第ニ章第三話ー8

 なんだその反応は。

 若干口角が上がったような気がする。

 ったく、他人事だと思って······。


「よくあんな大勢人がいる中振れたよね」

「そんなの気にしてられない」

「まぁ、そうだよね」



 グゥ……。


 ずいぶんでかい腹の虫だな。

 誰だ? ちなみに、俺じゃない。


「「……」」


 こういうときって黙っちゃうよね。

 最初に喋り出した奴が腹の虫の張本人だ。


「ひ、妃奈子お腹減った~」


 円芭かよっ。

 まぁ、どうってほどのことじゃないけどさ。

 腹の虫は抑まえようと思っても鳴ってしまうから。

 ただなんというか意外だった。


「じゃあ、食べてく?」

「うん!」

「あれ、円ちゃんじゃんっ」


 この声は、お袋!?

 一体いつ帰ってきたっ。

 リビングの扉は、円芭がしっかり閉めていたはず。

 無駄に静かに開ける必要なくね?


「おじゃましてます」


 つか、帰ってくるタイミングが悪すぎる!

 お袋に円芭が会釈した。

 うわ~、凄い変わりようだ。

 さすが猫系女子とでも言っておこう。


「どうしたの? 祐に会いに来たとか?」

「ある真意を確認しに来たんだよ、円ちゃんは」

「ある真意?」

「祐君、文化祭でコクられたのクラスの子に」

「ふーん」


 こ、怖っ。

 さっきまでのほんわかさはどこへやら。

 とてもひんやりとしてそうな冷たいオーラを身にまとったみたいだ。


「まぁ、断ったけどな」

「それで円ちゃん。夕飯食べてく?」


 えぇ~、なんかスルーされたんですけど。

 理不尽な怒りは止めてほしい。


「はい、食べていきます」

「そうと決まれば、張り切らなきゃだね!」


 お袋には、今後コクったコクられた云々の話は言わないようにしよ。



 ☆☆☆



 いつになく騒がしい夕飯となった翌日。

 文化祭による振り替え休日。

 伊津美からメールが来て、ゲーセンにいる。


「なんかごめんね」

「なんで謝る?」


 来て早々謝られるとかビックリなんだけど。

 しかも、身に覚えがない。


「さっきまでくつろいでたんでしょ」

「気にすんな気にすんな。やることなくて暇してゴロゴロしてたから」

「そうか」

「だから折角ゲーセンに来たし、楽しもうぜ」

「うん!」


 ようやく口角を上げた。

 やっぱり一緒に遊ぶ人が悲しそうな顔してたらやりにくいからな。


「んで、なにやるよ?」

「クレームゲーム」


 またプリクラって言われたらどうしようかと思った。


「おしっ、目標五百円以内で取るか」

「いや、さすがに五百円以内は無理じゃない?」

「やるまえから諦めるなよ……」


 張り切って腕まくりした俺の身にもなってほしい。

 恥ずかしいじゃないかっ。


「だって、最近の初期位置が五百円以内で取れなさそうなところにあるんだもんっ」

「やけに気持ちこもってんな」

「小遣い半分飛んでいった」


 意外だ。伊津美がそこまで熱中するなんて。

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