愛心~王と呼ばれた男~

licca

第1話 幼き頃の記憶①


ゴミ クズ 死ね キモい 

冒頭からいきなりの暴言で申し訳ない。

しかし、それも仕方ない事なのである。

そう、これらの暴言はすべて風間裕太という少年の始まりだったからだ。


なぜこのような暴言が事の始まりなのか。

それは風間裕太(以下僕)が、小学3年生の頃に遡る。


小さい頃は公園でブランコでの靴飛ばしや、ボールを使ってのサッカーボールやドッチボール。

砂場遊びをしたりゲーム○ーイやらのゲームをして遊ぶ子供が多い中

僕は特にそれらで遊ぶ事もなく、ただただ自転車を使っての散歩が多かった。


しかし、これと言って周りの子供とは特に違ったわけでもなく

ただただそれなりに学校に通っていて、

ただただそれなりに授業を終えて帰る。


とは言ってもそれは突然何事もなく訪れるわけであって、僕にはまるで理解が出来ない出来事だった。


ある日同じクラスの男子生徒が授業中に嘔吐をした事がきっかけだった。

その嘔吐をした少年は何の因果か、席は僕の隣だった。

飛び散ったソレは僕の服にも例外なく跳ね返り、少しムっとしながらも彼の安否やソレの始末方法を考えていた。


そんな中、皆が皆騒ぎだし、皆が皆嘔吐をした男子生徒から離れていく。


ある少女はまるで気持ち悪い物を見るかのような目をし

ある少年は集いを作り笑ったり暴言を吐いたり

教師は事もあろうに面倒くさそうな顔をする


なぜだ?

周りに対する印象は一言で片付くような台詞だった。

騒ぐ前に、離れる前にやる事はあるだろう?

何故彼の安否を確認できない?

何故ソレの処理をしようと先立つ者がいない?


何故・・・心配しない?


その時僕はトイレへ行きトイレットペーパーを持ってくる。

そう、だいたい分かっただろう?

掃除して綺麗にしていたら今度は僕の番かのように僕から離れていく。


ゴミ クズ 死ね キモい


言うのは誰にだって出来るが、言われる側の立場を知らない。

当時小学生だった僕にも分かる。


「ゲロを触った、お前もゲロ」

「風間くんもついてる・・・きも・・・」


なぜそうなる?

