彼がソドムとゴモラの方、それに低地の全地方を見下ろすと見よ、まるで竈の煙のように、その地の煙が立ち上っていた。


(創世記 19章 28節)



1


暗闇が怖いんです…。


夜が来るのが…。


黒い色が嫌いなんです…。


怖いから…。


これ、見て下さい…。


これが私に毎晩送られてくる、例のおかしなメールなんです…。


『031034503101』


って書いてありますよね?

はい…。これだけです。

私、これが凄く気味が悪くて…。

はい…。毎日なんです。

いつも夜の八時頃…。毎日同じ時間、内容もこれと全く同じ。この数字だけのメールが延々送られてくるようになったんです。


…気味が悪いんなら、なぜ着信拒否しないんだって思いますよね?

送信者の所…。

『阿部佳恵(あべよしえ)』って書いてあるでしょ?

これを送ってるの…。私のお母さんなんです!

こんなコト…こんなコト…絶対にあるはずないんです…!

だって…。

だってお母さん…。

1ヶ月前に死んでるんですよ!?


看護婦さん…。

私、凄く怖いんです…。

今夜もきっとまた、あの怖い夢を見るから…。

お母さんから、またこの変なメールが届くに違いないから…。

看護婦さん…。

普段、自分が何気なく生きてて、自分の中の何か、凄く大切な何かが足りなくて…。けれど、それが何なのかわからなくて怖いって感じた事ありませんか?

私…何かが欠けてるんです。

何か…自分の中の何か…凄く大事な何かが欠け落ちてる感じがするんです。

それが…その事が、堪らなく怖いんです。

自分が実は自分じゃないみたいっていうか…。

自分の中の何かが定まってなくて、まるですっぽりと何かが抜け落ちてる感じっていうか…。

それが何なのか解らないから、なおさら怖いっていうか…。


ごめんなさい…。

なんか私…『何か』ばかり言ってますね…。

これじゃ何が言いたいのか、全然意味がわかんないですよね…。

あ、いえ…。

思い出せないとか忘れてるとか、そんなんじゃないんです。

やはり、何かが抜け落ちてる感じなんです。

よくマンガとか映画に、記憶喪失の主人公が出てきて、大事なコトとかそれまで自分が経験してきたコトを一切、思い出せなくなるみたいなの…ありますよね?


自分の恋人や友達や家族の顔とか全部忘れてて、いきなり変な場所で目が覚めて、

『ここはどこ?私は誰?』

みたいな感じで始まったりする…。そういう場面とかがあるじゃないですか?


ご飯を食べる時のお箸や食器の使い方だとか、お風呂の入り方だとか、1+1は2だとか…。


今まで暮らしてきて、そうした生活の中で身についたコトはちゃんと覚えてるクセに、肝心なコトは何一つ覚えてないっていう…。


…目覚めた時?

何も覚えてなかったか…ですか?

いえ…。確かに目覚めた時は、そりゃ凄く混乱しましたけど…。

私はもちろん、自分のコトはちゃんと覚えてました…。


私は金城高校一年B組の阿部沙夜子(あべさよこ)…。

誕生日は平成4年5月26日生まれの16才…。

割と神経質な双子座で、学校の部活はバレーボール部で、モバゲーにハマってて…。

勉強で得意な教科は国語と倫理。理数系はあまり得意じゃなくて。数学は特に大ッ嫌いで…。

ミスドのオールドファッションが、超好きな食べ物で。

親友の真奈美や明美や智美のコトだって、好きな男子のコトだってちゃんと覚えてし…。


変ですよね、私…。

でも真っ先に考えたのって、そういうコトばかりだったんです。

だからお父さんとお母さんの事を聞いた瞬間は、もう凄くショックで…。


はい…。

私、その時も気を失ったそうですね…。ぼんやりとだけど、覚えています。


私…もう一人ぼっちなんです…。


お母さんとお父さんは今でも行方不明者扱い…。

遺体も発見されないまま、捜索も既に打ち切られてしまったらしいんです…。


私…ここ1ヶ月間ずっと意識がなかったから、その間に起こっていた事は何一つ分からなくて…。


あの時の火事で二人が生きてるなんて思えないし、あれから1ヶ月も経ってるから…。


…多分…もう…。


はい…。気がついた時には、もう目の前は真っ暗でした。

…っていうか、暗かったのか明るかったのかすら、最初は何が何だか分かりませんでした。

顔がヒリヒリするような痛みと一緒に目を覚ましたと思ったら、いきなり背中から体中にかけてビリッと激痛が走って…。

それはもう、物凄く痛くて…。


痛みと怖さで涙が出て…。

しばらくの間は目が霞んで…。病院の白い天井ばかりをぼんやりと眺めてた気がします…。


ああ、痛みがあるってコトは、ちゃんと生きてるんだなって…。


それからなんです。


私には何かが欠けてるんだ…ってそう思うようになったのは…。


…この顔の火傷ですか?


