Infinity Weapon Online

夏井優樹

第1章 伝説の夜明け

第1話 プロローグ

『無限の可能性に触れてみたいか?』


 これは1年前に発売したVRMMOのキャッチコピーである。

 極限までリアルに再現された五感。

 現実と区別のつかない精巧なグラフィック。

 単一サーバーでの運用を可能にした圧倒的なキャパシティ。

 国籍の違うプレイヤーのコミニュケーション問題を解消した言語翻訳機能。

 量子演算処理システムによる高度な自己学習能力を備えたNPC。

 プレイヤーたちの行動によって日々変化していく自由度の高い世界観。

 古今東西のあらゆる武器を取り揃えた他にはない独自の戦闘システム。

 多彩なスキルを組み合わせることで唯一無二のプレイスタイルを構築できる熟練度システム。


 既存のゲームをさらに高次元へと昇華させた奇跡の作品。

 VRMMOというジャンルに革命を起こした伝説の作品。

 それこそが『Infinityインフィニティ Weaponウェポン Onlineオンライン』なのだ。


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「さて……どうしたものか」

 

 僕はVRMMOの特集が組まれた雑誌に目を通してからため息まじりに呟いた。

 大袈裟な謳い文句がこれでもかと羅列されており、さすがに誇大広告ではないかと訝しんでしまう。

 そもそも僕は電脳を使用した娯楽とは無縁の人生を送っていた。VRMMOなんて言葉もさっき覚えたばかり。

 正直なところ、特集記事の内容をいくら読み込んだところで、このゲームのどこがすごいのか理解できない。

 所詮は『仮想現実』である。現実の世界に勝るものではないと思うのだが。


 僕は『Infinity Weapon Online』とプリントされたヘルメット型のゲーム機に視線を向ける。

 全体は光沢のあるパールホワイト。耳の辺りに三本の黒いライン。

 フルフェイスになっているが、目元のバイザー部分は完全に覆われており、どことなく違和感を覚えるデザインだった。

 このゲーム機は父より高校の卒業祝いとしてプレゼントされたものだ。

 これから大学に進学する我が子に買い与えるものとしては、いささか相応しくないような気もするし、事前の連絡もなしにいきなり宅配されてきたせいで扱いにも困る。

 勉強しないでゲームに熱中しろとでも言いたいのだろうか。

 父よ。学生の本分は勉強だぞ。

 ちなみにゲーム機と一緒に送られてきた手紙には「このままではお前はテロリストか暗殺者になるだろう」とか「お前の歪んだ欲求を満たすにはこのゲームしかないと判断した」とか「後生だから人として道を踏み外すような真似だけはするな」とか物騒なことがつらつらと書かれていた。

 どうやら僕は危険人物と思われているようだ。 

 心外である。それに意味も分からない。あなたの息子は善良な人間だ。そんなこと誰よりもよく分かっているだろうに。


 しかしまあ、あの堅物の父がプレゼントしてくれたものを無下に扱うは気が引けるし、ゲームの解説書に載っていた『あらゆる武器を使用できる』という一文に心を惹かれてたのも事実。

 剣や槍はもちろんのこと、自動小銃やボウガン、さらにはチャクラムや暗器なども用意されているらしい。

 現実世界では経験できないことが、仮想現実では実現できるというのであれば、一度ぐらい味わってみるのも悪くない。

 あれだ。やってみて楽しくなければネットで転売してしまおう。

 商品紹介ページに『現役女子大生の出品です♪』と書いておけば高値で売れるはず。

 心は乙女だから問題なし。

 なんてことを考えながら、僕は両手でゲーム機を持ち上げて、手早くネット回線に接続する。

 そして、そのままゲーム機を頭に装着。解説書の指示に従って、ベッドの上で仰向けになった。

 視界は真っ暗だったが、右耳の辺りにある起動スイッチを押すと、甲高い起動音と共に『Infinity Weapon Online』のロゴが表示された。

 どこからか聞こえてきたのは「起動シークエンスを開始します」という女性の声。

 ゲームをプレイする際の注意事項が映画のエンドロールのように流れて、次いで「起動認証用コードを発声してください」と促される。

 本当にこれだけでゲームが始まるのか半信半疑ながら、僕は解説書の最初のページに載っていた認証用コードを声に出した。


アイ haveハブ controlコントロール


 瞬間、僕の意識は暗転。

 肉体を残して、精神だけが遠いどこかに旅立った。


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