第6話 もっとそっとぎゅっと

がくじゅつ?・・・学術か?

「学術ってのは、この世の法則にしたがって力を使うことよ。例えば…そうね。火を起こすときマッチを使うでしょ?あれでさ、火の起こる仕組みを理解していれば・・・ほらっ!」

フレアさんの指先から小さな火が出る。

「おぉっ!・・・爪に火を点す・・・」

「ぷっ・・・あはははは!うまいこと言うねっ!」

フレアがお腹を抱えて大声で笑った。


「ん・・・ううん・・・」

隣からくぐもった声が聞こえた。

金髪のサイドテールの少女だった。

「あ、目さめた?大丈夫?」

キュウが少女に話しかける。

「はい。・・・あ、あのっ!本は・・・」

「君が持ってた本なら枕元にあるよ。ぬいぐるみも。」

少女はあわてて体を起こしてタオルに包まれた本を取り出した。

本は表面が多少濡れていたがそれ以外は大丈夫、乾かせば元通りになるであろうし、読む分には問題ない状態だった。

「あ・・・よかった。 ありがとう、お兄ちゃん!ほんとに、本当に大切なものだったの!」

フレアが口を開く。

「えっと、あなた体痛いところない?名前は?」

「はい、お兄ちゃんが守ってくれたから、大丈夫です。わたし、シャーリー。シャーリー・テンプル・チューリップです。」

チューリップ。可愛らしくて素敵な名前だと思った。名前はシャーリーなのだろうけど。

「そっか。かわいい名前だね。僕はキュウ。で、こっちはフレアさん。フレアさんが僕たちを助けてくれたんだよ?」

フレアさんがすかさず口を挟む。

「いやいや、シャーリーちゃんを助けたのはこの子だよ。君を背負って出口近くまで来てね、天井の一部が崩れたときあなたを抱きしめて身を挺して守ってくれたんだよ。」

「そうなんだ、ありがとう!お兄ちゃん!」

うーん・・・まあ事実だからいっか。

「で、母方姓がチューリップ?シャーリーちゃん、あなた家族は?」

フレアが質問を続ける。どこか怪訝そうな顔をしていた。

「お母さんは・・・私が生まれてすぐに死んじゃいました。お父さんもちっちゃいころに出て行っちゃって、おばあちゃんと2人で暮らしてたんですけど、そのおばあちゃんが3日前に死んじゃって・・・」

まだちっちゃいだろうに、これより小さいころからそんなに苦労してたのか。

「あっ、でもこの本ね、お母さんの形見なんだよ?この本お母さんが大切にしてたんだっ。それでね、このぬいぐるみはね、おばあちゃんが・・・っ・・・」

瞳に大粒の涙が浮かび上がり体がびくっとなったのが分かった。

「シャーリー!」

思わずとびついていた。こんな、10歳くらいの少女が、こんなつらい思いをしていたなんて。

ぎゅっと強く抱きしめる。

「我慢しなくていい、泣いて、全部吐き出せ。」

「おにい・・・ちゃ・・・うわああああああん!」

頭を優しくなでる。

・・・うん。

さっきもこんなことあったな。

「ほらっ、泣き虫二人とも。ぎゅーっ。」

フレアさんの両腕が僕とシャーリーを包んだ。

あったかくって、こそばゆくって、女性独特の安心感だった。

そして少しだけ、ドキドキした。異性に対する感情のような、女性に対する感情のような。


三人でゆっくりと抱き合った。

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