第22話
【刑事、少女誘拐!!】
イルド地方紙の朝刊第一面。その見出しだ。新聞を持つ手は分厚い皮に覆われ、凸凹していた。芋である。
そこは宇宙レースパイロット・整備員等関係者のための宿舎となっているホテルのロビーだった。ソファに腰かけ、茎茶の入ったカップ片手に朝刊を読んでいるのはテト。
記事には事件のあらましが記載されているが、犯人や被害者の個人情報は載っていない。背後に犯罪組織が関わっている以上妥当な処置であろう。
ただ、被害者の生存が確認できればそれでよい。
「―――やれやれ、一時はどうなる事かと思ったよ」
テーブルを挟んで向かい側のソファに腰かけたのは整備主任のおばちゃん。昆虫種族には珍しく、手にしている紙コップに入っているのは塩漬けされた海藻を煮立てた飲料である。
「まったくだ。レースがなければ見舞いに飛び出すんだが」
「だねえ。
しかし驚いたよ。
「彼らは正規軍で、つい先日まで戦争をしていたからな。気合の入り方が違う。
―――レースが終わったら一筆、礼状をしたためておくつもりだ」
「そん時ゃチーム連名にしといておくれ」
「もちろん」
芋は、極力リラックスするように努めた。さもなくば、怒りが爆発していただろうから。
◇
青空の下に広がる市街地も美しい。
そこは高層ビルの最上階。シンジケートの
上司の小さな背を眺める爬虫類顔の男―――ネーク=スは、まさしく血も凍りつくような思いをしていた。ただでさえここしばらくの彼は失点が続いている。レース関係者に返り討ちにされた部下もひとりやふたりではない。
「―――それで。捕まった刑事については?」
「彼は口を割らないでしょう。そんなことをすれば、家族が死ぬと理解しています」
「ふむ。まあいい。信じよう」
銀河諸種族連合のテクノロジーは、生体の思考中枢から記憶を読み取ることが可能な段階に達していた。だが裁判で証拠として扱われることは原則的にない。多くの種族は、思い込みや誘導で偽の記憶を思考中枢が生み出してしまうことが確認されているからである。例外は機械生命体くらいなものだろう。
だが捜査の端緒にはなりうる。
これがポリスに捕らえられたのであれば簡単だった。消すことも、買収した検察官に不起訴とさせることすらできる。
だが、相手が保安官―――それも
今回の一件で、宇宙レースは保安官に目を付けられた。当面、シンジケートとしては大々的な動きなどできないだろう。
それ故に。
「やむを得ん。ギルドに動いて貰う事となった」
「……承知いたしました」
海賊ギルド。今回の宇宙レースにおける八百長で、シンジケートと手を組んだ犯罪組織。イルドの地元組織であるシンジケートと異なり、銀河諸種族連合全域に支配の手を広げつつある強大な武闘派組織であった。
海賊ギルドとの関係は微妙である。取引を通じて交渉はあるが、隙あらばシンジケートの縄張りを彼らは奪い取ろうとするはずだ。今回の一件。海賊ギルドに対してシンジケートは大きな借りを作る事になった。
もちろん、その責はネーク=スが背負う。
「お前の処分は追って伝える。下がれ」
「はっ」
ネーク=スは、まるで臓腑が握りつぶされるかのような錯覚を覚えた。
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