第26話 スペース・ウォー
桃園あかねは通信障害の原因を探っていた。だが、電波通信の阻害するような妨害電波の類いは検知出来なかった。
電波妨害じゃないとするとなんなのだろう。あかねは制服のポケットから携帯を取り出してチェックを始めた。
「今日子、携帯持ってる?私の壊れてるみたいなの。」
「作戦中だからポーチにしまってあるけど。ちょっと待って。」
携帯を取り出した今日子も不思議そうな顔をしながら、あかねに携帯を差し出した。
「やっぱりね。今日子の携帯も私のと同じ故障だわ。いえ、故障してる訳じゃないか。」
シャドウでは隊員全てに専用の携帯を持たせている。これは通常の携帯としても使用出来るが、隊員の位置情報から身体的な体調の情報まで衛星通信を利用して管理されていた。
「今日子、通話もネットも衛星通信もシャドウで利用している特殊な通信帯も全てを阻害するジャミングなんて存在するかしら?」
今日子は少し考えて『たぶんNOだわ。』と答えた。新しい技術として可能性はゼロではないものの現時点では難しいと思ったからだ。
あかねは今日子の答えに満足したのか今日子に自分の推論を語り始めた。
「昔何かで見た事があるのだけれど、電波を遮断する電磁フィールドの研究がされていたのを思い出したわ。」
「電磁フィールド?」
「そう、確か運用上の問題がいろいろあって開発中止されたとか。でも、これがもしそうなら問題はすぐ解決できるわ!」
あかねはそう言うと運転席に走り出した。運転席で準備をしていた
「桃園さん、むちゃ言わないで下さい。まだ撤収準備中なんですよ。まずは今泉さんに報告して許可をもらわないとっ!」
あかねは人指しゆびをひたいに当てると何かを思い出すようにブツブツと喋りだした。
「4月21日9時00分舞浜駅現着、同20分ネズミーランド入場ゲートペアチケットで通過、アトラクション2つ利用後、12時40分施設内レストラン【大マゼラン】で食事。……21時35分有明駅ホテルニュー……。ゆみちゃんに知られても大丈夫かしら?」
「あわわわわわ……な、なんで知ってるんですか!」
「ふっ、データ保管室をなめるんじゃないわよ!! さあ、アクセル踏み込んで時速60キロ以上でぶっ飛ばしてもらうわよ!!」
樺山はもう悪代官のように笑うあかねに逆らう事など出来なかった。突然指揮車輛が走り出した事でパニックになった撤収作業中の仲間達をあとに、アクセルを踏み込むと曲がりくねった山道を時速60キロで疾走していく。
あかねは一般入社組、特殊な能力を買われてシャドウに入社したのだ。その能力は超記憶! 本人は普通よりちょっと物覚えが良いだけと言うが、気になる記事や社内ゴシップは全て頭に入っていて、キーワードで出し入れ自由。諜報部隊の
「私の記憶が確かなら、あの装置は監視衛星による運用が計画されていた。敵は高度32000m、衛星軌道上にいる可能性が高いわ! 再度マーキングされればここからの通信もブロックされる。カバっ、死ぬ気で走りなさい。今日子も通信端末に戻って本部と連絡を取って!」
こうなった時のあかねは誰にも止められない。私も苦笑しながら本部への連絡を取り始めた。
「うーん、気付かれたかな?」
ベルフェゴールは串団子をほうばりながらモゴモゴと『どしたん?』と声を掛けてきた。
「敵の誰かが電磁フィールドに気付いたのかも知れないッス。通信設備を持った奴等が中継拠点から急速に離脱し始めてるンスよ。」
「時間も稼いだし、もーいんじゃね?」
マモンは当初の目的を概ね達成してはいた。敵の通信拠点を電磁フィールドで孤立させ、部隊の分断に成功していた。だが、予定時間より若干だが早く対処されてしまった。
撤退準備に掛かるのも想定内であったし、移動を開始したとしても効果範囲からはそう簡単に脱出させるつもりもなかった。
そのためにここでモニターに張り付いて敵の動向を監視衛星からチェックしていた。
だから他の大罪司教達の作戦は問題なく進行しているのに、敵の予想外の行動に対して自分だけがしくじっているような気分にさせられていたのだ。
「効果範囲の移動を開始するッス! 逃がさないッスよ、シャドウの戦闘員共。」
必死に電磁フィールドの効果範囲を動かすためキーボードを叩くマモンに、ベルフェゴールは『串団子一本食う?』とのんきに問いかけるのだった。
樺山の必死のドライビングにより、電磁フィールドの効果範囲から辛うじて脱出する事に成功した今日子達はすぐさま襲撃部隊と本部へ連絡を取っていた。
「はい、バトラーへの報告、現場への応援と救護の要請をお願いいたします。現在のところ演習部隊、サポート部隊との連絡は途絶。現場へは蜂谷係長が単独で向かっています。中継基地である仮設本部も電波遮断フィールドによる攻撃を受けていると思われ、菱木、桃園、樺山の3名で電波遮断領域から脱出し、指揮車輛にて高速移動中です。」
報告を終え、蜂谷と藤堂に連絡を取ろうとする今日子を制してあかねは通信に割り込んだ。
「バトラーに私の携帯に連絡してくれるようお願いいたします。はい、こちらの通信機は状況確認の為に使用しますので私個人の方に。はい、よろしくお願いいたします。」
「どうしたの、急に連絡欲しいなんて。」
「どこのバカが相手か知らないけど、やられっぱなしって性に合わないんだよね。」
怪訝な顔をしている今日子に向かってあかねは満面の笑みでこう答えた。
「マモちゃん、串団子一本いっとく?」
珍しくベルさんが気を使っているよ。マモンはそう思いながら、キーボードに突っ伏してへこんでいた。逃がした、逃げられた。
敵はこちらの電磁フィールドの展開移動速度を上回るスピードで逃げ切ったのだ。
「あの山道をあのスピードで走り抜けて行くなんて……。なんてドライバーだよ。なめてたよシャドウの凄腕ドライバーめ。」
本気で悔しがるマモンは知らないのだ。樺山が浮気の証拠をたてに脅されて死ぬほど必死に運転していただけのドライバーであることを。
「マモちゃん、これヤバくね?」
ベルさんが指さしたモニターには超空軌道ジャミング衛星【ハインダー】に、高速で接近する巨大な質量の物体がレーダーに映っていた。この質量を破壊する装備をハインダーは持ち合わせていない。また、スラスターによる回避もこのスピードで接近する物体には間に合わないだろう。
モニターに警告はだいぶ前から出ていたのだ。自分の油断が招いた事態に呆然とするマモンは、酷い敗北感に打ちひしがれていた。
「廃棄人工衛星アターーークっ!!」
あかねはノリノリで廃棄予定の人工衛星をハインダーにぶち当てた。マモンがあかね達を追って電磁フィールドの効果範囲を移動させた事で逆に敵の位置を探知し、バトラーに用意させた廃棄予定を早めた人工衛星を激突させる事に成功したのだ。
まだこの時点で敵の正体が確定してはいなかったものの、後に
ーつづくー
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