第29話

トライポッド級格闘駆逐艦。突撃型指揮個体―――すなわち亜光速近接戦闘能力に特化した金属生命体を屠るために建造された、瞑目種族の高性能有人航宙艦。全長600mに及ぶその船体は三つのブロックが基部によって接合される構造となっており、その巨体を用いての格闘戦を得意とする超兵器である。その戦力は、突撃型指揮個体24機分にも匹敵すると言われている。まさしく海賊ギルドの切り札である。

もちろんいかな巨大勢力を誇るとはいえ海賊ごときが建造できるものではないし、正規ルートで入手する手段もむろんない。

だが。

先の戦争は五百年弱、銀河系の全域で続いた。

放棄された星系。忘れ去られた古戦場。そのようなものは幾らでもある。

この艦も、海賊ギルドが古い記録から発掘・回収した残骸から再生したものだった。

最も、再生したとはいえ、正規品にはどうしても劣る。入手不能だった部分は代替部品で補われているからだ。いかな自己再生能力を持つとはいえ、限度というものがある。

白い軟体に触手を備えた3名のパイロットに操られた戦争の遺物は、恒星表面のプラズマ内部から浮上しつつあった。


  ◇


「―――おい。おかしいぞ。数が多い。いや、あれは」

「確認した。照合終了。―――突撃型指揮個体だと?」

「どうする?耐えられる可能性があるが」

「―――殺ろう。奴は盾になるつもりのようだ。コロナ突破中なら、仮に破壊できなくても重篤な損害を与えられる。恒星表面の環境下では奴も自己再生はできないはずだ」

「了解。観測データ回す」

「受け取った。照準よし。発砲許可を」

「許可する」

「―――発射」


  ◇


そしてその時が、やって来た。

光子がわずかに先行して到達。広域に展開していたレーザー・ディフレクターの崩壊を感知した"桜花"は、防御磁場を偏向。光子に遅れ、光速の99.9997%とでやってきた電子ビームが捻じ曲げられる。

それですら蟷螂の斧だった。

彼女の対艦攻撃衝角が蒸発。先端から始まったそれは、凄まじい勢いでその基部にまで迫った。

その段階で、彼女の詭弁ドライヴがようやく活性化。小さな躯体に無理やり2基も搭載されたそれは反応性・正確性ともに大型艦のものと比較して低いが、それでも機能を果たし始めた。

空間が歪曲する。

ほんの一瞬。頭部まで半ば溶融した彼女の眼前に出現した、ねじ曲がった次元構造の盾。それは、ほんの僅かな間ながら、砲撃を完全に阻止する。

想定されていない用法で活性化した詭弁ドライヴの一基が沈黙。盾が消滅した刹那、更にビームが届き、頭部が完全に消滅した時点で二基目の詭弁ドライヴによる盾が出現。

二枚目の盾が消滅したとき、敵の砲撃もまた、途切れていた。

桜花は、敵への突撃を開始した。

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