はい、もちろん火事の時にできたものだと思います…。

『自家移植』っていうんでしたっけ?

皮膚の外科手術のおかげで、幸い傷痕はそんなには残らないだろうって、担当の先生は言ってくれました。

はい…。ありがとうございます。たいしたことがなくて本当によかった…。


…けど、私はいいんです。

こうやって今もちゃんと生きてるから…。

お母さんなんて、お父さんと再婚したばかりだったのに…。私だけ生き残って、こんな事に…。


グスッ…うぅっ…。


はい…。

私はギリギリで生き延びた生存者だったらしいんです。

『帝銀ホテル・ニューヤマシタ火災事件』。

世間ではそう呼ばれている事件みたいなんです…。

けど、1ヶ月前の新聞を見せてもらっただけだし…。私も当事者ではあるんですけど正直、火災の後の事は何も…。


ひどいですよね…。


放火だったそうです…。

あんまりですよね…。


犯人も未だに見つかってないらしいんです。


一流ホテルに何か恨みを抱く者の犯行か、客や従業員に日頃から恨みを抱いていた者の犯行…。


あるいは放火魔の仕業じゃないかって、そう疑われてるらしいんですが…。


私の担当の佐伯先生から聞いた話だと、火災の起こった日は7月12日の土曜日…午後6時27分。


世間では、北海道の洞爺湖サミットが終わった話題で持ち切りだった時期に起こった、悲惨な事件だったんだそうです…。


場所は中央区銀座にある、都心の一等地に構える三十階建ての高級高層ホテルで、名前は『帝銀ホテル・ニューヤマシタ』。


付近にはたくさん建物が密集していたにも関わらず、幸い類焼延焼の被害はなかったそうです。


ガス爆発だと最初はそう疑われたらしいんですが、火元と思われているのはどうやらホテルの9階か10階辺りの客室で、ホテルの屋上を含む上の階の大部分は焼けずに済んだそうです。


幸いスプリンクラーや防火シャッターなどの火災設備が整ったホテルで発覚も早く、チェックインが始まって間もない夕方頃の時間だった事もあって、避難できた人達は比較的スムーズに火災からは逃れられたそうなんですが…。


台湾人の夫婦2名と韓国人の旅行者が3名。アメリカ人1名に日本人7名を含む、死者13名の遺体が焼け跡から確認されたそうです…。


主に火元の9階と10階を中心に燃え、廊下での焼死など、火災による死者だけでなく、有毒ガスから逃れる為に、窓から飛び降りて命を落とした人もいたそうです…。


きっと…逃げ遅れた人達だったんでしょうね…。


行方不明者は、私のお母さんとお父さんも含む4人…。

重軽傷者は28人にも及んだそうです。


新聞やニュース、週刊誌でも何度も取り上げられたんだそうです。

どこかのテレビ局のワイドショーでは、

『週末で人がごった返すこの時期に、この程度の被害で済んだのは不幸中の幸いですね』

そんな無責任な事を言った最低なコメンテーターまでいて、凄く問題になったそうです。


はい…。

私のお母さんは今年の6月に智治おじさん…。今のお父さんと再婚したばかりだったんです。


今回の旅行を考えついたのはお母さんでした。


智治おじさんは前々から、ちょくちょく家に来て会ったりとかしてたし、お母さんもほぼ女手一人で今まで私を育ててきたようなものだから、もしかしたら援助してくれるパトロンくらいはいるのかな…なんて思ってたからあんまり驚きはしなかったんですけど、まさか離婚届を出したその足で婚姻届も出して再婚したのには私もびっくりしました。


きっとお母さん…私の本当の父のコト、あまり好きじゃなかったんだと思います…。

生活も本当に苦しかったし…。

パチンコに行って酒浸りのアイツが家に生活費を入れてたなんて思えないから…。


お母さん、今年に入って車で軽い接触事故を起こしたコトがあって、その時に相手の方と示談だとか車両保険だとか、警察との現場検証だとか…。


難しいコトは私には分からないんですけど、事故現場で色々と助けてくれたのが今のお父さん…。

高城智治(たかぎともはる)さんだったんです。

智治おじさんって私はお父さんを最初の頃はそう呼んでいました。


だから、あの時は凄く嬉しかったな…。

『智治おじさんが、本当のお父さんならよかったのに』

…私、お母さんにそんな風に言ったコトがあったから、まさかそれが実現するなんて思ってなくて…。


智治おじさん、お母さんと籍を入れる前の日の夜に、こういうの古いけどさ…って前置きしてから私とお母さんに言ったんです。


『これからは僕が、佳恵さんと沙夜ちゃんの支えになるよ。血の繋がりなんかなくても今日から僕がこの家の大黒柱だ。だから沙夜ちゃんもさ、親父でもパパでもいいけど、出来ればお父さんって呼んでくれないかい?』

…って、そう言って。


ええ…。

本当にいいお父さんでしょ?


