shark fight

奥森 蛍

第1話 shark fight

――20XX年テレビに人気を博するモンスター番組が登場する。その名も『シャークファイト』人とサメとの命を掛けたギリギリ限界のバトル番組である。

 


「さあ、皆さん。残り時間もわずかとなってまいりました。一緒にカウントを始めましょう!」


 テレビの中のスーツを着た司会者が豪快に空に向かって腕を突き上げて、颯爽と指を折りながら、終局へのカウントを始める。


「5、4……」


 集った観衆も彼とシンクロするように高らかと指折りを始め、むせ返るほどの熱気に包まれた会場内にはカウントごとに空間がドンと震えるような一体感が生まれる。心音を打ち鳴らすかのような空気の揺らぎ、激しく、そして仰々しく。プールサイドの大型モニターにはサメから逃げ回るある一人の男が映し出された。


「3」


 サメは男まであと数メートル……数十センチと迫りくる。終わるまであともう少し、届くまであともう少し。

 男が鉄格子にたどり着き、間一髪でその間をすり抜ける。サメには抜けることの出来ない防御用の鉄格子だ。


――ガシャン! 


 大きな振動を響かせながら、追跡するサメは鉄格子に鼻っ柱ごと突っ込み、会場のどよめきは一気に拡散する。ボルテージは最高潮。水中にサメの鼻血らしきものがゆらりと漂った。


「2、1……0!」


 カウント終了と同時に会場にはワァァと割れんばかりの歓声が上がり、司会者が生還した男の元へと駆け寄った。


「やりましたね! チャンピオン!」


 興奮気味に張り上げた声はその奇跡を物語っていた。チャンピオンと呼ばれた男は纏う水気を振り払いながらプールサイドに立ち上がり、濡れた金髪を両手でかき上げ興奮した様子で話し始める。


「いや、もう最後は訳分かんなくて! とにかく逃げるのに必死で!」

「本日の獲得賞金1500万! チャンピオンの獲得賞金はこれで賞金総額七千万円となりましたが、今のお気持ちをお聞かせください」

「いやあ、生きた心地しないっすねえ」


 チャンピオンの冗談交じりの返答に会場からは気の抜けた笑いが起きる。彼は生きて帰った。無事帰ったのだ。二人は場つなぎの会話を交わした後、いつものお決まりの台詞を、指を前に突き出す決めポーズとともに高らかに口にする。


「我々はテレビの前の勇敢な君の挑戦を待ってるよ! さあ、君もレッツ! シャークファイッ!」


「シャークファイッ!」

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