第十二話
*
ミコトの無事が確認されると、サイゾウ・キリシマ以下、近衛師団と憲兵達は、朝敵を討伐せよ、という事を意味する王家の
『我らの君主を
『全軍! 前へー! 進め!』
国家転覆を
『……最後まで、我と共に行く覚悟があるものだけが残れ』
本来はミコトが座っている玉座で、偉そうにふんぞり返っていたヨシマサは、今はやたら神妙な面持ちで猫背気味に座り、
部下達は大多数がゾロゾロと外へ出て行き、腹心の部下4名だけが最後に残った
『畜生めぇええええ!』
青筋を立て、ワナワナと震えるヨシマサはそう叫ぶと、『島国』の地図が表示されている、目の前にある大型デバイスへ老眼鏡を投げ捨てた。
その画面には、近衛師団と憲兵達に正規軍が加わって、急速に規模が膨れあがる討伐軍が迫り来る様子をアイコンで表示していた。
『むざむざ打ち首獄門になるものか……。生き延びて必ずやこの国を我が手中に……』
ヨシマサは焦燥と怒りの混じる表情でそうつぶやきながら、部下を連れて脱出艇が置かれた地下の隠し
『そうは行くか。覚悟しろウミヨリ』
だがそこには、外へと通じる穴から侵入した、近衛師団精鋭部隊――通称『お庭番』筆頭、シカノスケ・アマゴウとその部下達が待ち構えていた。
彼は右手にミコトから
『もはやこれまでッ! 我は
『はッ!』
『ぐわああああッ』
高速で踏み込んだシカノスケは、
『止血してやれ。コイツには聞きたいことが山ほどある』
彼は痛みに
王宮を取り戻した近衛師団は、通信用にミコトの会見が流れていなかった帯域で、『グウィール』のいる方向へ向かって、長距離で通信が出来る機材で通信波を送った。
『グウィール』によって拾われたそれは、ちょうど会見が終わって休憩中のミコトが借りている、通信端末へと中継された。
ミコトの姿が画面に映ると、サイゾウ他、国の高官や
『閣下ああああ! よくぞ……、よくぞご無事でええええっ!』
『ハンベイ殿……』
感極まったハンベイが、その画面に張り付くようにして、号泣しながら歓喜の声を上げたせいで、そういう空気では無くなってしまった。
腕で顔を隠しておいおい泣いているハンベイと、その後ろで頭を抑えるサイゾウ、さらに後ろで泣いたり笑みを浮かべる多くの高官や近侍達。
『……ああ。この通り、私は健康そのものだ。皆もよくぞ……、無事であったな……』
ミコトはそんな彼らの様子を見て、微笑みながらそう言い、喜びの涙を
『神機』に乗る4人とレイラは、ミコトの希望で、その通信画面をアメリアの通訳を介して見ていた。
「どうやら、一件落着の様ですわね」
歓喜しているその様子を見て、エレアノールが小さく笑いながらそう言うと、他の4人全員が微笑みを浮かべながら、その言葉に同意した。
*
かくして、『233年対『島国』防衛戦争』は、『島国』側の戦意が失われた事で終結した。
南部戦域に上陸していた『島国』の兵力は、白旗を揚げて一斉に引き上げた。
ヨシマサの陰謀に荷担し、戦意を
*
内紛を含めて全ての戦闘が終了したのは、戦闘開始から2日と2時間が経過した15時27分のことだった。
その1時間後、指令室にてレオン他8人と、『ヤシロ国』のサイゾウとハンベイ他、数人の高官達が双方横並びにチェアに座って、メインモニター越しに通信していた。
ちなみにその他の高官達は、騒動の後始末のために、各々持ち場に戻っている。
『えー、このた――』
『なんとお礼を申し上げて良いのやらッ! 皆目見当がつきませぬッ!』
サイゾウが挨拶をして、会談を始めようとしたが、またもや、男泣きをするハンベイが話の腰を折りながら床に跪き、深々とレオン達へ頭を下げた。
『皆様、大変申し訳ありません。このハンベイは情に厚いのは良いのですが、この通り暴走することが多々ございまして……』
「いえ、お気になさらず」
猛烈に申し訳なさそうな様子で
彼はそれで顔を上げたが、それでは深謝の意を見せるには足りないので、と言ってまた元の体勢に戻ってしまう。
『……ハンベイ。気持ちは分かるが、これでは話が進まないだろう?』
苦笑いするミコトは、その様子を見かねてそう諭し、ひとまず鼻をかんで席につく様に、とハンベイに指示を出す。
流石に君主の言葉を拒むわけには行かないので、彼は画面外で鼻をかんでから席についた。
一通りの挨拶を済ませた後、
『あなた方のおかげで、我が国も私も救われました。私からもお礼を言わせて欲しい』
とはいえ、今の私ではその功績に報いることが出来ませんが、とミコトは申し訳なさそうに続けた。
「別に必要ありませんよ。僕は見返りが欲しくて協力した訳では無いですし」
「
レオンとエレアノールはそれぞれそう言い、レイラは、『島国』と友好的な関係が築ければ謝礼は不要、という中央の意向を伝えた。
『かたじけない』
『ヤシロ国』の一同はそれら厚意を受け、非常に
しばらくして全員が頭を上げたとき、コーラリアス基地からレイラの端末へ、『ヤシロ国』の艦がミコトへ通信を求めてきたが、
『ああ。構わないよ』
ミコトに許可を求めると、彼女はそう言って了承した。
数秒の間が空いて、その相手が画面に映し出される。
『ミコト陛下。恥ずかしながらこの
『イエカネ! 生きていたのか!』
それは、ミコトを逃がすため、海の底に沈んだはずの、軍服を着た老近衛兵達だった。
彼らは、どうせ死ぬなら早い方がいい、と考え、自害しようと艦内で一番広い艦橋に戻った。
すると、艦長席とその他の席の間にある段差の壁が床にしまわれ、そこにちょうど全員分の脱出用潜水機材が置かれていたため、イエカネ達はそれを使って艦を脱出した。
その後は、
『いやはや、なかなかそう人は死なないものですな』
『そうだな……、ああ……、本当に良かった……』
こっぱずかしそうに笑うイエカネ達を見て、ミコトは涙を流しながらしみじみとそう言った。
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