第三章:あいとゆうきのもうけばなし
第17話 第一回ぱらいそクエストキャラクターコンテスト
あのヒル・ゲインツが『ぱらいそクエスト』なるスマホゲーを開発する。
そのニュースは瞬く間に、広く世間に知れ渡ることとなった。
何故ならもともと予定されていたヒルと奈保の婚約会見の場で『ぱらいそクエスト』の製作発表を行ったからだ。
当初は突然の『ぱらいそクエスト』なるスマホゲーの製作発表に戸惑いを覚えた記者たちも、ヒルが手がける初めてのスマホゲーであること、そしてその独特な課金システムに関心を覚えて記事にしてくれた。
これにゲームファンもすかさず反応し、
「あのヒル・ゲインツが作るスマホゲーってちょっと興味あるわ」
「ゲームショップで買い物した金額がスマホゲーの課金になるって斬新じゃね?」
「『ぱらいそ』ってメイドゲームショップとかで有名になったところ?」
「そう。もともとは普通のゲームショップだったのに、今のJK店長になってから無茶苦茶なことをやるようになったwww」
「『ロングフィールド』の開発中止撤回の交渉に失敗したと思った矢先にコレかよ。ぱらいそのJK店長マジぱねぇ」
「店長はゲームもクソ上手ぇぞ。なんせ自分に勝ったら買取金額倍増ってキャンペーンを打ち出してやがるほどだしな←頭おかしい」
「他にも『スト4』(『ストレングスファイター4』の略)の有名プレイヤー・レンもここでバイトしてるし、なによりバイト全員マジでカワイイ」
「つかさちゃん天使すぎる!」
「ワイ、杏樹ちゃんに罵倒されて無事昇天」
「『ぱらいそ』の強みは何と言っても人気絵師のぶるぶるを抱えていることだよ。去年の夏にぶるぶるが描く『月刊ぱらいそ』って小冊子を配った時の混雑たるやもはや伝説だぞ」
「あの時のライブも良かったよな! 今年もやらねぇのかなぁ」
「おまえら落ち着け。オレはこの機会に欲しいゲームを全部買ってHR(ハイパーレア)のなっちゃんを引くべく、さっき銀行で十万円おろしてきた」
「お前こそ落ち着けwww まぁ、なっちゃんがヒルと婚約してショックなのは分かるが」
「なっちゃんが幸せやったら、それでええんや……」
このように『ぱらいそクエスト』への世間の関心と興味は日に日に増していった。
そしてそんな世間の期待に一日でも早く応えるべく、『ぱらいそクエスト』の開発もまた急ピッチで進められたのだった。
〇 〇 〇
「やっぱりヒルさんってとんでもない人ですね」
時は流れて九月初旬の、とある日の夜。
ビル最上階にあるぱらいそスタッフ居住フロアのリビングにて、司はタブレットに次々と映し出される絵を見ながら感嘆とも呆れとも取れるセリフを呟いた。
「そやなぁ、特に店頭購入課金システムをあっさり作ってきたのには驚いたなぁ。美織ちゃんの注文、無茶苦茶やったのに」
司同様、久乃も自分のタブレットの画面を見ながら、隣りに座っている美織を軽く小突く。
「なによぅ、私があそこでこっちの要望を詳しく伝えたから、あいつもすぐに作業へ取り掛かれたんでしょ!?」
さも心外だとばかりの表情を浮かべて、美織は見ていたタブレットから顔を上げた。
「美織、『安価で、どの店舗でも現状を変えず上手く導入できる店頭購入課金システムを、出来る限り早急に作って』は無茶振りと言って、詳しく要望を伝えたことにはなりません」
黛がタブレットをスワイプさせながら指摘する。
「安い、上手い、早いって牛丼屋かよ!」
レンのツッコミに、美織を除くみんなが爆笑した。
「でも、ホントに凄いのですよー。まさか三日でプログラムを作ってくるとは思ってもいなかったのです」
杏樹が言う通り『ぱらいそクエスト』開発発表をしてから三日後、ヒルはぱらいそのレジのパソコンに、作ってきたばかりの店頭購入課金プログラムをインストールした。
レジと『ぱらいそクエスト』への課金をどのように連動させるか。
時間と、導入する側に金銭的余裕があれば、例えば『ぱらいそクエスト』がインストールされたスマホをレジで専用の機械にかざすと買い物した金額が課金ポイントとして計上されるとか、専用のカードを作って支払い時にそのカードを通すとポイントが追加されるとかも出来たであろう。
しかし、そのどちらもないからどうにかしろという美織からの無茶振りに、ヒルは買い物時のレシートに専用の特殊バーコードを印刷する方法を採った。
