第19話 引き金
「まってください!」
声のする方を振り向くと、先ほどの男の子と一人の青年がいた。
「すいません、こいつが施しを受けたようで・・・ありがとうございます。」
何か嫌な予感がした。
シャーリーは素直に受け止めて心が救われたように内心喜んでいたように見えた。
「いえ、大したことじゃありません。ではさようなら。」
「まってください!」
また呼び止められる。
無視してシャーリーの手を引き帰ろうとする。
「まってください!母が、病気で死にそうなんです!診てはもらえないでしょうか?」
男の悲痛な訴えだが無視して歩く。
一国の姫として恥じるべき行為だな、と内心思ったがどうしようもない。
「まってセントさん!」
シャーリーが立ち止まろうとする。
「なんとか助けられないかな?」
彼女にこう言われて足が動かなくなってしまった。
「おねがいします!来てくれませんか?」
「・・・」
セントは無言のまま、シャーリーと一緒に2人の兄弟についていった。
☆
スラム街小路―
「・・・まだですか?」
不機嫌のまま警戒したままセントは歩を進める。
「ここだよ。」
一本の細い通路を歩いていたところで男たちは立ち止まった。
「え、お母さんは?どこにいるんですか?」
シャーリーが物事を把握し切れてないようなことを言う。
「いねぇよ、親なんて。」
先ほどの男が口を開く。
「おい、乱暴はしないから着ているものを全部おいていけ。」
大方予想通りだ。
シャーリーは頭の良い子だが人を疑うってことを知らないのだ。
「わかったでしょ?帰るよ、シャーリー。」
シャーリーの手を引いて引き返そうとする。
するといつの間にか後ろにもスラム街の男たちが迫っていた。
手には木の棒や鉄パイプを持っていた。
「馬鹿かこのお人よしめ。もうとっくに囲まれてんだよ。」
・・・
やらかしたな。
頭にかっと血がのぼってきた。
蹴散らしてやろうか、暴れまわってやろうか。
でもここにはシャーリーがいる。
私の大切な人の、大切な妹だ。
私のせいで気付付けるわけにはいかない。
「セントさん・・・ごめんなさい・・・私のせいで・・・」
泣きそうな声でシャーリーがつぶやいた。
「いいから、そっちの壁に張り付いてて。私がいいっていうまで。」
興奮した血液を体に巡らせる。
呼吸を深く早く行う。
ふー、ふー、
はーっ、
・・・貫き通る
☆
セント・トパーズ・シンデレラ・ローズはヴィクトリ国の女王である。
彼女は歴代の姫とは違い、自らを鍛え、学術にも武術にも猛た優秀な女性であった。
何故彼女は護衛なしに国内を自由に歩き回るのか、
理由は単純。彼女は賢く、危険を回避できるから。
それだけでない。シンデレラ嬢は、単純に強かった。
「はーっ」
呼吸を整えて左腕を下に伸ばす。
袖の下からシルバーナイフを取り出し隠し持つ。
セントの前に5人、後ろに2人の男。
右足を軸に体を左回転でひねり、そして、
鬼の眼をして振り返った。
ダンっ!!
左足を大きく、1歩踏み込む。
身体を深く低く下に潜り込ませる。
1人の太ももを切り込む、
「ぐわぁっ!」
そのまま体を沈め、右手を地面につける。
地面を踏み、角度をつけず横に飛び込む。
少年の脇腹横をめがけて切りつける。
「えっ」
返り血を気にせずもう一度低姿勢のまま180°回転。
垂直に跳び頭の上から振りかざしたナイフを投げつける。
ナイフは左にいた男をかすめる。
「うおっ、あぶねぇっ!」
数秒の内に3人が傷つき、2人が深手を負った。
「シャーリー!走って!そっち!」
「うん!」
セントはスカートの下、脚に隠したアーミーナイフを取り出し5人の男を睨んだ。
男たちがわめく。
「う・・・なんだこいつ!なんだこの女は!こんなの女の腕力じゃねぇよ!」
両手のナイフの先端を向けて言い放つ。
「光速度をエネルギーとして追加した最高の切れ味だ、ナイフで女の腕力と言えど腱までならばっさり切り裂くぞ。」
血の雨と怒号の飛び交う中、ブラックローズ姫が舞った。
美しくも残酷に、
華麗に舞い踊った。
☆ ☆ ☆
「シャーリー! シャーリー!」
セントが街を駆け回る。
だがシャーリーは見つからなかった。
「すいません!金髪のサイドテールの女の子を見ませんでしたか!?」
道行く人に尋ねても誰もセントと話そうとはしなかった。
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