芸術家らしく口髭を生やしてて優しくて。背も高くて脚もスラッと長くてカッコよくて…。


本当に童話に出てくる『脚長おじさん』みたいな理想のお父さんだったし、誰にも渡したくないタイプの男性だったから私、凄く嬉しかった…。


…本当の父ですか?


あの…正直、あんまり思い出したくないんです…。


アイツのおかげで、お母さんや私の人生はメチャクチャにされてきたも同然なんです…。


私の本当の父は仕事から帰ってきてお酒に酔うと、事あるごとに私やお母さんに暴力を振るう最低な父親だった…。


アイツと自分の血が繋がってるのかって思うと、自分が物凄く情けなく思えてくるから…。


私はお母さんが16才の時に、アイツとの間にできちゃった子供なんです。


…16才ですよ?


…信じられないでしょ?

お母さんが高校一年の時だから、ちょうど今の私と同じなんです。


今なら別にめずらしくないのかもしれませんけど、お母さん自は私を産んだコトは決して後悔なんかしてないわ、っていつも繰り返し言ってました。


お母さんと本当の父は、私が産まれる前に、駆け落ちに近い形で東京に来たらしいんです。


アイツは…実の父は板金工場で働く技士でした。お母さんも水商売とかスナックとか…。


その…夜の仕事を転々としていて…。


だから…生活は荒んでいたとまではいかないけど、苦しかった…。


幼い頃から私は両親と遊んでもらった記憶すらありません。


両親がそんなだから、私には生まれた時から親戚とかもいません。


本当に私、一人ぼっちになっちゃったんです…。


…………


あっ! ごめんなさい。

何も気付かなくて…。

その…私、一方的に喋ってばかりですよね…。

…喉、乾いてません? 何か頼みませんか?

…あ、はい。それじゃあ、お店の人呼びますね。

…すみませ~ん! メニューお願いしま~す!


あ、来た来た。

私は…じゃあオレンジジュースにします。看護婦さんは…あ、戸田さんって仰るんですね?

下の名前は…? へぇ、恵梨子さんっていうんですか?

芸能人の名前に似てますね…。

うふふっ…。


恵梨子さんは何がいいですか?


…あ、すみません。

それじゃあアイスコーヒーと…。えっと…じゃあオレンジジュースお願いします。


………

…ねぇねぇ、見ましたか? 今のウエイトレスさんが着てた服…。

全身があんな真っ白い服の上に、私物のエプロン姿だなんて、随分変わったお店ですよね?


ところで…。


あの…恵梨子さん…。

お母さんからの、この変なメールもそうなんですけど私、最近おかしな夢ばかり見るんです…。


最初に暗闇が怖い…って言いましたよね?

そのコトとも無関係じゃないっていうか…。


あ、いいえ…。


暗所恐怖症とか閉所恐怖症っていうのとは、ちょっと違うと思います。


そういうナントカ恐怖症とかって程度の差はあれど、誰しもが普段から持ってる恐怖とかが病的に発露する…要するにそういう病気なんですよね?


別にめずらしいコトでもなんでもなくて、何かしら強い恐怖体験が引き金になって、それがトラウマだったかPTナントカとかいうストレスになって、病気になっちゃうようなコトって誰でもあるんですよね?


…違いましたっけ?


尖ったモノを一切身の回りに置けなくなる尖端恐怖症とか、洗面器に顔を浸けるコトも出来なくなる水恐怖症とか…。


小さい頃に犬に噛みつかれた人が犬嫌いになったり、カラスや鳩を食べてる猫を見て、それで猫が嫌いになったりとか…。


恐怖症や強迫神経症って幼い頃の経験や、何らかの恐怖体験が、ある契機を境にしていきなり病気に変わっちゃうコトがあるんだって、私もテレビか何かで見たコトあります。


…え? 私…ですか?


あ、いえ…。心当たりっていわれても…。


私の場合は、正確に言うと眠る時の暗闇が怖いんです。目を閉じると暗闇が膨らんでいくみたいに感じて…。


あの火事に遭ってから、自分がどす黒い塊になって黒い血を吹き出して、バラバラになってドロドロとした暗い穴に吸い込まれていく悪夢ばかり見るんです…。


自分の体が黒い霧みたいにその闇に溶けて、ブラックホールみたいな真っ暗な穴に、あっという間に吸い込まれていくような…そんな夢なんです。


はい…。

薄気味悪い夢ですよね…。

だから暗闇の黒い色は凄く嫌いなんです…。


この病院の消灯時間って、いつもちょうど9時ぐらいでしょ?


あの『031034503101』っていう、おかしな数字だけのメールが来た後だから、もう本当に怖くなっちゃって、眠れなくて…。


やっぱりあの火事のせいなんでしょうか? この何かが欠けてる感じって…。


私…これからどうなっちゃうんでしょう…。


あの火事が起こる前の話…?


