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嬉しい…。
とてもとても嬉しい。
誰よりも愛しい人の、この温もりに直接触れていられる感触。
この行為に無上の喜びを感じる。
だから…。
深く。深く。
もっと深く。
もっと深く。
この一突きが。
この一突きが。
この一突きが。
この一突きが。
この一突きが。
この一突きが。
この一突きが。
この一突きが。
全て愛情へと繋がっている…。
肉を裂くたびに濃密な黒い腐汁が指に、服に、足に、身体にまとわりつく。
乾いた肌、冷たい空気。そして、呻き声を上げる傍らの女。
…夢の続きでも、見ているのだろうか?
鼻にかかった厭らしい吐息を女は漏らした。
良かった、楽しい夢を見ているに違いない…。
ナイフを使い、女の服を裂き、体ごと床へと落とす。
堅そうな肉の音。
…痛くないかしら?
早くしてあげなければ…。
可哀想。
固い感触に寝そべった女が、何やら小さく囁いた。
それは障害。
幸福を侵す声。
躊躇わず、ナイフを斜めに振り下ろす。
…………
骨の砕ける音。肉が裂け、飛沫が飛ぶ。濃厚な黒い臭いがむわりと急激に肺腑に満ちていく。
手を休め、女の頬に手をかけた。
良かった、あまり顔は崩れていない…。
頬へ、目へ、唇へ指を這わせる。最後の別れを愛おしむように…。
そっと触れていく。
熱く溢れた血の温かさに思わず微笑みがこぼれる。
ぬるりと生温かい感触が濡れた手の甲に触れる。鼻を近づけて嗅いでみると、強い匂いがした。
ふと顔を上げる。
透明な景色の向こう側。星一つ見えない夜空を見上げた。
昏黒の闇。
白い街の灯。
まるで無数の蛍のよう。
冷たい…。
とてもとても冷たい…。
凍りついてしまったようなその景色に、はあっと息を吐きかける。
冷たい光が束の間、白く曇る。
なぜか誰かの温かい、柔らかな掌の感触を思い出す。
ぼんやりと薄れそうな意識の中、一瞬だけ赤く、暗い思いが咲く。
零れ落ちる黒い匂い…。
これでいい。
これがいい。
有機的で汚らしい、黒い土くれに還るぐらいなら…。
こうするのが一番いい。
何も…。
何一つ変わらない。
黒い闇に蝕まれても、この想いは消えない。
…静かだ。
とてもとても静かだ。
爛れた時間を洗い流すように周囲は徐々に冷たく乾いていく。
苦痛に満ちたこの快楽は、これからも…。未来永劫にこの身体を蝕んでいくのだろうか?
深く…。
昏く…。
黒く…。
月は闇に沈む。
花はやがて朽ちて融ける。
この痛みと苦しみはきっと、生き続ける限り、地獄の果てまで続いていくのだ…。
深く、深く…。
どこまでも彼方へと…。
この身体が滅ぶまで…。
人はきっと、こんなふうに物狂おしく憑かれたように悪意や苦しみを求め続ける生き物なのだろう。
胸の奥を灼き尽くすような…。
この煉獄の想いと共に…。
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