第十一話

 レオンは『フレイム』を『ミズグモ』の動きと併走する様に浅瀬を走らせ、武器をガンモードにして、ビーム弾を撃って相手のそれを散らす。

 それでも、若干の撃ち漏らしが出たが、『グウィール』は対光学チャフの濃度を上げて弾道を逸らす。


 そのまま移動しながら、5分ほど撃ち続けていたが、唐突とうとつに『ミズグモ』は砲撃を止めた。

 

 『ミズグモ』のレーザー砲は、廃熱性能が良くないため、5分ごとに1分程クールタイムが必要になる。


 そのすきを逃さず、『フレイム』は『ミズグモ』に砲撃するが、


「これは思いの外厄介だな……」


 敵機はスラスターをランダムに吹かし、トリッキーな動きをして、その砲撃を巧みにかわす。


 距離は……、後1キロぐらいか……。


 それを見たレオンは、やや苦い顔をしてモニター左に映る港をチラリと見やる。


「『英雄』さん。当たらないなら、接近戦の方が良いのではなくて?」


 難儀している様子を見たエレアノールは、通信でレオンにそう訊ねた。


「エレアノール様、接近戦に持ち込むには、あの地点ではまだ水深が深すぎます」

「なるほど」


 それの答えは、レオンではなく彼女の前に座るアメリアから返ってきた。


「では、水深が浅くなるまで支援砲撃をいたしましょうか?」

「はい。頼みます中尉」

「はっ。お任せあれ」


 砲撃停止の合図はレオン、という事を決めると、アメリアは自機右腕の実弾砲を『ミズグモ』に向け、その予想進路へと機体を取り囲み、円の中心にも着弾する様、山なり弾道で20連射した。


 すると『ミズグモ』は、機体右側のビームブレードを抜き、全ての弾を真っ二つに斬り裂いた。


 『フレイム』も、実砲弾の対応で動きが鈍った『ミズグモ』に砲撃していたが、『ミズグモ』は、流れるようにブレードを振るってそれにも同時に対応して見せた。


「もはや曲芸の域ですわね……」


 パイロットの操縦テクニックに、エレアノールは舌を巻く。


 アメリアはもう一度同じ様に砲撃したが、今度はレオンが先に砲撃し、自機の砲撃は着弾のタイミングがバラバラになるようにした。


 だが『ミズグモ』は、『フレイム』の砲撃をブレードでさばき、『グウィール』のそれを1つ1つタイミング良く斬っていった。


「砲撃は無駄、か……」


 レオンがそう独りごちたとき、『ミズグモ』のクールタイムが終了し、今度はレオン達が『ミズグモ』の砲撃を捌くことになった。


 そうこうしているうちに、近接戦闘が可能な水深になったので、レオンはアメリアに砲撃を止めるように言う。

 すると、武器をブレードモードに切り替えて下段に構え、背中のスラスターを吹かして『ミズグモ』へと急接近する。


 『ミズグモ』は『グウィール』への砲撃を止め、ビームブレードを中段に構えて『フレイム』を迎え撃つ。


 依然、港の方向へと進みながら、2機は激しい斬り合いを繰り広げる。


「なかなかやるね」


 お互いに実力が拮抗きっこうしているため、決定打に欠けるどころか、双方の斬撃が相手に届きすらしない状況になっていた。


 このままじゃ、ちょっとマズいな……。


 もうかなり陸地が近くなっていて、このまま上陸されては確実に鉄道や街に影響が出るので、レオンに若干の焦りの色が見える。


 つばぜり合いになった2機は、お互いに後ろへ退いて間合いを空ける。


「レオン。言われていた通り、対『神機』徹甲弾の準備、完了しました」


 そのとき、ウェストリアス基地のレイラからそう連絡が入った。


「良いタイミングだ。サンキュー、レイラ」


 木々でカモフラージュされた、東岸にある二つの台場に並ぶ、機体上部に対『神機』砲を2つずつマウントした、計16機の『レプリカ』が潜んでいる地点を見やってそう言うレオンは、