え、ええ…そう言われてみれば、確かにそうかもしれないですよね…。全ては、あのホテル火災の時から始まってるのかもしれません。


あの時の事をできるだけ詳しく思い出してほしい?


え、ええ…。

それは構いませんけど。えっと…それじゃあ何から話せばいいのか…。


…え? それ違う?

あ、ごめんなさい! 私、そういえばオレンジジュースを頼んだんでしたよね。ごめんなさい…。つい口をつけちゃって…。


すみません…。なんか、ぼんやりしちゃってました…。

あ、はい…。それじゃあ順番に話していく事にしますね。


…………


ええ…あれは忘れもしません。7月12日の土曜日の事でした…。


親子三人で東京の名所の一部をのんびりと、あまりガチガチに予定を決めないで小田急の観光タクシーのプランで回る、旅行っていってもそうしたシンプルなものだったんです。


車だとガソリン代とか今は高いし、お父さんも疲れちゃうし、バスだと家族旅行でも予定が狂っちゃうコトがあるからって…。


『いっその事、六時間の移動プランで若者向けのおしゃれなものにしようか?』って、お父さんが言ってくれたんです。


前々から、親子で旅行に出かけようよっていう話はしてたんです。


最初にお話しましたけど旅行に出かけようって最初に言い出したのは、お母さんでした。


お母さんってば、私やお父さん以上に、はしゃいじゃって、たかが東京を改めて見て廻るだけの家族旅行なのに、前の日にはサマンサ・タバサのジュエリーを身に付けて行こうだとか、夜には三人で夜景の見えるレストランに行こうだとか、そりゃもう凄くはしゃいじゃって…。


今までそんな余裕がなかったから、よほど嬉しかったんだと思います。


お父さんも『これじゃ、どっちが娘だかわかんないね』なんて言って笑ってました。


私とお母さん、体型もあんまり変わらないし、髪型を除けば後ろ姿とか凄く似てるらしいんです。

私も近所でいきなり後ろから、知らないおばさんに声をかけられたりとかしましたし…。

お母さんの方でも、休みの日に私服を着た私の友達に間違えられて声をかけられたなんてコト…実際にあったらしいんです。


7月はお父さんが仕事のスケジュールを調整したり、私も週末の土日の話だから、部活は休ませてもらって、友達との予定はなるべく入れないようにしたりと、そんな感じで旅行の話はトントン拍子に進んでいきました。


でも…私は実を言うと、お父さんやお母さんと楽しみにしていた旅行、本当は嫌でした…。


いえ…嫌だったっていうより予感…っていうんでしょうか?


旅行自体は楽しみだったけど何かが起こりそうで、とても不安だったんです。ずっと今までそんな経験がなかったから…。


そんなお姫様みたいな贅沢していいのかな…とか。こんなに幸せでいいのかな…って、そんな風に感じてしまったんです。


けど、そんな私の不安は全然たいした事のない心配事でした。


…旅行ですか?


そりゃあもう、凄く楽しかったです!


四人乗りで黒塗りの、ベンツタイプのハイグレードタクシーが浅草の家に迎えに来てくれました。


運転手さんは後藤道弘(ごとうみちひろ)さんっていう年輩の人だったんですけど、その人が、まるでどこか大きなお屋敷で雇われてる執事みたいな人だったんです。


言葉使いや仕草とかもどこか上品で味のある、白髪頭で黒い眼鏡をかけた面白いお爺ちゃんでした。

私とお母さんも隣同士で顔を見合わせてクスクス笑ってました。


後部座席に座ると、なんか私達、良家の奥様とお嬢様の親子みたいで可笑しくて…。


後藤さんは話題も豊富で助手席のお父さんともすっかり打ち解けちゃって。

車中でもそのうち慣れてくると後藤さんったらニコニコとして、

『旦那様、本日のご予定はいかがなされますか?』

…とか。お母さんには、

『奥様、エアコンは寒くはありませんか?』

…とか。私にも、

『お嬢様、キャンディーはいかがですか?』

なんて言うものだから、それがまた可笑しくて、移動中の車の中でも退屈せずに笑いが絶えなくて凄く楽しかったんです。


後から聞いた話だと、そうやって執事の振りをする方が、お客さん受けが良くて話題になるからなんだそうです。


人柄と話術の上手さで、リピーターも何人かいるらしくて、会社からもこのサービスのおかげでドライバーを長く続けさせてもらえてるんだって後藤さん、そう言ってました。


改めて自分達の住んでる東京の名所を見て廻るだけの旅行なのに、凄く楽しかったです。


小さい頃に遊園地や動物園に連れて行ってもらったりするような、子供の頃でも覚えてる幸せな記憶って私にはないし、家族で過ごすような贅沢な時間なんて全くなかったから…。


六本木ヒルズでは、宇宙メダカで有名な毛利庭園でのんびりと景色を眺めて楽しんだり、ヒルズの展望台に登ったりしました。


恵比寿ガーデンプレイスには恵比寿駅で一端降りて『スカイウォーク』っていう動く歩道を通ったんですけど、夜間には毎年イベントがあるのか、300インチはあるような大型スクリーンのある場所を通ったりもしました。


