第4話 これが私のレイゾンズデートル
騒ぎを聞きつけ軍が駆け付けた。
この国の人災、災害の対処は軍が行うことになっている。
火災担当ファイア隊長と医療担当メディ局長の仕事だ。
火災が発見されてから5分後に4人来て、15分後には30人ほどの人数が集まっていた。
軍部の部下が上司と会話する。
「隊長、報告によると中に少女が1名、それを助けようと数分前に青年が1名飛び込んだ模様です。」
「うむ・・・仕方ないがもう助からないだろう。 被害を食い止めよう。火災源及び周囲の建物の破壊を行ってくれ。」
こういう悲しい決断を強いられてきた。何年も何年も。
「まって!!」
1人の女性が走ってくる。
肩まである赤い髪が風になびく。白衣を着た美人だった。
どれくらい走ったのだろう、息を切らして、声もうまく出せなかった。
「まって、ファイア!」
「フレア先生!お戻りになられたんですね!」
「あの家、まだ中に人がいるのよね?」
「えぇ、少女と青年が。」
「私が行くわ。取り壊しは少し待ってて!」
「承知いたしました。どうかご無事で。」
燃え盛る家の中に女性が一人入り込んでいく。
消防隊の部下たちが騒ぎ出す。
「あのひと、止めなくていいんですか?焼け死んじゃいますよ?」
「あぁ、お前新人だから知らないのか。あの人はフレア・カルーア・カーネーション教士だ。」
ベテランらしき隊員が言った。
「教士・・・てことは『研究者』ですか?! 俺軍に入って3か月たつのに初めて見ましたよ!」
「そうだ。この国に3人しかいない教士の中で、唯一の化学専攻者。それがフレア先生だ。このくらいの火なら無傷で帰ってこれるだろうな。」
新人の隊員が驚いた顔をした。
「へぇ・・・すごいんですね、研究者って。」
☆ ☆ ☆
「君か・・・何の能力も持たずに見知らぬ人を助けようと命をはった愚か者は。」
火災現場から400mほど離れた建物まで俺は担いで運ばれた。
天井を背景に、視界に女性が2人入る。
どちらも白衣で、胸の大きな美人のお姉さんだった。
俺を火の中から助けてくれた女性と、もう一人は医者だろうか?
「うぅ・・・げほっ、女の子は?火事は・・・?」
紫の髪の女性が答える。
「まぁまぁ。私はメディ。メディ・キティ・アコナイトよ。こっちの赤い髪はフレア。君の命の恩人よ。今は他人の心配よりも自分の心配をなさい。」
服を脱がされて全身を水で、特にひどい部分は氷で冷やしてもらっていた。
寒い。冷たいと感じたが1分後にはその温度も苦ではなくなっていた。
「えー、全身に目立ったやけど跡なし。全身濡れた服で覆っていたのが幸いね。露出してた顔が少し煤こけたけどまぁこれくらいなら軽いものよ。 あとで綺麗に治してあげよう。あとはー、左手を強く打ち身、右足首の捻挫くらいかな。崩れ落ちた瓦礫か何か支えたかな? 煙もまぁ多少吸ってるでしょうけど命に別状なし。 よかったね。」
「女の子は・・・?」
今度は赤い髪の女性が答えた。
「隣にいるぞ。」
隣を見る。俺が助けた女の子が静かに眠っていた。
「そっちはやけど一切なし。煙もほとんど吸ってないよ。助けてくれてありがとね。」
「本当にありがとう。女の子だけでなく、学術書も守ってくれて。」
メディさんとフレアさんにお礼を言われる。
そうか・・・よかった。
安心した。
生きてるんだ。俺。
生きてるんだ、あの子。
「ふふっ・・・あはははは」
急に笑いが込み上げてきた。
生きている喜びに、
そして急に涙が出てきた。
「・・・うぅっ・・・」
フレアとメディが目を丸くして驚いた。
「おー、大丈夫?どこか痛い?」
「どうした、急に泣き出して。怖かったか?」
「・・・違うんです。」
違う。痛いとか、怖いとか、安心して気が緩んだとか、そういうのもあるんだけど、違うんだ。
「俺、俺・・・死のうと思ってたんだ。一人じゃ何もできなくって。生きる理由がないって。」
そう、あの日俺は湖に身投げした。
あの月夜の晩、湖に浮かぶ月を見て、あの月を取りに行こうと。
受験に落ちたことを知って、これからに絶望して、自殺した。
「でも・・・でも、俺が子供を救えたんだって。こんな俺でも人の役に立てたんだって。それで・・・俺・・・」
咽ぶ。呼吸がうまくできない。
煙のせいじゃない。涙のせいでもない。もっと心から湧き上がってくるものだった。
グィッ
突然上半身を引っ張られた。上体が起きた。そして、
ギュッ・・・
優しく抱きしめられた。
「あぁ、お前はよく頑張ったよ。君がいなかったらこの子は助からなかったかもしれないんだ。ありがとう。」
胸が顔に当たる。胸が大きい。でもエッチな気分にはならなかった。年上の、お姉さんにでも優しくされているような。そんなことをされて涙が止まらなくなった。
それを子供でもあやすかのように頭をぽんぽんと優しく優しくなでてくれた。
「フレア、代わって。」
ギュッ
今度はメディさんに抱きしめられた。
先ほどのように胸に顔をうずめるのではなく、もっと密に接したハグだった。
「君はよくやったよ、でもね・・・」
今度は強く強く抱きしめられた。痛いくらいに。
「君が誰かの犠牲になっちゃダメなの。人助けするときは、自分も生きて帰らないとダメなの。自殺なんてもってのほかだよ。・・・わかって。」
僕はかすれる声でうなずいた。
「うん、よくやったよ、でも死んじゃだめだよ。約束してね。」
もし現実世界に戻れるなら、命を大切にしようと誓った。
僕にも、存在理由があったんだ。
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