第9話

「それで、お前の見立ては?」

「はい。かなりの切れ者、ですな。予選の結果もそれを裏付けております」


夜の街は美しい。

大地一面に広がる人工の灯り。一般建築物の高度規制があるイルド地表では、遠景を遮るものは軌道エレベーターを除き、ほとんどない。

例外は、何らかの理由で規制を免れたいくつかの超高層ビルくらいのものだろう。

そこはまさしく、そのような例外―――多額の賄賂によって規制をかいくぐった超高層ビルの最上層。すなわち、法を歪めるほどの財の証である。

ナイトガウンを羽織り、ワイングラス片手に外を眺める男は、背を向けたまま部下の報告を聞いていた。

「―――1次予選を三位で突破。2次予選に進出か」

「はい。

レース初の新人にしては相当な技量かと」

宇宙レース本戦に出場するためには幾度かの予選を勝ち抜かなければならない。実績がある優勝候補者たちはシードで本戦に出場できるが、今回が初のレースである新人は皆、等しく予選の洗礼を潜り抜ける必要があった。

いま、彼らが話題にしている人物も含めて。

「なるほどな。―――ポ=テトと言ったか。彼は、金で動くタイプか?あるいは脅迫で大人しくなる種類の人間か?」

「印象で言わせていただければ。

ノーかと。あれはむしろ、危険を好むタイプの人間です」

「そうか。扱いにくいタイプのようだな」

男は、そこで初めて振り返ると、爬虫類顔の部下へ顔を向けた。

冷徹な表情。縦に裂けた瞳孔。鋭く伸びた髭。黒い毛並み。

それは―――猫の顔を持つ、身長30cmの獣人。

暗黒街の顔役。イルドの裏で暗躍する犯罪組織の片割れ、シンジケートの首領ドンが、彼だった。

名を"皆殺しの"ステフェン。

「まあしばらくは様子見だ。どうするか決めるのは本戦に勝ち上がってからでも遅くはあるまい」

「承知いたしました」

爬虫類顔の部下―――ネーク・スは、存在しないはずの汗腺から流れ落ちる冷や汗を感じながら、その場を辞した。

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