第一章第七話ー2
絶妙に微妙な味だった。
今日の朝ごはんは目玉焼きとハンバーグ。
朝から手作りハンバーグというのは少し重い気がするが、どうして目玉焼きとハンバーグであんなに微妙な味に仕上げることができるのか不思議でたまらない。
しかも、それでいてマズいわけではないし。
「今日は、連絡事項多分無いから」
多分ってなんだよ。
朝のホームルームも終盤担任があやふやなことを言った。
俺が登校してきた時点で教室に担任が既にいたのだが、一体なんのために居たのかね?
てっきり重要なことを伝えたくて早く居るのかと思ったんだけど、俺の思い違いらしい。
「それじゃあ、今日のホームルーム終わり」
そう言って手を叩き、担任が教室から消えた。
一時間目が始まる前のちょっとした時間で友達と話そうとクラスメイト達が席を立ち始める。
五分くらいしかないのに、よく席外せるな。
またすぐ座ることが分かってるのに、わざわざそんなめんどくさいこと朝からしたくない。
「来たぞー」
のそのそと諒がやって来た。
こいつはめんどくさいと思わないタイプか。
「来んなー」
「酷いなっ」
「何しに来たんだよ」
「特に用はない」
「やっぱりそうだろ?」
「だって、少しでも話したいじゃん」
「お、おう」
「だから来た」
よくもまぁ、そんな恥ずかしいことでかい声で言えるな。
俺の正面に来た諒は笑顔を浮かべている。
はぁ……。
「ため息つくなよ」
「してねぇよ」
気づかれないようにしたつもりだったのに。
こいつ余計な時によく見てやがって!
「今日自由時間何したらいいかね?」
「自分で決めろよ」
「つれねえな」
キーンコーンカーンコーン。
「ほら、チャイム鳴ったぞ」
「仕方ない。さらばだっ」
これ以上めんどくさい友人と会話したくなかったので、鐘の音を言い訳にして着席させた。
やっと一息つける。
少なくとも一時間目の担任が来るまでは。
「おはようさん」
一つも一息つけずして、担当教師が来てしまった。
……あのヤロー。
「今日は、社会の先生が来れなくなってしまったので、代わりにワシが授業をやる」
諒に対する怒りで、よく担当教師の姿を見ていなかったが、見知らぬ人物が教壇に立っていた。
担当教師が来れなくなったって風邪か?
いやまぁ、来れなくなろうがなかろうが、別に俺はまったく興味ないんだけど。
なんというかこう成り行きで気になっちゃうよね。
「そんなわけで、教科書をしまえ」
何を言ってんだ、このじいさんはっ。
教科書をしまってしまったら、どうやって授業をやっていくんだよ。
「んじゃ、俺は当校のマスコットを探しに出かけてくるから」
そう言ってじいさんが教室を出ていってしまった。
今年の先生達にまともな人はいないのか……!
……。…………。そうでもなかった。
二・三・四時間目までの担当教師は至って普通。
いわゆる人によるということらしい。
良かった良かった。
あんなのがいっぱいいたら二年ながら編入を考えてしまうところだったよ。
「今日はゲストを呼んでるぞ」
一人で納得し、俺が頭を上下に動かして頷いていたら、諒がやってきた。
時は昼。共に昼食を取ろうと足を伸ばしてくれたようだ。
しかもどうにもご丁寧にゲストを呼んでるらしい。
諒の後ろにスカートの布が見える。
あれ、こいつがまさかの女子を!?
いや、違うな。
あれは、伊津美だ。
というのも、伊津美には女の子疑惑が巷で広がっている。
顔・体形はもちろんプールも毎度入らないらしいし、私服も女の子寄りの物を着用。
怪しまれる要素を多量に持っている。
そんなわけで諒の後ろにいるスカートの主はいづみに違いない。
「お、お邪魔するわ」
なんということでしょう。
長田が”スカートの主“だった。
よく考えればいづみが堂々と女装して他クラスに来るわけがない。
あまりに諒が女の子をつれているのが珍しくて取り乱してしまった。
「おう」
「何かこいつがいっ――グワッ!
長田が何かを言いかけた諒の腹を殴った。
その目に光はない。
「こいつ?」
「す、すまん」
「た、たまには一緒に食べたいなと思っただけよ。他意はないわ」
「そうか」
すったもんだなにやってんだ、こいつらは。
珍しいけどな、長田が一緒に食べたいなんて言うのは。
しかも、長田の弁当の中身がわずかながら気になるし。
「ダメかしら?」
「いや、構わないぞ」
「じゃあ、遠慮なく」
と言って、鞄から取りだし長田が開けたそれは、パンの袋だった。
パンかよ!
「今日はもう寝ても大丈夫な教科だな」
「いや、寝るなよ」
寝てても大丈夫な教科なんてあるわけないだろ。
全部単位制なんだから。
諒のやつ高校生の自覚がまだないみたいだな。
そろそろ自覚持たないと色々ヤバい気がする。
色々の意味は分からないけど。
「そうよ。私のところなんか数学なんだから」
「これはこれは失礼しました」
「……あんたの弁当床にあげるわ」
諒の弁当を持ってあやしく口角をあげる長田。
怖っ!
悪魔ですわ。
絶対前世悪魔に違いない。
「あーー!ごめんなさいごめんなさいっ」
「まったく。冗談もいい加減にしなさいよ」
「はい!」
「……」
返された弁当を受け取って安堵の表情を浮かべている諒を見て、凄く他人事には感じなかった。
まるで、俺と円芭のやり取りを俯瞰的に見てるようで……。
☆☆☆
腕が痛い。
今日の課題は、某新聞会社が後援の速打ち。
俺が所属している情報化学部は、科学をやらないまでも情報の勉強はする。
そんなわけで、その一貫としてパソコンのキーボードの速打ちを鍛えるわけであるが、十分というのはあまりに長い。
今は、課題の時間は終わり自由時間。
「何見ようかな~」
完全に俺に体を向け、諒が呟いた。
シカトシカト。
「……」
「おい、祐。聞いてるのか?」
「一人言じゃないのかよ」
「いやいや、お前の顔を見て言ったろ」
「声の大きさのレベルが問いかけてるように聞こえなかったし」
「……マジで」
嘘に決まってるだろ。
「つか、早く決めないと時間無くなるぞ」
「分かってるけど、こういうときに限って思い浮かばないんだよ」
「そんなこと言われてもな……」
正直どうでもいい。
あと、一緒に考えたら俺の自由時間がなくなってしまう。
『……』
ん?
何か今香水の匂いがしたような。
しかも、嗅いだことある。
この匂いは……高田先輩か?
「あ……」
ビンゴ。
匂いのする方向へ振り向いたら、やっぱり高田先輩がイスに座って近づいてきていた。
「どうしたんですか、高田先輩」
「よく気づいたね」
「な、何となく気配を感じたので」
匂いで気づいたとは言えない。
変態のレッテルを張られる可能性がありそうだ。
「そうなんだ」
眩しい笑顔を浮かべる高田先輩。
そんなに嬉しいこと言ったか、俺。
「ところで、なにか用ですか?」
「そうだったっ。夏と言ったらなんだと思う?」
「かき氷・夏祭りですね」
「違うよっ。ホラーだよ!」
じゃあ、何で訊いたんだよ。
つか、夏イコールホラーは別に決定事項じゃないだろ。
冬にもたまにホラー番組やるし。
あと、どこからかの視線が痛い。
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