内野ゼミは何かおかしい

相沢ヒイロ

プロローグ

カタカタ....


薄暗い部屋の中で硬質感のある音が等間隔に響く。

部屋が薄暗いのは別に集中するためというわけでは無い。ただ単純に部屋の間取りの関係だ。


キーボードを叩くのをやめ、部屋の冷蔵庫から炭酸飲料を取り出す。

お酒があまり飲めない僕にはこの炭酸飲料が飲み物における嗜好品だ。


プシュと微妙に気が抜けた炭酸が奏でる音色を聴きながら、僕は椅子に座りなおす。

一人暮らしを始める時にちょっと奮発して買った椅子、確か商品名はプレシデント・チェアとかいうかっこよさそうな名前だったなとどうでもいいことを思い出しながら黒塗りのソレを回転させる。


そこから座って見る景色はそれまで向き合っていたパソコンの画面ではなく、今年で入居3年目となる1Kの部屋の壁であった。


大学を卒業し、社会人となってもう3年目にもなるがこの生活にはまだ微妙に慣れていない。


仕事にも慣れ、やりがいを多少感じ始めはしたけれど、何故だかまだしっくりこない。


気の抜けた炭酸を飲みながら、やっぱり炭酸はその日の内に飲み切っておいたほうがおいしいなと思いつつグビッと飲み干すとそのままゴミ箱に投げ入れる。


椅子を回転させて机に向かい直るのと、開いていたパソコンからフォンと聞き慣れない電子音が鳴ったのは同時であった。


パソコンのウィンドウを確認するとそれは卒業する際に仕方なく登録したSNSの通知。


『上京大学内野ゼミOB・OG会のお知らせ』


Subjectの欄にそう書かれた投稿は1か月後に行われる同窓会の招待状であった。


「えーと、1か月後だから...1月の21日か」

机の横に置いていた鞄から手帳を取り出すと予定を確認する。

去年のOB・OG会は社会人としての生活に忙しく、スケジュールも合わなかったため欠席したが、今回はどうやら出席できそうだ。


「...そういえば、誰が来るんだろう」

そう呟きながら僕―新垣達也あらがきたつやは個性的だった旧友たちの姿を思い出した。









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