第五話「花火!」
第四章第五話ー1
やっぱりアニメは、リアルタイムで見るのもいいけど、録りためて一気に観るのがいいね。一週間待つとかできない。
結局三ヶ月待ってね? というご意見もあるかもしれないが気がつかなかったことで。
妃奈子の夕飯も最高だけど、その後のアニメ+スナックアンド炭酸飲料。この組み合わせも最高だわ。
次の日を気にしないで済むし夏休み延長しないかなと叶うはずのない願いを抱いていたら、スマホが短く音を奏でた。ウェットティッシュで手を拭き、スマホをスリープから起こす。
「ん? 円芭」
パスワード画面ではメールの内容を表示しない設定にしているので要件が分からないが、またどこか行こう的なもんか?
【円芭:疑似恋。明日デートして】
どこか行こうとかいうレベルじゃなかった! 疑似恋と言えどデートって言葉に重みがあるよね。返事はもちろん快諾させて頂きましたよ。
あー、いつになくスナック菓子と炭酸のコンビネーションが美味しく感じる。早く明日にならないかな。
☆ ☆ ☆
昨夜寝られなかった。なにせデートだもん。
ウキウキした気持ちを隠せないまま待ち合わせ時間までの時を過ごしてしまった。玄関を出て、円芭を待ってる間凄い後悔している。妃奈子には完全にバレたな……。
「早っ。まさか結構待ってるとか言わないよね?」
「大丈夫。今来たところ」
「ならいいけど」
「……っ……」
おっとぉ! え、なに? 俺は夢を見ているの? あ、あの円芭がチュルリラワンピを着てる! いつもジーパンか最高でもキュロットだったのに。
「どうしたの?」
「いや、円芭もワンピ着るんだなぁと思って」
「に、似合う?」
ワンピの裾を掴み、片脚のつま先を立てる。ずっとワンピでいてほしいくらい良い!
「似合いすぎるくらい」
「……暑いし行こう」
「りょ、了解」
俺の答えを聞いた途端みるみる顔を赤くした円芭。照れを隠すように自転車にまたがり漕ぎ出した。どこ行くか聞いてないんですけどっ。慌ててそれを追いかける。
「桜森に行くから」
「え、あそこなにかあったっけ?」
ちなみに、桜森というのは大きな公園。デートをするような物俺の記憶にはない。森の公園というイメージ。正式な名前は、桜森パーク。
「あそこデートスポットだから」
「知らんかった……」
「前は何もなかったけど、ここ数年色々出来たの」
「へぇ、そうなんだ」
じゃあ、分からんでしょ。高校生になってからめっきり行ってないし、前を走る円芭のなびくワンピの裾を凝視して一瞬の大きな風を待つ。だって男だもん。
「あ、もう結構人いるかも」
「自転車いっぱいだな」
そんなゲスい期待は惜しくも打ち砕かれた。着いてしまったよ。駐輪場はチャリンコチャリンコ。
イベントでもあるのかと思うほど。その中に自転車を止め、一際目立つ大きなタワーを見上げる。
「あ、それ新しく出来たやつ。頂上から見える景色がヤバいらしい」
「ヤバいんだ」
「うん。今日見てみよ」
「実はそういう景色好きなんだ」
高さ的に町を見渡せそう。あれマジで癒やされる。ていうか、高所恐怖症なんだけどこれは別なんだよね。
「祐高所恐怖症じゃなかったっけ?」
「ここはまだ囲いのあるところだからセーフ」
「見渡せる系のところって大体囲いあるんじゃない?」
「あ、そっか」
囲いないのって絶叫系か。俺としたことが、ウキウキしすぎてトンチンカンなことを言ってしまったぜ。
「と言っても、最初にここは登らないけど」
「登らないのかい!」
「こういうのは最初に行くものじゃないんだよ。おぼえておいたほうがいいからね」
「分かった」
テスト出す的なこと? 今後の疑似恋でデートの時試されるっていうことかもしれない。スマホのメモにカキカキしておこう。
「この先に開けた草原? 芝生があるから」
「そこに行くのか」
「うん」
「え、何しに?」
なにも遊べそうな物持ってきてない。まさか寝転んで空を見るのかな。曇り空よ?