お父さんが行きたがってた東京都写真美術館にも行ってきました。


代官山アドレスで静かで穏やかな景色を眺めたり、高級ブティックでお母さんと一緒にショッピングしたり、昼食は表参道のオシャレなちゃんこ専門店で、家族でちゃんこ鍋を食べたりして。


2時近くに、車で送ってくれた後藤さんとはお別れになりました。


見送ってくれる帰り際に私はどうしても気になって聞いたんです。

『お仕事とはいえ、どうして年下の私にまで、後藤さんはこんなに良くして下さるんですか?』

…って。

後藤さんは孫を見るような目でニコニコと私を見ると、

『お嬢様は随分とお優しい方でございますな。

なぁに、人の道は幾つもあれど、家族で過ごす時間が何より大切に感じるのは私も同じ。

私にもその昔、家族がいましてな…。私は忙し過ぎて家族とロクに過ごせないまま体だけは頑丈で家族の為にと、バリバリと働いておったのですが、そのうち家族の方が先に壊れてしまいました…。

だからこんな形であれ、家族の一員になれて私は有り難いのです。たとえ一期一会でも、お会いする方々に実際にお仕えする気持ちで接しますのが私の務め…。

旦那様、奥様、お嬢様…どうか気をつけて行ってらっしゃいませ』


最後までニコニコと柔和な笑顔を絶やさずに、深々とお辞儀をして私達を見送る後藤さんの姿が、凄く印象的でした。


お母さんもお父さんも後藤さんに笑顔で見送られながら、これから始まる新しい家族との新しい時間に胸をワクワクさせていたに違いありません。


そう…。


私達親子にとって、それが一番幸せの絶頂期だったなんて、その時は考えもしませんでした…。


…………


ホテルに着いたのは昼の3時頃の事でした。


『帝銀ホテル・ニュー・ヤマシタ』。それが私達の泊まったホテルの名前です。


元々、海外から来る観光客や保養者向けに建てられた建物だったんでしょうか?


表の部分はどこか古い洋館を何度も改装したような雰囲気で、それでいて現代風なデザインがきっちりと施された30階建ての高層ビルだったんです。


ホテルはシックな白と黒い外装がオシャレな洋風の建物でした。黒いレンガと白の壁のコントラストが鮮やかで、正面の外観だけをとって見ればホテルというより、ヨーロッパにあるお城や教会のイメージに近いような、そんな綺麗な建物だったんです。


…けれど私にはやはり予感めいた嫌な思いが、沼地の底のヘドロみたいに心の奥底で溜まっているような気がしました…。


全国でも指折りの高級ホテルなのに、私にはなぜかそこが忌まわしい場所のように…。本当になぜか、そんな風に感じてしまったんです…。


ちょうどチェックインが始まる時刻だったようでした。


回転式の自動ドアを開けてすぐの入り口には、ホテルの支配人やフロントの人。それに灰色の制服に帽子を被ったベルボーイの人達。それにエプロン姿に黒いメイド服の制服を着た女の人達が沢山並んで立っていて、一斉に頭を下げて私達を出迎えてくれました。


凄く驚きました。外国人の従業員も結構混じっている上に、それぞれが一斉に『いらっしゃいませ』と、お辞儀する頭の角度や動作。発声する声やタイミングの一つ一つまでが、まるで統制の取れた軍隊のように一糸乱れぬ様だったんです。さすが一流ホテルだなって思いました。


内装も豪華できらびやかで、改めて凄く特別な場所なんだって感じました。


お父さんは予め二部屋を予約してくれていたようでした。


再婚したばかりのお父さんとお母さんの部屋は、豪華なダブルベッドの部屋。私には、広めのシングルルームが割り当てられました。


どちらも帝銀ホテルの最上階にある、ロイヤルスイートルームっていう所でした。


『ねぇ、ここ凄く高いお部屋なんでしょ?』

って、お母さんがこっそり言ったらお父さん、

『今日は家族の記念日だから特別だよ』

…って。私もお母さんと同じように感じたから、やっぱり宿泊代とかは凄く気になっていました。

お父さんがそう言うし、せっかくの好意に水を差すみたいな俗な感じがするから、努めて気にしないようにはしてましたけど…。


それまで私、ホテルに泊まった経験すら少ない家庭に育ったから、正直言うと戸惑いの方が大きかったんです。


多くの人達に『ごゆっくりどうぞ』と挨拶を受けながら、颯爽と私達の前を歩くお父さんの姿が、まるで王侯貴族の伯爵みたいで凄く素敵に思えました。


家族のコトを少しも顧みなかった、あの野卑で小心者な実の父と比べて、お父さんはこんなにも優しくて頼りがいがあって…。


私は改めて、生みの父親の不甲斐なさを思い知ったような気分でした…。


ミシュランガイドにも載るだけあって、ホテルは凄く豪華でした。


クリスタルを沢山あしらった綺麗なシャンデリアがある吹き抜けの広いロビーには、既に他のお客さんも沢山いて、それぞれにくつろいでいるようでした。


日本人に混じって外国人もかなり宿泊しているようでした。人種も白人だったり黒人だったり。髪の色もブロンドだったり縮れた黒だったり。立派な髭を生やしていたり。中国系や韓国系の人も、それに日系の人もかなりいるようでした。


