プロローグ 幼少期 死んで蘇る伝説のシェフ?

刺身包丁で刺される

俺は羽倉崎 悠真 世界をまたにかける伝説のシェフと呼ばれていたシェフ。22歳で三ツ星レストランの料理長に就任。料理において俺の横に並ぶものは1人としていない。世界のコンクールやコンテストで優勝。20歳になるまでに獲得した賞は数えられないほど多い。23歳で旅に出る。中国 韓国 オーストラリア アメリカ メキシコ カナダ ロシア フランス ドイツ イギリス スペイン イタリア そのほかにもインドやブラジル、エジプト等など...

6年ですべての料理を会得する。アメリカの大統領に私の料理人にならないかと本人から頼まれた事もある。これは俺の中で一番の自慢だ。


俺が29歳のとき、フランスの有名料理店の料理長になった。が……そのレストランの部下達は日本人である俺の下で働く事がよほど嫌だったらしい。完全とまでは言わないものの、実力社会の思考の根強いヨーロッパの料理人社会は、俺を快く受け入れてくれやしなかった。いくら俺が凄かろうと、自分より年の低いのに上司という嫌な状況を回避するためだったのだろうか?

俺の歓迎パーティーの時にグサリ。いつもは魚を切っていた刺身包丁でグサリ。背中から刺されて俺は意識を失った。


俺としては、刺身包丁は刺身に使うべきであって、人には使って欲しくないんだが...いや勿論殺人なんて言い訳ないんだけどさ!


兎に角俺は冗談の一つも言えずに意識を手放してしまったのだ。



♢♢♢♢♢



「んぐ...」


意識が覚醒していく。死んだのか…はたまたしに損ねたか。感覚はほとんどない。体があるのかすらも認識出来ない。


ここは死後の世界だろうか....世界を旅した俺としては、世界中の死後の世界の話を聞いてきたが、本当の死後の世界とはどんな感じなのだろう。


やはり天国って実在するんだろうか?いや....俺自身何も悪い事してないけど、地獄行きも有りうる?それはちょっと嫌だな。閻魔大王ってすごい怖いんだろうな。

なんだろう。自分が死んだのに、死んだっていうことに、全く実感が持てない。何故だろう。


そう考えると、おかしい点はいくつかある。まず、俺は寝ているのだ。死んだのに、寝てんのか?意識が戻った時には感覚がゼロだったが、今は感覚が戻ってきた。感触がある。俺の上には、何か厚めの布が掛かっていることが分かる。体は自由に動かないものの、あるにはある。死んでなお肉体があるってとこがおかしい。

待てよ....。俺もしかして生きてる?すぐに手術したとかで。そうするとこれまでのおかしな点が一気にカチリとハマるぞ。

もしそうなら、俺を刺した奴をギャフンと言わせたい。何も復讐をしようとは思わない。ただ、俺はお前より実力が上だ。と、知らしめてやるだけでいい。


そんな事を考えつつ、生きている事を祈りながら、目を開けると陽の光が差し込んできた。思っていたよりも明るい。どうやらベッドのようなところに寝かされているらしい。体を起き上がらせたいが力が入らない。首が少し動くくらいだ。首をゆっくり左右に動かす。首が右に曲がりきったその時。そこには鏡があった。鏡に映った自分の姿に目を疑う。







俺は赤ん坊になっていた.......。


確かに生きている。生命自体はある。だが、俺として、羽倉崎 悠真としてはもう、生きていなかった。


「わかあ!(馬鹿な!)」


目の前で起きている事....いや、自分に起きている意味不明な現象に、俺は絶句する。赤ん坊の幼い口からは、普通に話すことすらもできない。よって俺の叫びも、意味の無いただの3文字の何かに過ぎないものとなってしまった。

首しか動かない赤ん坊の体では、今すぐに何が起きているのかを調べることすらできない。ただひとつ。確かなものがある。羽倉崎 悠真としての人生には、既に終止符が打たれてしまった事だ。

正直信じたくないところもあるが、死んで赤ん坊といえば、もうあれしかないだろう。

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