第五話「無意識クッキー」
第一章第五話ー1
六月は梅雨の季節。
その光景は、思わず写真を撮りたくなってしまうほど。
だがしかし、今年は六月に入って一度も雨が降らず、けれどもジメジメはしているという最悪な梅雨だ。
どこかのダムでは、水が極端に減ってしまっているとニュースでやっていた。
この季節に節水なんて言われた日にゃ地獄だぜ……。
まだ騒がれていない内にミネラルウォーターでも買っておこうかな。
朝食を摂り終え三時間超え。
この時間ならデパート開いてるだろ。
自室を出て、妹の部屋のドアをノックした。
たまには、妹と出かけよう。
(……に……?)
部屋の中からうっすら声が聞こえてきた。
「出かけようぜ」
ガチャ。
部屋の扉が開き、妃奈子が姿を現した。
上から下までジャージというラフな格好をしている。
今日が日曜日ということもあり、当然と言えば当然の格好かと思うが、さすがに寝巻きのままは女子としてどうなんだ。
……それとも俺が知らないだけで女子ってこんなものなのだろうか。
「えー……。ゆっくりしたい」
肩を落とし、俺の誘いを断る妃奈子。
前までならすんなりついてきたのに。
兄離れを宣言しただけあって、妃奈子の意思は固そう。
ちょっと誘惑してみよう。
「アイスおごってやるぞ」
「行きましょう!」
まんまと引っかかりやがった。
しかも、半ば食い気味だったけど。
甘いものでつられるとかさすが女子。
「着替えてくる」
「お、おう」
さっきまで不機嫌さはどこへやら。
とても上機嫌になった妃奈子はドアを閉めるのを忘れ、上のジャージを脱ぎ始めた。
バタン。
閉めてやった。
兄妹だからってなんでもありかっ。
こいつはあれだな。
結婚したら恥ずかしさが年を追うごとに薄れていくタイプだ。
いや~、兄妹で良かった。
にしても、いくら兄妹だがらって着替えのときくらい恥じらいを持ってほしい。
白いブラを見てしまった身にもなってほしいもんだ。
どうせ見るならかず――ゲフンゲフン!
可愛いらしいそれを記憶から消しつつ、妃奈子の着替えを待つ。
ダメだ、頭から離れない。
ガチャ。
タイミング悪っ!
「ごめん、待った?」
出てきた妃奈子は、お初にお目にかかるワンピースを着ていた。
こいつがスカート着るなんて珍しいな。
「待ってない」
「なら良かった」
「行くぞ」
「うん!」
ガチャ。
妃奈子と共に階下へ降りようとしたら、扉が開く音。
そこへ振り向くと、両親が自室から出てきていた。
あ、そうだ。
確か先日見た広告には、お一人様二ケースまでと書かれてあった気がする。
これは、この二人にも付き合ってもらわなきゃだな。
「なんだ、出かけるのか?」
「ああ」
「もしかして二人で?」
「さっきまでそう思ってたけど、気が変わった」
「良かった~。私嫌よ。自分の息子・娘がブラコンシスコンとか」
「断じて違うから安心しろ」
どうしてすぐそういう考えになるのか俺にはさっぱりだ。
兄妹で出かけるってだけでシスコンだ、ブラコンだと言われたら、世の仲のよい兄妹はみんな該当してしまう。
「それから親父車出してくれ」
「え、嫌だけど」
「なんで」
「車にも休暇が必要なんだよ」
「は?」
何を言ってんだ、このバカは。
車に休暇なんて必要ねぇし。
メンテナンスはしなきゃいけないかもしれないが。
つか、自分が行きたくないだけだろ。
「お父さん今の車に愛着あるの?」
「いや、無い」
「「……」」
これはヒドい。
しれっとした顔で言われたので、もはや言い返す気力もないわ。
「というか、なんでそんなに私達と一緒にいきたいの?」
言葉を無くした俺らにお袋が興味を示してきた。
よし、お袋を味方につけてやろ!
