第36話

イルド地表。恒星光がさんさんと差し込む、高層ビルの一室。

そこで、一人の小男が、外の光景を眺めていた。恐らく見納めになるであろうその光景を。

ドアがノックされた。

「入れ」

「失礼いたします」

入って来たのは、爬虫類顔にスーツの男―――ネーク=ス。

「ボス。来ました。保安官です」

「―――そうか」

小男―――"皆殺しの"ステフェンは、疲れ切った顔つきで振り返った。海賊ギルドめ。まさかあそこまで大事にするとは。

隅に置かれたテレビからは、ニュースの生中継が流れている。この高層ビルへ強制捜査へと入った、海賊狩り専門の保安官率いるチームの。

先頭は、狼顔に傷を持ち、髪を赤く染めたスーツの美女。ルゥ・ガルゥ保安官。

海賊ギルドはやりすぎた。プラズマで覆い隠された恒星表面でならしても事故として処理できる。そう思ったのだろう。"鋼鉄のあぎと"号を除く3隻を撃沈できていたのであれば、実際その通りだ。しかしそうではなかった。1隻しか撃沈できず、どころかであるトライポッド級は、その残骸が回収された。相討ちになった金属生命体が、恒星表面から脱出する際に利用したためだった。

さらに、Gボム。

あんな特殊な兵器を使えばそれは足がつこうというものだった。銀河諸種族連合は、戦争で疲弊こそしているが無能ではない。

「馬鹿者どもめ」

ステフェンは考える。そもそも海賊ギルドの力を借りようと思ったことが間違いだった、と。

シンジケートはイルド土着の組織。そして、宇宙レースもイルド固有の文化だ。シンジケートだけで、今まで通りにやって来ていれば破局には至らなかったであろうに。

彼の胸に残ったのは、後悔。

シンジケートは終わりだ。可住惑星に致命傷を与えられるほどに強力な戦闘艦を使った、凶悪犯罪の片棒を担いでしまった。徹底的に調査されるだろう。己の代で、歴史あるシンジケートを潰してしまったのが彼にとっては痛恨の極みであった。

やがて、ドアが再び開いた。

入って来た女は、逮捕状を片手に、室内の男たちへ告げた。

「連合保安官、ルゥ=ガルゥです。ステフェン、ネーク=ス。あなた方を、第一級戦略兵器不法運用の罪及び18件の殺人、35件の殺人未遂、賭博法違反、脅迫その他の疑いで逮捕します。

―――逃げられると思うなよ、この外道」

男たちは、神妙に連行されていったという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る