当たり前ですけど客層も年齢層も見事にバラバラで、フランス人形のようなブロンドの可愛い女の子が…実際フランス人だったのかもしれませんけど、両親に手を引かれて歩いていたり…。


銀髪で背の高い老夫婦が談笑していたり、ドイツ人っぽい立派な口髭を生やした男性が葉巻を吹かしていたり、韓国人の女性がハングル語で携帯電話で話していたり。


黒いスーツに丸いサングラスをかけた、要人を護衛するSPみたいな中国人の男性がいたり…。


私に唯一分かった事は、外国人のお客さん達が着ている服や靴はかなり上等で、身に着けている腕時計やアクセサリーとかを見る限り、お金持ちの部類に入りそうな人達しか、この場にはいないという事でした。


フロントで客室係の人に荷物を持ってもらったり、お母さんが宿泊カードに記入する間に、私は迷子の子供のように辺りをキョロキョロと見渡してばかりいたように思います。


その時に始めて気付いたんですが、フロントの後ろ側には防犯カメラの映像モニターがズラリと沢山並んでいるのが見えました。


地下の駐車場やロビー、喫茶店のテラスや各階の客室、バーやレストランの至る所まで、全て管理が行き届いているようで、セキュリティーの面でもかなり信用できるホテルのように思えました。


フロントで見たように、従業員まで外国人を雇い入れている特徴的なホテルだったんです。


国籍も人種も髪の色も肌の色も言葉も、てんでバラバラな人達が普通に荷物を運んだり、コーヒーを運んだり案内に歩いたりしてるから、まるでSF映画のワンシーンにいきなり迷い込んだような不思議な気分でした。


一流ホテルはエレベーターまで豪華でした。特注のクリスタルのペガサスの意匠がゴンドラの中央に大きく施された、滅多に見られない様式のエレベーターだったんです。全面ガラス張りのエレベーターに乗ると、まるでこの摩天楼が天上界へと続いているような、そんな気にさえなりました。


スイートルームの並んだ最上階は廊下も豪華で、黒い高級なペルシャ絨毯のカーペットが敷かれ、銀色の甲冑まで置いてある、中世のお城のような豪華な場所でした。


ペントハウスのような最上階から、ふと窓の外を見ると遠くには、東京タワーの黒い影が上空を貫くように聳え立っていました。


反対側の部屋に泊まる両親と中央の回廊で一端別れてから、私は一人で客室係の人に案内されながら、自分に充てられた部屋に向かいました。


実を言うと、私は自分の部屋に荷物を置いたら両親には内緒で、こっそりと単独行動をするつもりでいたんです。


お母さん、きっと今まで私の為に苦労してきて、プライベートで充実した時間なんか全くないぐらい、気の休まる暇もなくバタバタしてたから…。


それにいくら正式に再婚したとはいえ、新しい父親とホテルで顔を合わせるのは何となく気恥ずかしくて…。それに夫婦水入らずを邪魔したくなかったんです。


近くに東急ハンズやドン・キホーテが見えたから買い物にでも行ってこようかな、なんてそんな風に考えながら、私は自分に充てられた部屋へと向かいました。


案内された部屋は凄く明るくて、広さにして12畳はありそうな、とても綺麗な白い部屋でした。


意外にも部屋そのものの壁紙とかは比較的落ち着いた色で、窓なんかは白い木枠で、シルクの白いカーテンがある、シンプルな構造をしていました。


けどストゥールや机、探偵映画に出てくるようなアームチェアや金色のランプシェードは一目で年代物と分かるような、アンティークショップでしか見られないような豪華なものでした。


