第3話 茜空、紅炎、朱火、赤篝

燃え盛る火炎の渦に飛び込んだ。


思っていたのとは違う景色だった。レンガ作りは外堀がほとんど、中は木造建築の燃え盛る角材が蔓延っていた。


入ってすぐ後悔した。無理だ。こんなところすぐに抜け出したいと思った。

頬が焼ける。目が染みる。服は焼けてはいないがとてもとても熱かった。

この選択は死体を一つ増やしただけだと思った。

でも飛び込んでしまった手前、女の子を探すことにした。


二階はない、地下があるなら逃げ込んでいるはず。

てことは多分入り口から遠いところが正解だろう。

飛び込んだ部屋から奥に続く通路が1つ、扉が3つ。

一つが焼けた木。1つがガラス戸、1つが鉄製扉。

運だ。感だ。

ここで選択を一つ間違えれば無駄死にだろう。


「誰か―!!」


メキメキと木材の焼ける音と空気が熱で膨らむ中で女の子の声が聞こえた。


☆ ☆ ☆


「もう大丈夫、助けに来たよ。」


ガラス戸を開けて中の空間に入った。

・・・ここはお風呂場か。


中には泣いている10歳くらいの少女がいた。ちなみに服はちゃんと着ている。

くまのぬいぐるみと本を一冊抱えて持っていた。


「ふぇっ・・・ぐすん。お兄ちゃん・・・誰?」

「時間がないから、急ごう!」


にしてもここへ逃げ込んだのは正解かもしれないな。

ここは全体が石造り、熱くはなっているが火はまだ回っていなかった。

浴槽に水がたまっているしシャワーもまだ出るようだ。タオルも大きいものがある。


「ぅ・・まって、本が燃えちゃうから、ここから出られないの・・・」

「本? 本よりも命のほうが大切だから! 行こう!」

「ダメなの! この本は命よりも大切なの・・・」


そんなに大事なものがあるか。

でも気持ちはわかる。

俺だって自室の本が全部焼けたら発狂する。


「・・・わかった。まかせて。」


まず自分が着ていたコートを脱ぎ浴槽の水につける。

女の子を浴槽に入れて全身を濡らす。

つぎにハンドタオル2枚で本を包み、女の子のお腹の中にそれを挟む。

ぬいぐるみを女の子の背中と服の間に入れる。

よし、そして俺が浴槽に飛び込む。

途中ついにガラス戸が割れた。

女の子を背負い、落ちないようにバスタオルで俺の腰に縛り付ける。

そしてこの上からコートを着る。


これが最善手だろう。本は女の子に守られて女の子はぬいぐるみがクッションになってくれているはずだ。


「苦しくないか?」

「・・少し苦しい」

「おっけ、じゃあもう少しだけ我慢してくれよ。」


息を吸い、吐く。少し煙を吸い込んで咳き込む。

またあの炎の中に飛び込むのか。

怖い。でも大丈夫、大丈夫。


「大丈夫、大丈夫。・・・いくぞ!」


自分に言い聞かせるように、この子を安心させるようにと言霊をつぶやいた。


そして、再び紅の渦へと飛び込んだ。


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