ユーザーは買い物後に、各々がこのバーコードを『ぱらいそクエスト』内で読み込むことで課金ポイントを得ることが出来る。
これならば専用の機械やカードを必要としないから安く、しかもただレシートに印刷させるだけだから全国のゲームショップが使っているレジシステムがバラバラであっても、比較的簡単に修正して対応も可能だ。
そしてなにより発表から三日で、後々『ぱらいそクエスト』で使えるようになる課金ポイントが発行されたのが大きかった。
「『ぱらいそクエスト』発表後、みんな同じ買い物をするなら課金ポイントが付くようになってからがいいって、明らかに買い控えが目立ったもんねぇ」
かずさが当時のことを思い出して、ほっと胸を撫で下ろした。
夏休み真っ最中と言うこともあって売り上げがほしいところなのに、買い控えがずっと続いていたら・・・・・・考えただけでもぞっとする。
ぱらいそで問題なくプログラムが動くか、同時開発していた『ぱらいそクエスト』(とは言っても、この時点ではまだ課金システムしか作られていない)にてしっかり課金が出来るか、さらには返品された時のポイントの無効化なども詳しくチェックされた後、このプログラムはすかさずそれまでに参加を表明していたゲームショップにメールにて添付された。
もちろん全てが順調に動いたわけではなく、幾つかの店舗にて問題が起きた。
が、ヒルが信頼するマックロソフトの腕利きたちが直接赴いてすかさず修正。
この時のフットワークの良さや既存のシステムを変えることなく簡単に導入できることが話題となり、八月の終わり頃には個人経営のゲームショップのほとんどが『ぱらいそクエスト』に参加することとなった。
そしてその『ぱらいそクエスト』自体も、わずか一ヶ月もしないうちに、開発が終盤に差し掛かっている。
美織の無茶な夢物語をここまで見事に実現させてしまうヒル・ゲインツ、さすがは稀代の天才プログラマーと本来なら皆から純粋に賞賛されてしかるべきところだろう。
「ううん、奈保……私の女神……」
だが当の本人は奈保のおっぱいに顔を埋め、お尻を揉みながら疲れ果てて熟睡するという、とんでもない姿をさらけ出していたのであった。
「どう見ても単なるエロオヤジよねぇ、こいつ」
「仕事中も時々『おっぱい分が足りない』とか言って、なっちゃんの胸を揉んでたもんなぁ」
「真の天才と言うのは純粋な人が多いと聞きますが、彼の性への奔放さを見ているとなんとなく頷けますね」
「杏樹はなっちゃん先輩がどうしてこんなエロオヤジが大好きなのか分からないのですよー」
杏樹の素朴な疑問に、司たちは揃って奈保に視線を集める。
「んー、なっちゃんがダーリンを好きな理由―?」
視線に気付いた奈保が抱きついているヒルの頭越しに構えて見ているタブレットから顔を上げた。
「まさかお金持ちだから我慢してるってことはないよな、なっちゃん先輩!?」
「まぁ、最初はダーリンがお金持ちってことに惹かれたのは事実なんだけどねぇー」
でも我慢してるとかじゃなくてと、奈保は眠っているヒルの頭を優しく撫でる。
「けど、今はやっぱりダーリンがなっちゃんを必要としてくれることが嬉しいからかなぁ。今回のことで分かったんだけど、ダーリンってば仕事ですっごく無茶をするの。それこそ何日も寝ないでずっと机に座ってパソコンで仕事してるし。だけどね、もう限界、眠りたいって時にベッドじゃなくて、なっちゃんのところに来てこうやって眠ってくれるんだ。それって何か嬉しいんだよねぇ。変かな?」
今までの明るいだけとは違う、どこか慈しみを感じる笑顔を浮かべる奈保。
一同は言葉を失い、ただただ目を細めて奈保とヒルを見つめるのであった。
「みんなー、そろそろ決まったー?」
そこへリビングからひとり離れて自室で、みんなと同じ作業をしていた葵がタブレットを片手にやってきた。
「はっきり言ってかなりレベルの高いのが集まったけど、みんなならきっと……って、あれ、なんでみんな瞳をウルウルさせてるの?」
状況が分からない葵は一瞬戸惑うも、しかしすぐに奮い立って声を張り上げた。
「さぁ、じゃあ今から第一回『ぱらいそクエスト』キャラクターグラフィックコンテストの結果発表をしよー!」
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