第20話 合同演習ブリーフィング
ポルターガイスト現象と言う言葉に全員が疑問符を口にしたので、僕は説明する事にした。
「あれはコンが途中で乱入して来た時、連れてきてくれた幽霊が僕に取り憑いて起こした
「君の拳から巨大な蛇が飛び出して来たような気がしていたのだが、あれは見間違えでも幻覚でもなかったんだな?」
「そう、巨大な蛇の霊だった。僕は犀川のスキをちょっと作れる程度の協力をしてくれる霊を探してたんだけど……。コンがとんでもないモノを連れて来たので、犀川を吹き飛ばしたあと、僕も気力を使い果たして失神したんだと思う。」
「えっへんニャ。」
誉めてない、誉めてない。その場の全員がそう思った。そしてその話題の蛇霊はまだ僕の目の前にいた。
『御主の気も回復したようだし、我はそろそろ退散するとしよう。貴殿と同化してわかった、御主の身に宿しているモノに彼の御方が敬意の念を抱いている事を。』
僕の身に何が宿っているというのだろう。聞きたいと思ったのだが蛇霊は続けて語りかけてきた。
『我も
ちょ、ちょい待ってよ。彼の御方って誰?コンじゃないの?それと【核】ってなにさ!
「どうしたの、一ノ瀬くん?」
僕の様子に何かを感じたのか菱木さんが声をかけてきた。僕は『桃園さんの後ろにいた蛇霊が……。』と言いかけたところで、桃園さんが悲鳴を上げて犀川に抱きついた。
「キャー、こわーい。犀川くん、助けてぇ。」
あまりにもウソっぽい棒読みの台詞に、僕と菱木さんは顔を見合せ笑った。当事者の数馬は桃園さんを邪険にする訳にもいかず、困って渋い顔をしていた。
あの模擬戦から1週間……気絶していただけの僕と違い全身に打ち身や打撲のあった犀川がようやく地下の病棟から退院してきた。まだ、本調子ではないが無理に退院してきたようだ。
「いつまでも寝てられないさ。来週の合同訓練までには最低限まで調子を上げておきたいからな。」
「あれだけの実力がありながら、相変わらず努力を怠らないヤツだな。」
「一ノ瀬こそ、僕に勝ったくせに自主練の量を2倍に増やしたって菱木さんが
「誰情報だよ。」
僕が笑いながら聞き返すと、犀川は大きくため息をついて『分かるだろ?』と言った。あれから毎日、桃園さんはお見舞いに来ていたらしい。
「女の子って……。」
「怖いな……。」
二人は顔を見合せ笑った。
たぶん、犀川は桃園さんの事を嫌ってはいない。むしろ好意を持っているのではないかと思う。ただ、桃園さんの積極的な行為にたじろいでいるだけなのだと僕は思っていた。
それから数日後、午後の格闘術の練習後に週末に行われるスクールバスジャック合同演習のブリーフィングが行われた。直接攻撃に参加する僕らアタッカーチームと作戦立案から追跡・救護までを担う後方支援チームが7つの班に分かれて、作戦指揮・誘導・襲撃・移送・後方支援などの合同演習を行うのだ。
塩河グループ傘下の学校で篠宮学院という女子校のスクールバスを襲撃する。もちろん全員演習の為の協力者だ。当然ケガなどをさせない様に細心の注意を払えとのご命令だ。
僕は誘導と移送を担当する5班。犀川は誘導と襲撃演習を行う7班になった。総合指揮補佐は総務部警備課1係の【
「スゲー!警備課のスーパーエースが補佐してくれるのかよ。指揮担当の1班がうらやましいぜ。」
北欧系クォーターのブロンド美人で、作戦遂行率100%を誇る鉄壁の部隊を率いて現在13隊ある
「ふーん、そうなんだ。犀川は知ってた?」
「一ノ瀬……一般入社組とはいえ、お前は社内のことに興味無さすぎだぞ。彼女に憧れて1係に配属されたいという奴が毎年どれだけいるかって話しだぞ。」
僕は興味無さげに『お前もなのか犀川?』と聞くと、数馬は大きくため息をついて首を軽く振ったあとこう語りだした。
「僕は
珍しく熱く語る犀川に、確か藤堂さんが上司の事を【伊達さん】と言ってたのを思い出した。ただ、藤堂さんの上司の伊達さんは怠け者とかスケベ親父とか……犀川が語る伊達という人物とのギャップに同一人物とは思っていなかった。
「皆さん、静かに!それでは今回御指導して頂くシャドウの上級隊員の方々を紹介致します。」
指導教官の紹介により6人のシャドウ隊員が会議室に入室してきた。先頭はキリッとした顔立ちで軽くウェーブしたダークブロンドが印象的な美人。たぶんこの人が蜂谷係長だろう。続く2名の男性は見たことないが、残りの3名は僕の良く知る人物たちだった。
「警備課1係、蜂谷です。総合指揮の補佐を行います。1班はこの後作戦計画見直しを行います。ブリーフィング終了後、第2作戦室に移動して下さい。」
「警備課1係、副長・坪内だ。3班から7班までの実動部隊の補佐を行う。よろしく!」
20代後半から30代前半といったところだろうか、いかにも柔道家というようなガタイ良いイカツイ感じの男性だ。隣の細身で如何にもサラリーマンといった感じの黒縁メガネの男と比べると余計重量感を感じてしまう。
「総務部庶務課2係、伊達だ。後方支援をサポートする。2班のみんなよろしくな!」
あのヒョロっとした黒縁メガネのサラリーマンが伊達さん??めちゃくちゃ軽そうだぞ。となりの犀川をみると目を爛々と輝かせて肩を震わせていた。おいおい、マジか?
「庶務課2係、副長・
会議室内にドッと笑いが起こった。
「おいおい、藤堂ちゃん。新人達の前でそりゃないだろう?俺、面目丸つぶれジャン。」
「潰れた面目はキチンと指導と補佐をして回復して下さい。以上!」
「へーい。」
どこまでも軽い感じだ。本当に大丈夫なんだろうか?うちの班担当ではないが、心配になってしまった。
そして最後はこの2人だ。
「研究棟データ保管室、管理課・
「同じく、データ保管室、管理課・
さっきまで目を爛々とさせ期待に震えていた犀川は見る影もなく凹んでうつむいている。たぶん、桃園さんの事は嫌っていないはず……だよ……ね?自信が無くなってきた。。。
それにしてもこの人選……なんとなくだけど、あの
「はーい、私デース!」
会議室のモニター映像を見ながら所長の小早川雪菜は僕の心を読んでいるかのように呟いた。
「ジョセフィーヌ、ニャーニャー言葉でお友達いっぱい出来たでしょ?またたくさんお話聞かせてね。」
「ジョセフィーヌじゃないニャ。でも分かったニャ。」
嬉々として社内のウワサ話を聞き話す2人の横で頭を抱える副所長は、近いうち胃に穴があきそうだと感じていた。
ーつづくー
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