第1話 異世界にきていた
強い光が空高くから降りかかる。緑のカーテンを閉め忘れてたみたいだ。俺はお気に入りの黒色のジャージの上下を着ていた。それはまるでおてんと様が働けと命じてるかのようだ。
俺はいつものように布団にまるまってはいたが、今日は心なしか早く起きてしまった。クルリと向きを変えて時計を見ると、デジタル時計はAM7:00を表示していた。こんなに早く起きてどうすんだよ俺のバカ。平日の一般的な社会人であればさほど早い時間ではないのだがひどく自分に怒りを覚える。布団から体を起こし主屋へと向かう。
ちなみに俺の家は母屋と向かいに子供部屋がある。飯以外はこの子供部屋に過ごしている。というのも、パソコンにベッドと充分過ぎるほどの至れり尽くせりの環境がそろっているからだ。
扉を開け外に出てみると。「え......ここどこ?」おかしなことに20年以上は見続けてきたであろう光景が全く違って見える。はは。まさかな……
「ニートと引きこもりのしすぎで頭がおかしくなったのかな?」
不思議に思った俺は確かめる様に、自分の頬を強くつねる。「いてぇっ」どうやら現実らしい。夢の中ではない事は理解した。念願叶って異世界に来れたのがうれしくてたまらなかった。
外観は一昔前のレトロな作りをしている。西洋風のレンガで造られた建物が聳え建っている。武器屋や防具屋やパブや、果物屋さんが立ち並んでいる。
「異世界に来てしまったのか......」
俺は涙が頬をつたい自分の現世での出来事を振り返っていた。そして落ち着きを取り戻し誰か街の人に接触を図ることにした。
コミュ症の俺でも異世界なんだと思うと不思議と開放的な気分になれた。「言葉が通じるのか」という不安がゼロではなかった。適当な店に目星をつけて外界との接触を試みる。
「あにょ!」
俺は言葉を話すのは久しぶりでなんだか変な言語になっていた。こちらに気づくや否や笑顔で対応してくてれ、
「いらっしゃい!何が欲しいの?」
普通に言葉が通じたことに驚きを隠せなかった。俺は終始硬直状態で石造のように固まってしまっていた。共通言語は同じだったか。なーんだ良くあるラノベの鉄板だな。なんて自分に言い聞かせてこの世界に適応する事を第一目標に掲げる事にした。それにしても他人と会話をするのはいつぶりだろうか。あれは確か3年前の事大学でボッチライフを送ってから......長くなるからやめておこう。
お兄さんは淡い緑色のエプロンを着ており端正な顔立ちだ。俗に言うイケメンだ。俺の言葉に元気よく返してくれた。やはりイケメンは心もイケメンだったか。叶わないな。
今の笑顔で女の人はいちころやろな。おっと俺はそっち系ではないので勘違いしないでくれよ。
「なにか、買いたいとかじゃなくて。その......」
引きこもりをしていたせいかうまく言葉がでてこない。俺の顔は真っ赤に染まり相手の顔を直視することすらできない。こんなことならギャルゲーを嗜んで会話の練習をしておくべきだったな。正直後悔しているところだ。伝えようとしていることが何となく察して分かったのかお兄さんが話しを始める。
「ここら辺では見ない顔だね。もしかして此処に来るのは初めて?」
なんて察しがいいお兄さんなんだ。自分でいうのもなんだが、可も無く不可もなく普通の顔だと思う。服装は違和感あるが。他の人たちの服装は毛皮で覆われていてジャージの格好をしているのは多分俺くらいだろうからな。
「はい。いつものように家から出たら、別世界に飛ばされていたんです。俺はもう訳がわかんなくて実は俺は死んじゃっているんじゃないかとか輪廻転生したんじゃないかとかとにかく頭の中がごちゃごちゃで訳わかんなくて」
呂律の回らない口をフルスピードで回転させる。自分の話している事を冷静に考えるとだいぶおかしな奴だと俺は自負している。
だけど今の状況が全くつかめていない。それにいきなり異世界に行くと少なからず混乱するよな。俺だけじゃないはずだ。そう思いたい。