シーツもベッドカバーも見た目からして凄く柔らかそうで。大きくて快適な木製のベッドは、寝そべったらすぐにでも眠くなっちゃいそうな気がしました。


部屋の隅には豪華なレンガの飾り暖炉があって、その上の壁には大きな角を頂いた、鹿の剥製まで掛けられていました。

外国の映画でしか見られないような、それも初めて来る場所なのにどこか懐かしくて凄く温かみのある部屋で、私はすぐ気に入ってしまいました。


あまりに自分が場違いな気がしてキョロキョロしてばかりいたから、従業員の人から鍵を受け取るのも忘れていたほどです。


鍵はカードキーでした。

入口のドアの近くにある壁に小さなスロットがあって、鍵を差し込むと部屋の照明やスタンドが点灯するようになるタイプのキーのようでした。


『…何かご用があれば、何なりとお申しつけ下さい』

客室係の男性は恭しく執事のように、体の中央辺りで両手を水平にして深々と私に礼をしてから、静かに部屋を出ていきました。


一つしかないオートロックの黒い木製ドアは、いかにも硬くて頑丈そうな作りをしていました。


客室だからなのか、ドアチェーンや覗き窓のようなものも一切ついていないようでした。


メッセージ用のメモ用紙一枚くらいなら通りそうな隙間が足元にあるぐらいで、落ち着いた部屋の中とは違う、とても硬い雰囲気を持ったドアでした。


お母さんにはメールを送る事にしました。

『夕食までには帰ります。お父さんと、どうぞごゆっくり(*^_^*)』

…って。クスクス…私っていい娘でしょ?


夕食は屋上にある展望レストランで、フランス料理にしようって三人で決めていたんです。

フロントの外国人の人に鍵を預けて、私が外出したのは夕暮れも近い、夕方の4時頃の事でした…。


…………


そうです…。

あの火災が起こる前、私はホテルの部屋にはいなかったんです。

だからあの時、ホテルの中でお父さんとお母さんの身に本当は何が起こったのか、はっきりと詳しい事はわからないんです…。


色々と銀座の街をぶらついて、外出から帰ってきてフロントで鍵を受け取ったのは、既に暗くなり始めてきた夕方の5時少し前の事でした。


メールだけ送って勝手に出てきちゃったから、もしかしたらお母さん、メール見てないかもしれないと思って、とりあえず私はお父さんとお母さんの部屋に向かいました。あまり心配かけたくなかったんです。


二人の部屋をノックしてみて、私は即座に異変に気付きました。


夜は三人でレストランに出掛けようよ…って。


そう約束していたはずなのに、部屋からは誰も出てこなかったんです。何度呼びかけても、全く応答がありません。


胸騒ぎがしました…。

胸の奥底でモヤモヤしていた不安感がいきなりはっきりと形を成した…。

そんな気がしました。


私にはすぐに分かったんです! お父さんとお母さんに、きっと何かあったんだって!


急いでフロントにいた従業員の女の人と一緒に部屋を探してみたけど、お父さんもお母さんもどこにもいませんでした…。

バスルームにトイレ、ベッドの下やクローゼットまで探したけど、誰もいないんです!


従業員の女の人はイギリス人の背の高い人で、彼女は流暢な日本語で、

『荷物はそのままですし、フロントに鍵は預けておられませんから、ホテルのどこかに必ずおられるはずですよ。バーや喫茶店にでもいらっしゃったのではありませんか?』

…って。


最初は私の取り越し苦労かとも思いました。

もしかしたら私に内緒で二人でどこかに行ったのかもしれない…。


私が二人に内緒で出掛けたりしたから、今度は私をびっくりさせようとしているのかも…。

沙夜子も、もう子供じゃないんだから心配いらないとでも考えて、バーかどこかで一杯やっているのかもしれない…。


自分の部屋でそんなコトを考えながら、私はいつの間にかベッドに寝そべっていました。


正確な時間はわかりません。5分か10分か…。

私がベッドで半ば微睡みかけていた…その時でした。


ドン! って何かが瀑ぜるような音がしたと思ったら一瞬だけ、身体が浮くような感覚がありました。

最初に異変に気付いたのは臭いでした。

何か焦げ臭くて、辺りに妙な熱気を感じたんです…。


…火事だ!


そう思った途端、突然けたたましい音で火災報知器が鳴り響いて、火災発生を告げる館内放送が流れたんです。


人間って本当に突発的な事態には何も出来ないものですね…。

ギョッとして、身体が固まったように現実感がなくて、ボーっとしてたんです。


私、今にも黒い炎が背中に迫って来るようで本当に怖かった…。


火の勢いは怖ろしく早くて、部屋の中がさっきよりも熱くなってきているような気がしました…。


ようやく急いで部屋を出ると、足元には既に黒っぽい雲みたいな煙が、モクモクと渦を巻いていました。


私はハッと気づいて、お父さんとお母さんの名前を呼びながら、二人の部屋のドアを、壊れても構わないぐらいの勢いで何度も必死に叩きました。


けど、二人は帰ってきた様子は全くなくて、部屋からはやはり物音一つなくて…誰一人出てこないんです!


そんなコト…そんなコトあるはずないんです!


凄く不安でした…。反対側の私の部屋はもちろん、トイレにもバスルームにも、どこにも、誰もいませんでした…。


四方八方から徐々に床を這うようにして漂ってくる煙に咳き込みながら、私は心細くなって、そこら中を探して…。最後には宿泊客の退避を手助けしていたフロントの人に、また部屋を開けてもらう事にしました。


フロントの人は帽子を被ったベルボーイの若い男の人まで駆り出して、私と一緒に両親の泊まっていた部屋や付近を急いで捜してくれるようでした。


ガラス張りのエレベーターに乗り、再び私は上へと上がりました。


…なんでこんなコトになっちゃったんだろう?


