素晴らしき哉、妄想
滝澤真実
歩きスマホをしてるおっさんは、ことごとくポケゴーしてやがる
私には癖がある。
歩きスマホをしている人を見ると、その画面を覗き見てしまうのだ。あまり褒められた癖ではない。しかし、どうしても見たくなる。
——人の通行をさまたげ、自ら周りに衝突するリスクを負ってまで、いったい何をしているのか?」
それが知りたくて仕方がないのである。
で、きちんと統計をとったわけではないのだが、以下が印象値である。
◎ターゲット分類
少し古い分類法だが、以下に分類する。対象の年齢は、ぱっと見の推測値。
・T層男(男性10代)
・T層女(女性10代)
・M1層(男性20〜34歳)
・F1層(女性20〜34歳)
・M2層(男性35〜49歳)
・F2層(女性35〜49歳)
こうして分類すると、そもそも、歩きスマホが目立つのはT層〜M1層F1層までの年代であることがわかる。
いわゆるデジタル・ネイティブが中核を占める世代であり、デジタル・ガジェットが日常生活の中にあるのが当たり前、という環境で育ってきた人たちだ。そうした人たちにとっては、スマホを使うことなど呼吸するのと同じで、寝てようが歩いていようが使いたいと思った時に使う、ということだけなのかもしれない。
◎行動分類
行動は、以下に区分けしてみる。
・通信系(メッセンジャーなどのコミュニケーションツール)
・娯楽系(ゲーム、動画などの娯楽コンテンツ)
・情報系他(ニュース、乗り換え案内などの情報コンテンツ等)
各層には一定比率(たぶん10%以下)で情報系他が存在しているが、それは今回は誤差として無視しよう。
T層男とM1層は通信系と娯楽系が大半を占めていて、通信系:娯楽系の比率はほぼ半々である。
これに対して、T層女とF1層は圧倒的に通信系が多い。
M2層F2層が娯楽系が大多数で、わずかに通信系がまざる程度。
ここで注目したいのは、M2層だ。
M2層に属するおっさんたちのポケモンGO率がハンパないのである。
しかし、なぜ今さらポケモンGOなのか。
ダウンロード開始の最初の週末こそ盛り上がって、うちの近所の
ポケストップでくるくるする。
モンスターが出たらボールを投げる。
歩いて卵を孵す。
モンスターをコレクションする。
ジムで対戦(そしてだいたいバカみたいに強いやつに完敗)する。
この程度のことしかできない作業ゲーム、ARの目新しさに慣れたらすぐに飽きるに決まっているのだ。しかし、M2層にはなぜかポケモンGO中毒患者が多い。
◎おっさんポケゴー中毒患者の生態
代表的なモンスターの名前にちなみ、以降はおっさんポケゴー中毒患者を略して「オポチュー」と書こう。
オポチューのやつらには特徴がある。
・両手持ち歩きスマホ
オポチューは歩きながらスマホ両手持ちしてモンスターボールを投げるアクションをしている。遠目に見ただけでわかる。画面を覗くまでもないのだ。実に単純でわかりやすい行動である。
・ぶつかるとキレる
混雑の中で両手持ち歩きスマホをしているくせに、ちょっとぶつかったりすると(モンスターボール投擲の手元が狂うと)、キレやがるのだ。その意味では、オポチューは非常にタチが悪い。
・捕獲失敗で不機嫌になる
モンスターの捕獲に失敗すると、最低でもため息。舌打ちをする者、ぼやきをもらす者なども少なくない。はたから見ていて、オポチューはとても不快指数の高いやからである。
◎オポチューの処方箋
以上から、今度はオポチューの背景を妄想してみよう。
キレやすいのは、おそらく仕事がうまくいっていないからだ。
世代的には、中間管理職の世代。年功序列で係長になったものの、それは形だけ。肩書きはあっても、やることは平社員と同等なのだ。年下の上司からプレッシャーをかけられ、部下からも突き上げられ、オポチューは疲弊している。作業ゲームをやめられないことから考えても、その仕事には創造性のかけらもないにちがいない。
もちろん、家庭でもうまくいっていない。
妻と娘は結託してオポチューをゴミのように扱い、孤立を深めている。仕事で疲れて帰っても、家の中には安らぎなど存在しないのだ。
こうした公私ともにストレスの多い生活は、オポチューの人格を歪めてしまい、たかがゲームごときのストレスでもキレてしまうようになってしまったのである。
こう考えると、オポチューは実にあわれな存在である。
苦痛に満ちた仕事をこなし、家に給料を持ち帰るだけの、まさに作業ゲーム的な人生。毎日のわずかなおこずかいをやりくりしているので、昼飯は牛丼。休憩時に飲む缶コーヒーが心の安らぎ。
子供の頃から収集癖はあるが、そんな経済事情ではお金のかかる物品収集などできるわけがない。むろん、妻のバッグや靴の置き場はあっても、自分のコレクションの置き場などあろうはずもない。
だから、作業系コレクションゲームにハマってしまうのだ。
ほら。
みなさん。
街中で見かける不快なオポチューが、ちょっと可哀想に見えてきただろう。
私はここで声を大にして言いたい。
オポチューは保護されるべき存在である。
公益財団法人オポチュー保護協会を設立し、オポチューの認定試験を実施しよう。オポチュー3級は、ポケゴーのアイテム取得率が向上する。2級になると、ポケゴーのモンスター捕獲率が向上する。1級になったら、日々のランチに食べる牛丼に卵をつけられるように経済支援をおこなおう。
これで、オポチューのストレスを軽減できるはずだ。
そのかわり、オポチューたちにも、プロのオポチューとしての振る舞いを身につけてもらわなければなるまい。
まず、抱きしめたくなるようなぽっちゃり体型は必須。可能であれば3等身以下が望ましい。顔は黄色で耳の先端は黒に、そして、ほっぺは赤くペイント。
しゃべる言葉は「おぽ」もしくは「おぽちゅー」のみ。
これで不快はオポチューはすべからく愛すべき存在に変わるはずだ。
嗚呼、素晴らしき哉。
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