第一章第四話ー5

 暑い。凄い暑い。

 まだ六月に入っていないというのに三十度超え。

 年々気温が上がっていってるのをひしひし感じている。


 これも温暖化の影響かと思うが、こんなに暑くてもまだ扇風機を取りつけないウチの学校はどうかしてる。

 知り合いの学校には、すでに導入されているらしい。

 いっそうエアコンでもいいから取り付けてほしい。

 夏休みが半減してもこの際構わない。

 まぁ、ウチの校長じゃ無理だろうけど。


「プールじゃ~!」


 更衣室内に諒の雄叫びが木霊した。

 そう。今日の体育は水泳。


「そんなはしゃぐなよ。恥ずかしい……」

「だって、プールに入れるんだぞっ」

「気持ちは分かる。けど、そこまでじゃない」


 高二にもなる男が、少年のようなはしゃぎ方なんて普通出来ないだろ。

 他のクラスメイトにもバカにされた諒は、『おかしいな……』と自分との認識の違いに戸惑っていた。

 これを機に一般の考えを身につけてほしい。


 にしても、男子更衣室はなんで暑苦しんだろ。

 別に女子更衣室に入ったことがある訳じゃないけど、もう少しどうにかならないもんかね。


「今日は自由っ。いつも課題ばかりじゃ嫌になるだろ」


 更衣室を出てすぐ、テントの下で横になった体育教師がそう言った。

 ただ単に監視するのがめんどくさいだけだろ。

 準備運動さえも指示しなかったが、さすがにみんな溺れ死ぬのは嫌なのか各自身体を温めていた。


「何してようかな~」


 俺らも念入りに準備運動を済ませ、プール倉庫に足を運んでいる。

 諒が遊ぶ道具はないかと言い出したのだ。

 ホントこいつの元気のよさには驚かされるわ。


「ボールかなんかで遊ぶ気なら俺は遠慮しとくわ」

「ホント祐はこういうの好きじゃないよな」

「超がつくほど嫌いだわ」


 せっかく自由だっていうのに、わざわざ疲れることはしたくない。

 あと、ボールとかで遊ぶと周りから視線が来て目立つから嫌なのである。


「しょうがない。じゃあ、観察でもしてるか」

「またかよ。知らないからな、俺は」


 こいつの言う”観察“というのは、水中に潜って女子の水着を文字通り観察することだ。

 男なら少なからずやりたい気持ちが芽生えるかと思うが、公共の施設でこのような行為に及んだ場合犯罪になるような感じがする。

 しかも、一度や二度じゃないので、バレるのももう時間の問題だろう。


 知り合いが指導されるのはあまり良い気持ちではないが、裁かれる事案なのでどうすることもできない。

 チャポンッ。

 あ~あ、しーらないっと。

 実に小気味良い水音を立て諒が潜った。


「何してんの、諒は」

「円芭か……っ!」


 声で円芭と認識して振り返ったら、プールサイドに立っている円芭がいた。

 ……そう。

 必然的に目は水着を捉えてしまう。

 諒よりもコンディション良く水着見れてね?

 水の中だと水着を見ると言っても限度がある。


「居ちゃまずいなら別のところ行くけど」

「そ、そんなこと言ってないだろ」

「勘違いするような言い方しないで。ところで、諒は何してんの? 何か落としたとか?」


 ……。…………。

 やべぇ。

 これは、正直に水着を見ていると言うべきかっ。

 それともゴーグル落としたと嘘つくか。


 前者を取ってしまうと、諒に対する円芭の印象はがた落ち間違い無しだ。

 かと言って後者は、こいつのやってる行為を肯定してるみたいで嫌だし……。

 う~ん。


「ね、ねぇ祐」

「ど、どうした?」

「何か諒のいるところ赤くなってない?」

「えっ!?」


 円芭に指摘された通り諒のいるところを見たら薄く赤くなっていた。

 興奮して鼻血とか今どき小学生でもやらねぇぞ……。

 俺は、そう心の中で突っ込みながら、円芭に先生を呼んでもらった。



 ☆ ☆ ☆



 諒の鼻血事件ではないが、テストで鼻血赤点を出したくないということで、俺と妃奈子・円芭の三人は残りのメンバーには内緒で勉強会を開いている。

 こうして改めて六月までの勉強したところを振り返ると、ウチの高校の低レベルさが分かる。

 明らかに、これを高校で習うか? という単語が羅列しているし。

 まぁ、訳が分からない感じばっかりでも困るけど。


「祐君、これなんて読むの?」

「ちょっとくらい自力で読めよ」

「ごうなき」

「お、お前マジで言ってるのか?」

「う、うん。え? ってことは、違うの?」

「違うな」


 ちなみに、問題は”号泣“

 いやまぁ、”泣“が入ってるし、ごうなきとも読めなくないけど。

 よくこいつ入試落ちなかったな。


「そろそろ休憩する?」

「まだ一時間もやってないぞ」

「祐君だけやってればいいじゃん」

「あ、そうだ。疑似恋シチュやりますっ」

「は?」


 ど、どうしたこいつっ。

 何の前触れもなく円芭が立ち上がり、俺の横に座った。


「しばらくやってなかったな。というか、やってなかった」

「だから今やるの」

「……」


 え、どこが?

 いつもと何のへんてつもないけど。


「やっぱり無理っ!」

「うぎゃ!」


 ガシャガシャーン!


 唐突に横に座ってきて、唐突に突き飛ばすってどんなシチュエーションなの!?

 つか、腰打ったっ。

 これは、先が思いやられるな……。

 あ~、痛い。

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