうか、私と結婚してください!」
王子が求婚している。
お義姉さまに。
「ええ!もちろんですわ、王子様!」
「王子様、この方は少しだけ靴のサイズと合っていないように見受けられます。別人では?」
後ろに控えていた男が言う。
そうよ、だってそれは私の…。
「いや、彼女こそ私の運命の人だ!雰囲気や背格好、顔だって彼女のものだ!」
「そうよ!あなたは何を言っているのかしら!?」
「彼女もこう言っているではないか!私の目に狂いはない」
違うわ。この王子どこを見ていたのかしら。
お義姉さまと私が一緒に見えるなんて目がおかしいのではなくて?
「しかし王子様、一応すべての女性に試していただかねば。おい、そこの娘、前へ。」
私にも履かせるの?
「この娘はよい。」
「?なぜでしょうか?」
「こんなみすぼらしい娘にはすぎた靴だ。彼女はそのような娘ではない。それに、その髪はなんだ。不幸の色をしているではないか。そのような者、私の運命の人であるはずがない」
なぜ、このような言葉をかけられなければならないの?
悔しい。
私が、この髪でなかったならば。
もっと、違う色であったならば。
もっと…。
ガチャ
「では、その娘は私がもらい受けよう」
男性の声がした。
「異論はあるまい」
私の、大好きな声。
振り向くとそこには、
「…タツキ」
「待たせてしまったな」
愛しいあの人がいた。
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