「東第4第5台場部隊とマドック中尉! 僕に良い策があるんだ。聞いてくれ」


 台場の部隊とアメリアへ、『ミズグモ』と再び斬り合いをしながらそう告げて、陸に上がる前に仕留めるための策を提案する。


 それはまず、このまま斬り合いながら、『ミズグモ』台場側へ誘導した後、『フレイム』が間合いを空けて砲撃を加える。

 『グウィール』も『ミズグモ』を実砲弾で砲撃して、台場からも対『神機』徹甲弾を放って4方向から包囲して攻撃をし、捌ききれなくして撃破する、というものだ。


「良いと思います。それが現状では最適でしょう」

「こちらも承知した」


 アメリアと『レプリカ』部隊長は、タイミングがものを言うが、双方共それを実行できる自信はあるのでその策を了承した。


「それで、合図は誰が出すんで?」

「マドック中尉に任せたい――、おっと」


 『ミズグモ』の突きが『フレイム』頭部への直撃コースに来たので、横ステップでそれを避けながらレオンはアメリアにそう頼んだ。

 彼女は二つ返事で、了解、とそれを引き受けた。


「よし。5つ数えたら開始する」

「はっ」

「承知した」


 レオンが通信を切ってから、ちょうど5カウント数えたところで、『フレイム』はスラスターを吹かして、ぐん、『ミズグモ』へと近づき、全力で斬りつけて東岸側へ押し込んでいく。


 『ミズグモ』は無意識に退いて海側へ逃げようとしたが、『グウィール』から自機の背後へ帯状に実砲弾が飛んで来て阻止された。

 『ミズグモ』パイロットは東側に進路をとりつつ、『フレイム』と斬り合いながら、その砲撃をビーム砲で迎撃する。


 それから間もなく、『ミズグモ』は対『神機』砲の射程圏内に入り、


「撃ちー方始めー!」


 アメリアの合図でそれが一斉に火を噴く。


 『レプリカ』からの砲撃かつ、砲撃の精度が良くなかったため、一度は無視した『ミズグモ』だが、


『何!?』


 頭部の複眼サブカメラが直撃弾で1つ破壊され、冷静だったパイロットに焦りが生まれ、ほんの一瞬だけ『フレイム』への注意がそれた。


「かかった……!」


 レオンはその隙を見逃さず、ものの数秒で『ミズグモ』の脚の根元の関節を撃ち抜いた。

 前の1対を残していたため、『ミズグモ』はゆっくりと後ろに倒れていく。


 その際、『ミズグモ』の前頭部が4つに割れて開き、ヤケクソ気味に隠し球の近距離用大口径レーザー砲を放とうとした。

 だが、対『神機』徹甲弾が発射口に3発ヒットして爆発し、撃てずじまいになった。


「撃ちー方止めー!」


 完全に倒れた『ミズグモ』は、たまらず白旗信号を発し、プレートアーマー部分が割れて、中から灰色のコフィンが射出され、『島国』艦隊のすぐ後ろまで飛んで着水した。


 何事も無く敵機の撃破に成功し、その戦闘に関わった人間のほぼ全員が、同時に一つ息を吐いた。


 ミコトの準備が出来た、と報告が入り、レイラの声で10秒ほどカウントしてから、アメリアは『島国』方向へ向けて通信波の出力を最大にした。


 するとそれは、国民を扇動する放送を行なっていた、現地のテレビ局の電波を塗りつぶし、藍色の背景に王家の紋章が白で描かれた『ヤシロ国』の国旗を背にする、当代大王・ミコトの姿を映した。


 ミコトの記憶から再現して急造した、『ヤシロ国』大王の巫女装束を纏う彼女の首には、王家の紋章が描かれたメダルのペンダントが提げられていた。

 その前髪は額が見える様に分け、『聖女』の紋章がはっきりと見て取れる。


 ミコトは息を大きく吸うと、まず自分の無事を全ての国民へ伝え、それから『エイシ国』への攻撃を即時に止めるように言う。


 もう一度同じ事を言った後、ミコトは一連の騒動を首謀したのは、ヨシマサ及び軍上層部であることを暴露した。

 それを阻止できなかった事を謝罪した上で、力の及ばない自分に協力して欲しい、と熱弁を振るった。


 そんな会見が流れると同時に、大陸や『島国』諸島の戦闘は急速に収まっていった。

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