第16話 さあ出かけよう、僕らは若者なのだから
4月
上尾に引っ越した。といっても一人暮らしの手前、寮暮らしだ。
理由は単純、大宮の予備校に高崎から通うには無理がある。
せっかくならお茶の水あたりに行きたかったが贅沢は言えない。
予備校に行き、クラス分けとなる最初のテストを受けて、そのあとは大宮の店を見ることもなくすぐさま帰ってきた。
大都会にビビっていたのかもしれないが、それよりもすぐに勉強がしたかった。
そしてそれよりも、早く寝たかった。
夢の中へ、あの世界へ行きたかった。
勉強に金がかかるってのは予備校や大学の入学金授業料を見てやっと気づいた。
自分の自由なまま、思うがまま勉強ができるって幸せなことなんだ。
☆ ☆ ☆
「ってことでもう1年同じ勉強をすることになったんですよ。」
向こうの国の話をフレアにあらかた話した。
〈ふーん、浪人生ねぇ。あんまりいい名前じゃないのね〉
そこまで親身にはならず、他人事のように聞いていた。
〈でも学歴が全ての世界ってのもやなもんだね。しなきゃいけないことが決まってて無理にでもやらなくちゃなんでしょ?それはもう自由に勉強できる環境じゃあないじゃない。〉
そういわれればそうなのか。
〈でもまいった。向こうの世界はそんなに頭いい人がいっぱいいるのかしら。〉
「頭がいいっていうか…偉大な先人たちが研究のデータを後世に残してくれていただけですよ。それでも今の時代も頭いい人はいっぱいいっぱいいますげど。」
〈ふぅん…まぁ私も教科書にはお世話になってるからそういうものなのかな。〉
「それでも高校卒業程度の知識じゃ研究者には99%なれないですね。」
それを聞いて嫌なもんだなというような顔をフレアが見せた。
〈っと、噂をすれば。丁度10時だ。そろそろ来るかな。〉
☆
城内 応接室
フレアと一緒に待っていると、紙を持った男性が入ってきた。
「クード様でお間違えないですね?」
「はい。」
「では、こちらが研究者認定書になります。ご確認ください。」
役員の人に丸められた書を1枚渡される。
「ありがとうございます。」
書類をその場で広げてみる。あなたを国認可の研究者として認めますといった内容と、その下にクード・ヴァン・カーネーションの名前。その下にセント・トパーズ・シンデレラ・ローズの署名があった。
「では王国認定研究者の説明をさせていただきます。」
男性がお決まりであろう口上を述べ始まる。
「まず研究者は国の組織に所属していただきます。後に申請書を書いていただきますが、多くの方は国営施設か軍部か―」
コン、コン、コン
話の途中でノックをする音が聞こえた。
【よろしいかしら?】
扉を開けて、ローズ姫が入ってきた。
「姫様!」
役員が驚きと緊張で敬礼して固まる。
【あなた、もう説明は終わりましたか?】
「はっ、はい!手続きの説明までです!」
【ありがとう。あとは私とフレアに任せて、下がって構わないわ。】
「はい!失礼します!」
男性はそそくさと部屋を出ていった。
ふぅ、と姫が一息つくと、先ほどまでの冷たい淡々とした態度とは変わって笑顔になった。
【クーさん!合格おめでとうございますっ!!】
「!!っ ありがとうございます!」
先ほどまでのギャップに驚いた。試験が終わった時もこうだったっけか?
〈そりゃあ私の推薦だもの。犯罪者でもない限りほぼ受かる話だったんだけどね〉
フレアが口を挟む。
「フレアさんどんだけ偉いんですか…」
【いえいえ、なかなかの腕前でしたよっ♪】
にこりと笑って胸の前で両手をグっと握る。
あー、なんだこの可愛い生き物は・・・
〈お嬢、クーがついていけてませんけど〉
「お姫様、面接のとき俺に向かってつまらないだのなんだのおっしゃってませんでしたっけ?」
姫は驚いた顔をして手を横にぶんぶん振った。
【いえいえいえ、とんでもない!公共の場なのでああいうことをのたまわってしまいましたけど、心から尊敬してるんですよ!クーさんのこと!】
感情豊かなお姫様だなぁ。
さっきまで冷静というか、冷血という言葉が似合っていたのに、今では普通の女の子にしか見えない。
のたまうって古語だっけ?しかも敬語じゃなかったっけ?
〈姫、クーをからかうのもほどほどに。〉
呆れた顔でフレアがため息交じりに言う。
【そんなことないわフレア。私は彼の能力を高く買ってるのよ。】
「買いかぶりすぎじゃありませんか?」
いいわ説明してあげると、笑って少女は語りだした。
【君の能力は万能と言ってもいいわね。理系の全分野を幅広く抑えていて、特に物理地学の学力は我が国の中でもトップクラスだと思うわ。城下町内の消防隊や警備隊に入って経験を積むもよし、軍に入って即戦力で兵士にもなれるわ。いえ、隊長に任命したっていい。そして城内で研究に没頭して、その成果をもって国に貢献するもよしよ。】
「わぁ驚くほど評価高いっすね」
【あなたの自由よ。好きなものを選んでいいわ。】
勉強してきてよかったな。選択肢が無限に広がる。
さて、どうしよう。
軍に入って戦場を生き抜き、歴戦に名を馳せる勇者となるか。
大学に入るために勉強時間を確保でき、博士を目指せる城内勤務にするか。
シャーリーやメディたちとこの国でのんびり暮らせる公務員となるか。
この物語は自由に選べる。
君なら何を選ぶだろうか
→1.軍の研究者となり世界と戦う国落ちストーリー
2.城の研究者となり姫と一緒に勉強する青春モード
3.町の研究者となり家族や親友と楽しく暮らす日常パート
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