第7話 (4/3)πr^3ρωg=ρav^2πr^2Cd/2

三人でゆっくりと抱き合った。


・・・


どれくらい泣いただろう。5分のようにも、1時間のようにも感じた。


ガチャッ

人の足音と扉を開ける音がした。

メディが帰ってきた。

全身ずぶぬれのご様子で、透けた下着がセクシーでちょっとムラムラきた。


「ただいまー、ってあんたたちまた抱き合ってたの。」

「メディも混ざる?この子たち泣いてたからあったかいよ?」

フレアがそんなことを言う。


そう言われるとこの抱き合ってる体制が恥ずかしくなってきた。

慌ててフレアから離れる。


メディとシャーリーにそれぞれを説明。

「シャーリー、この紫のメガネちゃんはメディ。私の友達でお医者さんなの。

で、メディ。こちらはシャーリー。家族がいないんですって。」

シャーリーが挨拶をする。

「あの・・・メディさん。助けてくれてありがとうございました。」

「いいのよ。お礼はそこのお兄ちゃんに言いな。」

それさっきフレアさんが同じこと言ってたぞ。


「でも早かったわね。怪我人でなかったの?」

フレアがメディに尋ねる。

「そうなのよ。なんか不思議なことにそこだけ雨が降ってきてね。局所的も局所的。シャーリーちゃんの家とその周辺だけ雨雲が急にできてね、土砂降りよ。こんなことあるんだね。」

俺がすかさず口を挟む。

「この国ってそんな局所的な豪雨ってよくあるんですか?」

メディがタオルで髪を拭きながら答える。

「ないない。そんな不思議な事。」

「ちょっと、私着替えてくるね」と言ってメディは別の部屋に行ってしまった。


「ねぇ、シャーリーちゃん。ちょっとその本見せてもらってもいい?」

フレアが興味深そうに少女に詰め寄る。

僕も興味がある。命より大切な本なんて。

「はい、どうぞ。お兄ちゃんも見ていいよ。」

ペラペラとページをめくる。


はくちょう座…風の向き…元素記号…電池…ろうそくの火…デンプンとヨウ素液…

そこには小学校から中学校までの理科の教科書の内容が並んでいた。

教科書が命よりも大切なもの?


「これ、理科の教科書じゃないか。」

僕の言葉にフレアが驚く。

「君、分かるのか!? この文章が読めるのか!?」

「えっ、だって日本語…あぁそっかこの国は文字が違うんでしたっけ。」

確か太陽とか月とか三角形の文字の組み合わせだった。

「お兄ちゃんこれわかるの?」

「うん、一通りは勉強してるはずだよ。」

引きつった笑顔でフレアが聞いた。

「お前…何者だ?親は?」

なんて答えればいいんだ。


ガチャッ

着替えたメディが入ってきた。

半袖ハーフパンツでタオルを首にかけてわしゃわしゃと。

・・・なんか、風呂上りみたいで妙にエロいこと。

「メディ!」

「あー、大丈夫。聞いてたよ。」

メディがフレアを制する。

そして僕に尋ねる。

「ねぇ君・・・キュウ君だっけ? あのさ、雨の降る仕組み、説明できる?」

分かる。でも説明するとなるとどうしたものか。

「えぇと・・・」


雲っていうのは実は氷の粒だ。氷の粒は空気中の塵などに付着して、そして雲ができる。このエアロゾルがないと雲は出来ない。

雲の中で氷の粒はどんどん大きくなっていく。ある程度大きくなるとその自らの重さに耐えられなくなって落ちていく。

落ちていく過程で氷はとけて水になって雨が降る。


こんなことを説明した。


「お兄ちゃんすごいね!お兄ちゃんが雨降らしてくれたの?」

少女が無邪気に僕の頭を撫でる。

メディがシャーリーの頭を撫でて言う。

「案外本当にそうかもね。」

さっきまで静かに聞いていたフレアが口を開く。

「いや、そんな情報だけで雨を降らせられるものか。雲の発生速度は?氷結速度は?スケールだって計算できないだろう。想像で出来るというのか?雨粒の落下速度は?」

怖いこわい。

「紙とペンありますか? 雨粒の質量と落下速度くらいなら覚えてると思うんですけど・・・」


雨粒質量:4πr^3ρω/3 

最終落下速度:mg=ρav^2πr^2Cd/2


なんてことをスラスラ書いた。


シャーリーはよく分かってないようだったがメディもフレアもすごく驚いていた。

それはそうだろう。こんな式気象予報士でしか見覚えないはず。

メディが言う。

「フレアから学術と研究者の話は聞いた? 学術ってのは物事の仕組みや世の中の法則にしたがえば『力』なの。それを扱える人が研究者。ウチの国でもごく少数よ。」

うん。・・・ん?

「ってことは、俺が雨を降らそうと思えば雨が降るってこと?!」

フレアが答える。

「ああ。…信じられないよ。学術を知らない人間が無意識で雨を降らすなんて。」

シャーリーが疑問を投げる。

「別の人が降らせたってことはないの?」

メディが答える。

「残念ながら、ウチの研究者で天候を操れる人はいないのよねぇ。教士のフレアでも専門外だろうし。」

キュウが聞く。

「…偶然降ったってことはないですよね?この国の風土的にありえ」

間入れずフレアが割り込む。

「ありえないね。こんな局所的なゲリラ豪雨。それにお前言ってたろう?『雨が降ればいいのに』って。」

言ったか?・・・言ったなぁ。


キュウを見るフレアの眼がどんどん厳しくなっていく。

何か、悪いことでもしただろうか?

「ま、まぁ。彼のおかげでシャーリーちゃんも助かったんだし!雨のおかげで怪我人も出ることなく火事が鎮火できたわけだし!ねっ、フレア!」

メディがフレアをなだめる。無理に口調が明るくなる。

「メディ・・・ちょっと。」

「うん。」

2人は廊下へと出ていった。


「フレアさん、怖い顔してたね。」

取り残されたシャーリーが言った。

「ねー。何か悪いことしたのかな。」


まぁ、予想はつくんだけどさ。

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