「ミネラルウォーターが安いからだよ」
「ま、マジで!?」
「しかも、一人二ケースまで」
「是非行こうっ」
ちょろっ。
お袋がこちら側に付き、親父の表情に変化が生じた。
明らかに焦っている。
「だ、第一自転車でも大丈夫だろ」
「俺なら大丈夫かもしれないが、妃奈子がもしケースが重くてバランス崩して怪我したら大変じゃないか」
「もしそうなったらお前を殺る……」
こ、こわっ!
これは意地でも車で行ってもらわないと。
つか、実の息子に殺意のこもった目を向けるか普通。
「その前に親父が車出した方が早いだろ」
「何か俺ばっかり集中して言ってるみたいだが、お母さんだって運転出来るんだからな?」
「「……」」
なんてことを言い出すんだ、バカ親父はー!
親父の発言に妃奈子と共に俺は言葉を無くす。
お袋と目を合わせたら最後。
目を合わせたら最後。
「あ、あからさまに目を逸らされると傷つくんですけど……」
「だ、だってお母さんの運転荒いんだもん」
「そ、そうかしら?」
自分は分からないだろうな。
首を傾げるお袋にイラ立ちを覚える。
妃奈子の言う通りお袋の運転は荒い。
まるで中途半端に怖いジェットコースターにのっているかのような運転さばき。
普段乗り物酔いをほとんどしない俺だが、お袋の運転では酔ってしまう。
「そうなんだよ」
「というわけだから、お父さん。車出して」
「……はぁ。分かったよ」
☆☆☆
半ば強引に親父に車を出してもらい、お目当てのミネラルウォーター(八ケース)を購入。
それを車のトランクに詰め込んだ後親父たちには帰ってもらい、再び俺らはスーパーに戻り妹との約束を果たすことにした。
「ここのアイス一回食べたいって思ってたの」
「そうか。それは良かった」
こんなに喜んでくれるなら、奢り甲斐がある。
目をキラキラさせはしゃぐ妹を見て思わず口角が上がってしまう。
「どれにしようかな~」
店の前に着き、可愛らしい文字で書かれた黒板風の看板に目を落とす妃奈子。
俺も妹に続きメニューを拝見。
なになに?
『店長おすすめ! 冷やし中華味』!?
正気かここの店長っ。
いくら暑いからってその味は無いだろ……。
「あ、チョコとバニラのソフトクリームにしよう」
良かった~。
こいつのことだから変わった味をチョイスするかと思っていたが、さすがにチャレンジャーではなかったようだ。
俺は、妃奈子の言ったソフトクリームを注文した。
「ありがと、祐君」
「どいたま」
「そう言えば、この間言ったソフトクリーム屋さんでね。可愛い店員さんがいたの」
「どんな店員だったんだ?」
「巻こう巻こうとしてるんだけど、絶対に丸になるの」
「巻くのが初めてだったんじゃないか?」
「多分ね。にしても、慌てぶりが可愛かった~」
慌てぶりが可愛かったというが、実際にソフトクリームをみんなが想像しているような形にさせるのは意外と難しいらしい。
この間テレビでやっていた。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
店員に礼を言いながら、近くに設置されていたベンチに腰を下ろす。
「やっぱり夏はアイスだよね~」
「頭キィーンってなるけどな」
「え、ソフトクリームはならないでしょ」
細かいこと気にするなよっ。
「俺なるけど」
「大丈夫? 祐君。知覚過敏?」
「失礼なっ。つか、早く食え。溶けかけてるぞ」
歯医者で検査してないから分からないけど、多分知覚過敏。
心当たりあると正直にはいそうですとは言えないよな。
「うわっ」
と、わずかに垂れていた部分を下から上へ舐める。
……エロッ!
妹にこの感情を抱くのは間違ってるのかもしれないが、エロいものはエロい。
こんなことなら溶けかけてるなんて言わなければ良かった。
「やっぱ冷房かかってても、溶けるものは溶けるんだね」
「そ、そうだな」
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