くだらないだろ。

くだらない、くだらない、なんてくだらない

お前らそれでも・・・


そんな事を考えていながら学校に通う事わずか3日。

それ以降小学校へは卒業式以降行っていない。





朝起きて、とりあえず公園で遊んで、とりあえずブラブラ歩いて帰ってと

僕が学校へ行っていないのは母さん(以下母)は知っていて行けとは言われなかった。

朝は笑顔で飯を作ってくれて、お昼はたまにお店でランチ。夜は同じく母が作ってくれて

当時の僕にとって一番の存在だったと断言出来る存在だった。


そして少しときが流れ、朝一番にインターホンが鳴った。

起きたばかりの僕には家に誰も居ない事が分かっていて玄関へと向かった。

すると、申し訳なさそうな顔をして立っていたのは、嘔吐をした少年片岡鵺(以下鵺)がそこには居た。


「風間くん、この間はごめん。」


なんとなく来た理由は分かっていたんだ。

だけど謝る事ではない。

そこで謝ったら自分が悪い事をしたみたいじゃないか。

具合が悪いのはわざとではない。

わざと行為を執行するのと、不可抗力で行為が執行されるのとでは全然違う。

悪い事を認めれば、クラスの暴言や悪口を肯定してしまう。

当時そんな気がしていた僕は


「謝るくらいなら遊びに行こうぜ」


このように返した事を今でも覚えている。

忘れるわけもない、きっと僕は涙を堪えるのに精一杯だったからだ。


そして目的地も分からぬまま鵺が元気よく先頭を歩く中


「実は風間くん、俺ね、宝物を持ってるんだよ」


宝物なんて言われると当時小学生の僕は当然にも財宝や魔法の使える剣だとか、様々なことを考えるのは

とてもとても仕方がない事で


「マジかよ、魔法使えなくても扱えるのか?財宝を持ち帰る袋なんて持ってきてないぞ」


なんて言うものだから作者の私、風間裕太はとてもとても恥ずかしい闇歴史のランキングに入っている。

そして、そんな恥ずかしい台詞ながらも、真面目に回答する鵺は


「機械だよ、乗り物!」


「ド、ドリルか!?・・・(゚A゚;)ゴクリ」


とてもお恥ずかしい。





宝物の目的地は少し離れた茂みの場所。

そこで目にしたものとは


「動くのか?」


スクーターである。

今にして思えば、誰かが捨てたんだろう。

そう思うのが普通なのだが、さすがの小学生の僕にはスクーターがトンデモナイ代物だと思っていた。

自転車より早い、こがなくていい、どこへでも行ける。

魔法の代物のように当時は見えていた。

もちろん乗り方なんて知らない、初めて触るそれは倒れているのを持ち上げる事が困難なんだと知った。

しかしどうする

子供では決して手に入らない、僕達でも重々承知していたが、どうしても乗ってみたい

そんな衝動を隠せないでいた。


スクーターを立ち上げ、見回した所で鍵なる物が刺さっている事に気づいた。

よく母が車を始動させてる時に必ずと言っていいほどグリっと回していたやつだ。

早速回してみる。

すると何かが光った。

光っただけで特になにも起こらない。


「風間くん、たぶんこれはブレーキを握りながらここのスイッチを押すんだよ」


「乗った事あるのか?」


「まさか、新聞配達に来る人の乗り方を見てたんだよ。」


なるほど、たしかに当時、いや今もか、カブやスクーターで配達している人を見たことがある。

よし、早速試してみようとスクーターへまたがり、ブレーキであろうレバーを握りスイッチを押す。


キュキュキュ  キュキュキュキュ キュキュキュキュキュキュ ブーン


動いた!

動いたはいい、どう乗ればいいんだ。


「そのハンドルをひねってたはず!」


よしやってみるか!


お?おお?おおお?

おそるおそるひねるとスクーターは少しづつ前へ進んで行った。

こ、これは楽しい

よし、少し走ってみようか


ブーン。


効果音に疎い作者はただただブーンとしか言えないが本当にそんな音がしていたなと思う。

他に効果音があるとすれば、ぼ~ん?ずぅ~ん?ぶぃ~ん?やはりブーンが一番マトモである。

と、に、か、く、効果音を忘れる程に当時の僕はスクーターが動いた事、ひねれば走る事、自転車以上に速度が出ることに

とてつもなく感動していた。


「鵺!すっげー宝物だなこりゃ!」


俺しかまだ乗っていないのに鵺はとても笑顔で


「風間くんにあげるよ!だからさ、友達になって欲しいんだ!」


なんて言い出すから僕は一旦スクーターから降りた。

たぶんとても真顔だったと思う。


「宝物で釣らなくても、僕達は友達だろう?」


初めて友達が出来た。

僕自身も人と友達になるには、という議題で少し悩んでいた事があった。

お菓子をあげてそれをネタに話すようになり友達へと変わっていく。

サッカーや野球をやってる相手に,実は僕も野球やりたいんだ、サッカーやってるんだ!

と合わせ次第に友達へと変わっていく。

とても様々な事を考えていた僕が今思った事は、たった一言、たった一言友達になろうと言えばいいのではないかと。


「か、風間くん?どこか怪我した?」


「え?なんで?」


「いや、泣いてるからさ」


泣いてる?あれ?本当だ。何故泣かなければならない?

くそ、涙が止まらない。

たぶん分かっていたんだ。分かっていて一言言える勇気も僕は持ってはいなかったんだと。


「あー、目にゴミが入っただけだよ」


素直ではなかったが、初めての友達にきっと嬉し泣きも含まれていたんじゃないかと今はそう思える。





その後の小学校生活は上記の内容と変わらずに学校へは行かずに母の飯を食い、鵺と遊ぶ毎日だった。

大人になって知った事ではあるが、スクーターには免許が必要だったという事。

その重大な事実と裏腹に、鵺と二人乗りで海へ釣りへ行ったり、母を乗せでドライブしたりと

今だから言える事だが、どうして僕の母は止めなかったんだろう。

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