「そろそろお昼でしょ?」
「まぁ、そうだね」
「サンドウィッチ作ってき――」
「あれ、祐君!」
お、レアな円芭の手作りが食えると遮られたワードの中で認識した。横槍を入れてきたのは、ジョギングウェア? 姿のあさひ。
片耳にイヤホン。今どきの子かお前。つか、息上がってないのはどゆこと。普通走っていたら、少しぐらい息が乱れるよね?
「私もいるけどね」
名前が上がらず存在を主張する円芭。毎回あさひのやつ円芭のこと空気にしすぎだよな。
「ニショット珍しいんじゃない?」
「幼なじみだから普通」
「良いセリフ見つけたね」
「水野さんが先手だけど?」
会話は普通にするんだもんよ。フォローがしづらい。ていうか、ここデートスポットよね。そんな中よくもまぁ平然とジョギングできるよな。
「あれ、そうだっけ?」
「そうですっ」
「いつもここでジョギングしてんのか?」
「ダイエット」
「「ダイエット?」」
この人骨と皮と胸になりたいの? 鍛える目的ですよねまさか。ハモっちゃったよ。ちょっと恥ずいっ。
「ちょっと暑いんだからこれ以上暑くしないで。ホント一層付き合ってよ、もう」
ハモったのが気に入らなかったか、あさひがオコオコ。耳に手をあて、走り去っていった。よし、これで円芭の手作りサンドウィッチにありつける。
「珍しいね。あのくらいで怒るなんて」
「暑いから沸点が低かったんじゃないか」
「まぁ、いっか。どう? 広くない気持ちよくないっ」
広場につき、円芭は腰を下ろして芝生にテンションをあげている。自分がワンピ着てること忘れてないかこいつ。
足を伸ばしてる。周りにいるカップルの男が円芭をチラチラ見ているのに気がついた。自分の彼女の見ろよという目線を送り、円芭を自分で隠してやる。ていうか、なんでパンツ見えない! 正面に来れば見えると思ったのにっ。
「気持ちいいな。フカフカしてる」
「でしょ。ウチの庭に欲しい」
「横になるのか?」
「うんっ。絶対気持ちいいもん」
「その時は、俺も参加させてくれ」
「じゃあ、質問。さっきから私の足。主に上の方見てましたか。正直に答えてくれたら参加させてあげる」
ば、バレてたっ。こっちを円芭が見ていないときを狙ったのに。女子の観察眼恐るべし。正直に白状しましょう。
「見てましたっ」
「お、ホントに正直に答えたね。特典としてウチでの芝生上での睡眠権とサンドウィッチをプレゼントします」
と言って、伸ばした足を女の子座りに直し、隣に置いていたバックから箱を取り出した。……見えちゃった。純白の布が。これは宣言しなくていいよね。ラッキー!
「サンキュ!」
「フルーツサンドあるんだけど、一番最後に食べてね」
「分かった」
ん? そもそもサンドウィッチに関しては、端からここで食べる手はずでしたよね。あさひの出現で忘れてたけど。
「はい、祐。ウェットティッシュ」
「サンキュ」
「ちょっと冷たいかもしれない。保冷剤入れてたから」
むしろ入れてなかったら今ごろ食べられませんよ、自分。とサンドウィッチ自身が腐ってること主張してくるからな。というか、サンドウィッチが熱々でも困る。
「気にしない気にしない。頂きます」
「……」
お、ハムマヨ。旨い。円芭が作ったかと思うとなおのこと旨い。ただ食べにくいわ。大きな目二つが気になって気になって。よくリポーターとかカメラの前で食べられるよな。
「……どう?」
「旨い」
「良かった。ここツナマヨ」
胸を撫で下ろし、間髪入れずにぎっしり詰まったパンの中央部分を指差す。
「お、マジか」
「妃奈子から聞いて祐の好みに近づけたけど」
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