生きたい命

ずわりす

第1話


 私が生まれた家庭は決して経済的に豊かなものではなく、工場で働く父とスーパーでパートとして働く母の僅かな給料を生活費に当て、貧しくもなく豊かでもない、平凡な生活を送っていた。


 中学校では吹奏楽部員として三年間を過ごした。

 楽器の経験はなく一から教わったため、吹奏楽部の顧問や先輩に何度も叱られながら練習を繰り返し、何度も何度も辞めたいと感じた。

 だが、練習の成果をふとした時に感じたり、それを演奏会で発表できることに、経験したことのない感動に打たれ、辛いながらも楽しい充実した中学時代を過ごした。


 しかし高校では、吹奏楽部の雰囲気が自分とは合わなかったため、帰宅部として三年間を過ごした。

 中学時代では部活一本で生活していたため、部活のない生活のしかたが最初はわからなかったが、段々と友達ができて、それはそれで充実した日々だった。

 また、高校では初めて彼氏が出来た。恋は何度かしていたが、身を結ばせるほどの行動力もなかった事もあり、なぁなぁで消滅していたが、彼から高二の春に告白をされて付き合う運びとなった。記念日は四月九日で、彼は決して格好よくはなかったが、無償の優しさと可愛い笑顔が好きだった。


 高校卒業後は、地元の市役所の内定をもらい、地方公務員となった。

 社会人一年目は慣れないことだらけだったが、優しく気さくな三歳上のお姉さんのような先輩に気に入られ、社会人としての常識から何からお酒の味まで色々なことを教わりながら成人を迎えた。


 それから数年後、高校時代に付き合っていた彼との結婚が決まった。


 さらに数年後には息子が産まれ、家族三人で幸せな家庭を築いた。


 さらに時間を重ね、息子は家庭を持ち、孫ができた。


 その後は旦那と二人でゆっくり旅行に行ったりなどをして余生を謳歌した。


 そして私はとうとう最期の時を迎える。自分の今までの人生を振り返り、私はこんなにも幸せで良かったのだろうかと思えるほどの人生だった。何度も何度も辛いこともあったがたくさんの幸せに囲まれて死ぬ事が出来る。私は幸せ者だ。家族や今まで関わってきた全ての人にありがとう。おやすみなさい。



 そんなふうな人生を歩みたかった。

 裸足。ビルの上。七年目の記念日。



 私の生きたかった────命

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生きたい命 ずわりす @zuwarisu12

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