「落ち着いて、ね? 俺シュナイダーっていいます。君の名前は?」
子供を宥めるかのようにやさしい口調で俺に語りかける。
「えっと。新居等二斗です」
ファンタジー系のゲームにありがちな名前で逆に安心した。オンラインゲームのキャラ名にいたような既視感さえ覚える。
「新居等二斗君ね。フルネームで呼ぶのは個人的に好きじゃないんだ。君にニックネームを付けてあげよう.......ニートくんでいいかな?」
「え、まぁいいですよ」
いろいろ突っ込みを入れたい所だが我慢をした。本当は嫌だったが、敵対するような勇気を持ち合わせていないので渋々了解した。
(くっ俺としたことが。異世界でもニートよばわりされるだなんて。初めから付いてない)
「右も左も分からない状態でして。にこの世界についていろいろ知りたいのでもし宜しければ聞かせていただけませんか?」
空気を吸う事は出来ても読めない俺はお店の忙しさを物ともせず自分勝手に話を進めていく。
「そうだな。もうそろそろ休憩時間だ。お店の方はアルバイトの子に任せるから。ちょっと街の中を散歩でもしない?」
お店を空けて大丈夫なのだろうか。現世とは違ってやさしい世界だな。
しばらくすると若い10代くらいのアルバイトの子が代わりに店頭に立つ。俺より若そうな子が必死に働いているのに俺ときたら.....
シュナイダーさんと一緒に歩き始める。両側にはレンガの建物が引っ切り無しに並んでいる。日差しは神々しく照っているが、心地よい風が建物の隙間から吹いてくる。涼しい気候だ。現世で言うのであれば秋ってところだろう。
「何から話すべきなんだろう」
会話に困ったシュナイダーさんは独り言のように質問を問いかける。俺も正直この沈黙を打破したいと思っていた。沈黙打破したいとね。
「それじゃあ、お金とか?」
さすがニート。お金が真っ先に浮かぶあたり余程現実味を感じる。
「お金って通貨のことかい?」
シュナイダーさんは、俺を見て返事を伺っている。
「ええ。一応現世の時の通貨を持っています。これは俺が住んでいた所のお金なんですが」
俺はポケットに入っていた茶色の長財布からお札と硬貨を一枚づつ取り出す。
「見た事無いな。もしかしたら希少価値があるかもな」
腕を組み頷く。ちょっと待ってと合図をすると肩に担いでいた白色のリュックから何かをゴソゴソと取り出す。
「ここでのお金はねこれだよ。」
取り出したのは茶色い革でできた包み袋だった。包み袋の紐を緩めて中から取り出す。
――形は楕円型で色は金色。淵はギザギザになっており例えるのであればギザ十に似ている。真ん中にはGCという文字が刻み込まれている。これがこの世界の共通通貨という認識でいいのだろうか。
「つまらぬことをお聞きします。真ん中にGCと文字が刻みこんでありますが、これはいったい?」
「これはねGCグランドコインといって、"ここ"グランド王国での通貨なんだよ」
(グランドコインってゲームみたいな通貨だな。)
「グランド王国か。王様が従えている国ということか」
「そうだね。立ち話しもなんだから、そこのカフェで休憩しない?」
黒猫の看板が掲げているカフェを指差す。カフェの名はブラックキャットと書かれている。店主は猫が好きなんだな。間違いない。
「お金持ってないんですけどいいんですか?」
「いいよ。それにニート君もここで別れてしまったら路頭に迷うことになるよ」
確かにその通りだと思う。シュナイダーさんはこちらに有無を言わせない鋭い目をしていった。俺はその迫力に負けてしまい、拙い返事をする。
「そ、そうですよね。ありがとうございます。」
ちびりそうになりながら、おそるおそる俺は答える。
すると、いつもの穏やかな表情に戻ったお兄さんは笑顔で答える。
「じゃあ行こうか。ついてきて」
言われるがままに俺は彼の後を追うように喫茶店に入ることにした。
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