貧困世帯の子育て事情

ミンミ

第1話 ユイが産まれた日

眠い。



強烈な痛みが収まるたび私の頭の中にはその3文字が浮かんだ。

想像してたのとちょっと違う。

もっとなんか野獣みたいにのたうち回ったり、痛みで叫びだしたくなったりするものだと思ってた。

いや、もちろんそうしたい気持ちはある。

でもあまりにも眠すぎて痛みが引いている1分の間に起きているのが精一杯。

そんな私にとうとう看護師さんが声をかけた。

「じゃ、そろそろ分娩台に上がろうか」





うぉぉおおらああぁぁっっ!!

陣痛が去った隙に勢いよく分娩台に上がる。

「陣痛が来たらタイミング良く息んでね」

助産師さんが慣れた感じで出産の準備を進める。

私はというとまだ眠い。

出産をするには余りにもタイミングが悪すぎた。

体重管理のため、昨日の昼と夜のごはんはかなり少なめ。

その割に陣痛を促すため自宅で運動しまくり。

結果真夜中に破水してしまい、朝はすでに陣痛が酷くて朝食を摂れなかった。

陣痛に耐えたり息んだりするには余りにも体力がなかった。

助産師さんが困ったように言う。

「うーん、なかなか出てこないね。もう産まれてもいいはずなんだけど」

そりゃまぁ私、息めてないからね。

でもとにかく産んでしまって終わらせなくては。

このままではゆっくり寝ることもできない。

あとお腹空いた。

なんとか息むと助産師さんが犬のしつけ並みに大袈裟に誉めてくれる。

「うまいうまい!すっごく上手だよ!」

よーし、私誉められて伸びるタイプだから頑張っちゃうよ。

すると、お医者さんが助産師さんに指示を出した。

「もう赤ちゃんの頭見えてるから、旦那さん呼んできて」

「はい」

速やかに待合室に向かう助産師さん。

え、ちょっと待って。

確かに立ち会い出産希望したけど。

よく見たら出入り口私の足側にしかないの?

あれ、ネットの体験談では ”旦那は頭側から出産を見守ってくれました☆” っていう書き込みが多かったように思うけど?

助産師さんのスムーズな案内により躊躇なく足側から入室してくる旦那。

ぎゃーやめてくれ。

やっぱ想像してたのと違う。

もっとスマートな立ち会い出産にしたかったんだー。



眠さと空腹と羞恥心がせめぎ合う中、第一子となるユイが産まれた。

季節は春。

まるで新しい命の誕生を祝福するかの陽気に包まれながら、旦那の脳裏には私の脚の間からユイの頭が覗いている光景が焼き付いたそうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る