…なんで!? どうして!?

焦ってました…。

上へ登っていくガラス張りのエレベーターが、その時は地獄への一本道みたいに思えました…。


部屋を開けるまでの時間が本当にもどかしくて堪りませんでした。それに従業員の人に部屋の中、特にベッドの回りとかを見られるのも、何となく嫌でした。


けれど…そんな私の気持ちは部屋に入った瞬間に凍りつきました。


お父さんとお母さん…。

やっぱりどこにもいないんです!どこかに消えたみたいに…。煙のようにいなくなっていたんです!


『お客さん、もう駄目だ! きっと両親は既に避難しているはずです!』


『違う! 違う違うっ!

お父さんとお母さんは、私を置き去りにしていなくなったりしない!』


『けれど…お嬢さん!

…このままじゃ、あなたまで手遅れになってしまいますよ!』


『嫌っ! 嫌よ…嫌! 放して! 放してぇっ!』


『このままじゃ防火シャッターが通路を塞いでエレベーターまで使えなくなってしまうんです!』


『主任、もう時間がありません!

…あっ! お客様! お客様ぁっ!』


二人をその場に置いて、私はもう無我夢中で駆け出していました。


…………


うっ…!

あ、ごめんなさい…。少し頭が痛くて…。


あ、いえ…いいんです。私なら大丈夫です…。


あの時の事を思うと、今でも震えが止まらなくて…。


あの時の光景…。あれはきっと、一生忘れる事はできないと思います…。

狂ったように鳴り響く火災報知器の音…。けたたましい消防車やパトカーや、救急車のサイレンの音が高い建物の周囲からでも聞こえてきて…。窓の外には既に黒山の人だかりが出来ていて…。


あれは、もう本当に、この世の地獄のような光景でした…。


私、必死でした…。


走ってくる途中で、履いていた白いローヒールのパンプスの片方もどこかにいったみたいで、黒い絨毯の熱気が素足から直接感じて、凄く怖くて堪りませんでした…。


いきなり背後に壁が降ってきたんです。それが防火シャッターだって気付いた時には、私はもう自分の身体が終わりに近づいてるんだって、初めて意識しました…。


…私、死ぬんだ…。


壁の向こう側で何かが強烈に弾ける音がしました。大量の火薬を破裂させたような爆発音がして…。


黒い炎が背中に迫ってきて怖かった…。


私はそれこそ狂ったようにお父さんとお母さんの名前を呼びながら、ペントハウスのような最上階を走り抜け、必死に叫び続けていました…。


スプリンクラーの放水が天井のあちこちから降り注いで、私の白い服をしとどに濡らしていました。


煙や水が、目や鼻に入るのでしょうね…。顔中グシャグシャで…。涙が止まらなくて…。

喉が痛くて…。


真っ黒い煙がもうもうと立ち込めて、辺りは本当に見えなくなっていました…。


黒い塊が次々と襲いかかってくるんです。熱くて痛くて…。もう熱さと痛み以外の感覚がなくなっていました…。


足にいきなり激痛が走って…。

見ると裸足の足の皮膚がベロリと剥げて、垂れ下がったワカメのように捲れていて…。


よく見ると足だけじゃなかったんです…。手も皮膚が膨れてズルズルと皮が剥けて…。


…これが…私?


熱い…暑い熱いアツイアツイ。

…痛いイタイいたい痛い!


頭の中が真っ白になって…。私は必死で叫んでいました。


『お母さん、助けて!』って…。


けど、喉の奥からヒィヒィと変な空気が漏れるだけで…。水が欲しくて…。


黒い床にベタリと膝をついたと思ったら、後ろでいきなりバーンと音がしたんです。


目の前に真っ赤な焼き付きが起こって…。


そして…私の意識は飛びました。


…………


私が今こうして生きていられるのは、ある意味で奇跡なんです…。


でも私にはやっぱり何かが欠けてるんです…。


お父さんとお母さんはきっと私の手の届かない所に行ってしまって…。


私は一人ぼっちで…。


恵梨子さん…。

もしこの世に神様がいるなら、あまりにも残酷ですよね…。


私が今、こうして生きてるのは神様から与えられた試練なんですか?


…分不相応な真似をしたから、与えられた罰なんですか?


…私はどうして生きてるんですか?


…生きてるコトが、何でこんなに苦しいんですか?


…なぜ苦しむ為に生きなきゃいけないんですか?


わかってます…。

私にはもう何もない…。

ううん…。最初から何もなかったのかもしれない…。


私は元々空っぽで、きっと中身が何も入っていない、真っ黒で暗い箱みたいなものだったんです。


けど…。それでも私は生きてる。そして、これからも生きてかなきゃいけない。


そのコトだけが、今の私の全て…なんだと思うから…。

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